金銭の贈与とその相続税対策効果

私の父は、本年土地を売却し多額の現金収入がありました。他にも土地をそこそこ持っているので、将来の相続税が心配です。

そこで、現金を長年に渡って贈与を受ければ相続税対策になると聞いたのですが、注意点などありましたら教えてほしいのですが。  

 

 

  金融資産を沢山お持ちの方は金銭の生前贈与を複数の人に何年もかけて行えば相続対策としての効果は相当期待できます。しかし、預金の名義を子や孫にしているものの祖父母や親が実質管理していることから贈与としての要件を満たしておらず、税務調査で後日トラブルになる事例も多く見受けられます。そこで、以下に金銭の贈与を行う上での留意点につきまとめてみました。

1.贈与を受けたことの意思を明らかにする  

民法上贈与は、贈与者による贈与の意思表示と受贈者による受贈の意思表示をもって成立する契約(諾成契約)行為です。つまり、「この財産あげますよ」に対して、「もらいますよ」という意思表示があってはじめて成立することになります。従って、贈与の事実を明らかにするためにも「贈与契約書」(下記参照)を作成し、いつ・誰が・何を・誰に・贈与し受託する旨を記載し、当事者の署名押印をしておきます。できれば、公証人による確定日付を押印しておけば、時期についての証明になるのでより確実です。

                                (現金贈与の場合の贈与契約書の文例)

 

       

 

  贈与者                はその所有する現金                 を、本日

受贈者                 に贈与することを約し、受贈者はこれを承諾した。

 

  上記の契約を証するため本契約書2通を作成し、贈与者・受贈者は署名押印のうえ、

後日のため各自その1通を保有する。

                                            平成             

     贈与者                                              

                                                             

 

       受贈者                                             

                          

                                                                      

 

2.財産移転の証拠を残す

契約書があっても形式的なものにすぎないことが多いので、例えば、父から子に現金を贈与する場合、現金を父の銀行口座から子の銀行口座に一時に振込し、預金通帳に現金の移転の証拠を残すようにします。相続の時に税務署はすべての家族名義の預金口座を数年間遡って動きを見ますので、あえて、後にお金の流れを追跡できるようにしておくのです。 

3.贈与した財産の管理などは受贈者が行う

 贈与を受けた口座の通帳および印鑑は受贈者が管理するようにしましょう。受贈者の預金口座の開設や引出は、受贈者自身が行います。特に受贈者と贈与者が遠隔地に住んでいる場合は、受贈者の銀行口座は受贈者の最寄りに作ることをお薦めします。例えば、子供に現金を贈与したと主張しても通帳も印鑑も父が所持したままでは贈与による財産の移転があったとは認められません。又、父の銀行印を贈与者である子の銀行印としても使っていることもよくありますがこれも問題ありです。預貯金などは別名義で口座を作っても単なる「名義借り」であって、実質は父の所有財産(つまり贈与がなかったもの)と判断され、相続のときには相続財産として相続税が課税されることになります。これは実際にあった話です。  

 4.贈与税の申告・納付を受贈者が行う

 贈与税の基礎控除は年110万円ですが、超えた金額については受贈者が申告・納付を行います。贈与者が贈与税の肩代わりをすると、そこにもまた贈与税がかかります。小額の贈与税の申告を行うことも有効ですが、その場合でも上記13の要件を満たさないと贈与があったとは認められませんので注意が必要です。

5.生前贈与加算(相続税精算課税制度を除く一般贈与)に注意

相続人が相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産は、相続財産に含めて相続税の計算を行うことになります。但し、相続人以外への孫などへの贈与や贈与税の配偶者控除の適用を受けた金額に相当する部分は相続財産に含める必要はありません。

  6.金銭贈与による相続税効果

  もともと贈与税は相続税を補完する目的で導入されたもので、同じ課税価額では相続税よりも税負担が大きくなるようになっています。従いまして、相続税対策として金銭等の贈与を行うには、相続税の軽減額より毎年の贈与税の累計税負担が少なくなるように贈与する金額を設定する必要があります。そこで、効果的な贈与の金額を次の設例を通じて検証していきたいと思います。

(設 例)

相 続 人         配偶者と子2人(子は20歳以上)

相続財産の課税価額(贈与前) 3億円

贈 与 年 数        10年間

受 贈 者         相続人3人

  2015(平成27)年税制改正後     (単位:千円)   

年贈与金額

110万円

260万円

310万円

360万円

460万円

贈与税負担額

0

   4,500

6,000

  8,250

12,750

相続税軽減額

-5,775

-12,350

-14,225

-16,100

-19,775

差 引 効 果

-5,775

 -7,850

-8,225

-7,850

-7,025

1.年贈与金額は、一年当りの受贈者一人への金額です。贈与総額は、年贈与金額×3人×10年となります。

2.現行税法が当初より10年継続するものとしています。

3.相続税の計算上、法定相続分で遺産分割するものとして配偶者税額軽減を適用しています。3年以内贈与税の加算及び贈与税額控除は考慮していません

(解 説)

上記の表では年310万円の贈与が最も効果があります。一方、毎年700万円以上の贈与だと、相続税の軽減額より贈与税負担のほうが大きくなってしまいますので効果はありません。又、受贈者が贈与を受けた金銭等で生命保険に加入することにより納税資金の準備となりさらに効果的です。

(留意事項)

1.贈与による財産移転の証拠を残し、贈与財産は受贈者が管理する。(上記参照)

2.法定相続人への贈与は生前贈与加算の適用あり

相続開始前3年以内の法定相続人への贈与財産は、相続財産に加算しなければなりませんので、その間の贈与の効果はなくなります。但し、孫や子供の配偶者など法定相続人以外の者への贈与であればその影響はなくなりますので効果的です。

3.相続財産の価額は毎年変動する

上記の設例の試算は、相続財産の価額が変動しないという前提で行っています。実施に当っては、土地や株式などの価額や財産内容の変動を考慮して行うことが必要です。

以 上