危ない名義預金

 

  私は不動産賃貸を行っている地主ですが、将来の相続税対策のために子供名義の預金に毎年私の普通預金口座から資金を移動しています。

子供名義であっても相続税がかかることもあると聞いたのですがどのような点に注意すれば良いでしょうか?

 2015年の相続税の増税により、現在相続税がかかる被相続人の割合が1.5倍になることが見込まれています。私も開業して10年余りで30数件の相続税の申告を行ってきた経験からいえるのは、相続税の税務調査で問題になる大半は「名義預金等(株式や投資信託含む)」であります。実際相続税調査事績によれば、申告漏れ財産のうち、金融資産は52.2%となっています。相続税の税務調査は、金融資産の申告漏れの調査といっても過言ではありません。

そこで、相続税の税務調査で「名義預金」と言われないように留意すべ事項を以下にまとめてみました。  

1. 名義預金とは

形式的には配偶者や子・孫などの名義で預貯金しているが、収入等から考えれば実質的にはそれ以外の真の所有者がいる、つまり、それらの親族に名義を借りているに過ぎない預貯金をいいます。

2. 名義預金と判定される可能性が高い預貯金

@  嫁いだ娘の旧姓名義のままの預貯金

A  名義人の住所や勤務地と遠く離れた親の近くの取引銀行等に預け入れられている預貯金

B  入金のみで引き出しが長年にわたって行われていない預貯金

C  銀行等への届出印が親と同一の預貯金

D  定期預金等の満期・預け替え等の手続きが名義人の自筆ではなく親が行っている預貯金

E  長年専業主婦であった妻の預貯金等で、その預貯金等の原資を明確にできないとき     

3. 贈与税の時効が成立しているからセーフ?

   例えば、相続税の税務調査で相続人が「名義預金がされたのが10年位前なので、贈与税の7年の時効が成立しているから相続財産ではなくセーフだ」、と都合良く主張する人がいますが、これはアウトです。過去の調査の否認事例や裁決・判例などにおいても、管理処分権や預貯金と原資などを判定し、相続人の主張はほとんど退けられています。

そもそも、贈与というのは民法上、贈与者の「この財産あげますよ」に対し受贈者の「もらいますよ」という双方の意思表示があってはじめて成立する契約行為(諾成契約)なので、子が知らないうちに勝手に親が自身の財産を子の名義で預けた預貯金は単に親が子の名義を借りただけ、というのが税務当局の主張となります。

4. 名義預金の認定を避けるために

()贈与を受けたことの意思を明らかにする

贈与の事実を明らかにするためにも「贈与契約書」を作成し、いつ・誰が・何を・誰に・贈与し受領する旨を記載し、当事者の署名押印をしておきます。できれば、公証人による確定日付を押印しておけば、時期についての証明になるのでより確実です。

()財産移転の証拠を残す

契約書があっても形式的なものにすぎないことが多いので、例えば、父から子に現金を贈与する場合、現金を父の銀行口座から子の銀行口座に一時に振込し、預金通帳に現金の移転の証拠を残すようにします。相続の時に税務署はすべての家族名義の預金口座を数年間遡って動きを見ますので、あえて、後にお金の流れを追跡できるようにしておくのです。 

()贈与した財産の管理などは受贈者が行う

 贈与を受けた口座の通帳および印鑑は受贈者が管理するようにしましょう。受贈者の預金口座の開設や引出は、受贈者自身が行います。特に受贈者と贈与者が遠隔地に住んでいる場合は、受贈者の銀行口座は受贈者の最寄りに作ることをお薦めします。

   ()贈与税の申告・納付を受贈者が行う

贈与税の基礎控除は年110万円ですが、超えた金額については受贈者が申告・納付を行います。小額の贈与税の申告を行うことも有効ですが、その場合でも上記(1)(3)の要件を満たさないと贈与があったとは認められませんので注意が必要です。