世界のワンマンショー 「カーペンターズ」


私が小学生の頃、兄がカーペンターズのファンでした。次々と新しいレコードを買ってきては四六時中家の中でかけていたので、私の耳も自然とカレンの歌声になじんてゆきました。もっともあの頃のカーペンターズといえば、まさに世界にその名を知らぬ者なしというぐらいの人気でしたよね。この番組はそのカーペンターズ初のTVスペシャルです。ジョンはゲストとして登場、出番は多くありませんが、抒情あふれる弾き語りの「詩と祈りと誓い」はなかなかの感動ものです。70年代に人気を二分したといってもよいジョンとカーペンターズの競演番組ということで、これは必見! それにそれに、クレジットにも紹介されていないのですが、ジョンとゆかりの深い「あの方」が、ワンシーンだけ特別出演してるのですよ。

 
オープニングはリチャードのピアノ伴奏にしっとりと合わせて歌うカレン。曲は「愛のプレリュード」(We've Only Just Begun)。このあとすぐ「僕はリチャート」「私はカレン」と自己紹介、そして「今日のゲストはビクター・ボーガとジョン・デンバーなの。イェ〜イ」と手をたたくふたり。
これがクレジット・タイトル。懐かしい"CARPENTERS"のロゴですね。
タイトル・バックに流れるインスト音楽の録音中です。オーケストラを指揮するリチャード。カレンが解説します。「またやってる。指揮をしてればご機嫌なの。こうやって後から音楽をつけるのよ」。
カーペンターズといえば、この曲でしょう。まずは「トップ・オブ・ザ・ワールド」(Top Of The World)。軽快なメロディにのせてのびやかなカレンの歌声が響きます。フルコーラスで楽しめる1曲。
続いてふたりが掛け合い漫才をはじめます。「歌手がやる漫才の時間です。ジョークは歌でやります」と歌いはじめたのが「ボフォ・ノバ」(Boffo Nova)というコミカルな曲。さしずめ「ダジャレのオンパレード」というところですが、英語でダジャレを聞き取ることは容易ではありません。字幕でニュアンスを感じとるのが精一杯というところ。
さて、いよいよわれらがジョンの登場です。もうひとりのゲスト、ビクター・ボーガに続いてカレンが紹介します。

「歌には深い意味があるべきだと主張するジョン・デンバーの前で、あんなくだらない歌を歌ってしまって恥ずかしいわ」。

さっそうと登場したジョン。ご機嫌な笑顔で、

「カレン、君のジョークの歌は最高だったよ。でも僕だってできるよ。♪ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ、僕のムースはムスッとしてる」

さっ、寒い! あきれ果てる共演者たち。見てください、このカレンの顔。

気をとり直してカーペンターズとゲストによる競演です。曲は「クロース・トゥ・ユー」(Close To You)。本来ならばスローバラードのこの曲、今回は吹奏楽団を従えてのにぎやかなマーチ風アレンジで演奏。ラッパやドラムがけたましく鳴り響く中でリチャードがソロ・パートを歌います。
ジョンとカレンは並んでパーカッションとコーラスを担当。

それにしても、すごい大口のカレン。いやいやジョンだって‥‥

場面は突然、カーレースの中継に。「リバーサイド・レースウェイ」というこのレースでアル・アンサーとダニー・アンガイスというプロレーサーに挑むのは、なんとリチャード・カーペンター。
間もなくスタート。アナウンサーがリチャードにインタビューします。

「リチャード、スタートの気分は?」

「やる気満々だが、ひとつわからない。まん中のペダルはブレーキかな?」

おいおい、大丈夫かよ。スタートのフラッグが降られたところでひとまず場面はスタジオへと戻ります。

カレンのソロで「アイ・キャン・ドリーム」(I Can Dream  Can't I)。歌い終わるとゲストの紹介、「気さくな青年、ジョン・デンバーです!」。
ギターを抱えて登場したジョン。静かに「詩と祈りと誓い」を弾きはじめます。JDファンにとっては、ここが最大の見せ場ですね(カレンとリチャードには悪いですが)。
演奏するジョンの姿に、美しい自然の中を歩くジョンの映像がオーバーラップします。色づいた木々、透き通る青い空を水面に映しだす川、木漏れ日さす林の道――やはりジョンには自然がよく似合う――「詩と祈りと誓い」をバックに、素晴らしいインサートシーンです。
それにしても何とも味わい深い歌ですね。

「最近、人生について考えてる。僕のしてきたすべてのこと、それがどうだったのか。僕は自分の心を信じるしかない。終わりなど見たくはないんだ‥‥」

「友と語るのは詩と祈りと誓い、そして僕たちの信じてきたこと。誰かを愛するってことがどれだけ素敵なことか。相手を気遣うことがどれだけ素晴らしいことか。昨日からどれくらい時間がたったろうか。明日はどんな日になるだろう。僕たちの夢は? そして思い出は?」

こんな哲学的な詩を書いた時、ジョンはまだ20代の青年だったんですよ!

沈みゆく夕日にむかって岩山を登るジョン。暗くなりかけた空にシルエットが浮かび上がります。山頂にたどり着いたところで演奏が終わります。
さて、ふたたびカーレース場に戻ります。デッドヒートを制するのは一体誰なのか。観衆も思わず息をのむ瞬間です。
なんと1着でゴールインしたのはリチャード・カーペンター。予想を覆しての勝利です。アナウンサーも、「信じがたい痛快事!」と声をあらげます。
観衆の大喝采にこたえて手を降るリチャード。そこへ祝福に現れた女性がいきなりリチャードに近寄り‥‥

アナウンサーも興奮ぎみ。「オリビアのキスまで受けます」と絶叫です。

「オリビアのキス」? この女性はもしや‥‥。

レースで楽しんだ後はカーペンターズの歌を2曲。「雨の日と月曜日は」(Rainy Days And Mondays)、そして「スーパースター」(Super Star)。

悲しい歌のメドレー。ジョンならさしずめ、「悲しみのジェットプレーン」〜「グッバイ・アゲイン」というところでしょうか。

さて、ふたたびジョンの登場。今度はカレンとのデュエットで、「カミン・スルー・ザ・ライ」(Comin' Thru The Rye)、そして「グッド・バイブレーション」(Good Vibration)と続くメドレーです。
最初から最後までカレンと腕を組み、手を握り合ってのステージ。ジョンはすっかりご満悦の様子です。
もうひとりのゲスト、ビクター・ボーガの登場。この方、実は音楽界の巨匠、ピアニストだったんですね。まずは軽くラフマニノフの「前奏曲」を披露します。
続いてはリチャードとの連弾でリストの「ハンガリー狂詩曲」に挑戦。「協力して弾こうね」と言っておきながら、このオッサン、演奏がはじまるとリチャードにちょっかいを出してばかり。協力しているのか邪魔しているのかわかんないよ〜。

それでもなんとか曲になっているからおかしい。お客さんの方は大喜びですね。

さていよいよエンディング。ここからはカーペンターズのヒット曲メドレーです。

「シング」(Sing)〜「クロース・トゥ・ユー」(Close To You)〜「ふたりの誓い」(For All We Know)〜「涙の乗車券」(Ticket To Ride)〜「オンリー・イエスタデイ」(Only Yesterday)〜「愛は夢の中に」(I Won't Last A Day Without You)と、耳慣れた曲がつぎつぎと奏でられてゆきます。

そしてラストは、「グッバイ・トゥ・ラブ」(Goodbye To Love)。こうして40分のTVスペシャルは幕を閉じるのでした。

ああ、懐かしい。懐かしすぎる。明日はレコード屋へ行って、カーペンターズのCDを買ってこよっと。

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