「ジュリー・アンドリュースのサウンド・オブ・クリスマス」


1987年制作のテレビ・スペシャルで、表題からもわかる通り、ジュリー・アンドリュースのためにつくられた番組です。日本では、NHKで放映されました。ジュリーがクリスマス・コンサートを開くために、映画「サウンド・オブ・ミユージック」の舞台ともなったオーストリアのザルツブルグを訪れるという設定で、素晴らしい歌声と大自然が満喫できる作品となっています。ジョンはゲストとして出演していますが、メイン・ゲスト(special guest star)のプラシド・ドミンゴを向こうにまわして、大熱演、大熱唱をくりひろげます。なんといっても見どころは、大作曲家モーツァルトに扮したジョン。映画「アマデウス」のパロディにもなっているこのシーンでのコミカルな演技は、一見の価値あり、です。

 
雪に覆われたアルプスの山々を俯瞰でとらえたカメラが小高い丘にズームイン。するとそこに大きく両手を広げたジュリー・アンドリュースが――そう、これはまさしく「サウンド・オブ・ミュージック」のオープニングですね。でも、似て非なる歌のタイトルは、"The Sound Of Christmas"。冒頭から、なかなかの演出です。
雪山の中を歩きまわりながら歌うジュリー。この時点で「サウンド・オブ・ミュージック」から20年は経っているはずなのに、その美しさはまったく変わりがありません。
雪ゾリに乗ってジュリーが向かう先は、オーストリアのザルツブルグ。映画「サウンド‥‥」の舞台にもなった町であり、かの大作曲家ウルフガング・アマデウス・モーツァルトを生んだ町でもあります。
メイン・タイトルが流れた後、ゲストが紹介されます。見事な腕前でスキーをすべるジョンの姿に、クレジットがかぶります。

「古き良き昔がよみがえり、なつかしい友達が迎えてくれる」と、"Have Yourself A Merry Little Christmas"の一節がジュリーによって歌われ、カメラはザルツブルグの町へと入ってゆきます。

「思い出の地、ザルツブルグ。『サウンド・オブ・ミュージック』撮影当時と、人々も町も変わっていないわ」とジュリー。「ここでクリスマス・コンサートを開くんですが、ちょっと緊張ぎみ。だってここは、モーツァルトの町なんですもの。彼はここで、シンフォニーやオペラの名曲を書いたの。もちろん『クリスマス幻想曲』もね」。

ちょっと待った! モーツァルトの作品で「クリスマス幻想曲」なんて聴いたことがないんですけどね。「実は、私も知らなかったの」といいながら、今もザルツブルグに残るモーツァルトの生家へと足を踏み入れるジュリー。

ジャジャ〜ン、出ました。これがモーツァルトに扮したジョン。なにやらイラついているような雰囲気ですね。ジュリーは「部屋を間違えたみたい」と引きかえそうとしますが、「いいから入りなさい」と促されて恐る恐る部屋の中へ。
アマデウス・デンバー・モーツァルト氏によれば、これから演奏会だというのに楽器も届いていなし、歌手は飛び入り。「これはサリエリの陰謀だ」とのこと。

映画「アマデウス」をご覧になった方は、もうおわかりですよね。サリエリはモーツァルトの先輩にあたる宮廷作曲家で、映画ではモーツァルトの天才をねたんで陰謀をたくらみ、死にいたらしめた犯人として描かれている人物です。

おかしな作曲家に突然話しかけられ、面くらっているジュリーに楽譜を渡し、「君は楽譜が読めるの? 僕は楽譜が書けるの」とヘンなジョークを飛ばして高笑いするモーツァルト氏。日本語で書くと、「ウヒャヒャヒャヒャ〜」みたいなこの笑いも、映画のパロディーですね。
渡された楽譜のタイトルは、「クリスマス幻想曲」(Christmas Fantasy)。これから演奏会の練習をはじめるのですが、「みんな楽譜はあるな」とよびかけられた伴奏の楽団員たちには、楽器がありません。「それじゃあ、楽器を『歌って』」とモーツァルト氏。楽団員たちは、自慢のノドで、それぞれの楽器の音色を出してチューニングをはじめます。

この楽団員らに扮しているのが、ゲストの「ザ・キングス・シンガーズ」。形態模写が得意な方々のようです。

さあ、演奏がはじまりました。「タン、タ、タン、タ、タタタタターン」――このメロディは、有名な「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」ですね。しかし、伴奏にあわせてジュリーが歌うのはクリスマス・キャロルの"Deck The Halls With Boughs Of Holly"。続いて伴奏は、ピアノ・ソナタ第15番「ソナチネ」、交響曲第40番のメロディへと次々変化してゆきます。これにのせてジュリーが歌う旋律は"Jingle Bells"。なるほど、これがモーツァルト作曲の「クリスマス幻想曲」というわけですね。
ジュリーの素晴らしくのびのある高音に、モーツァルト氏もご満悦の様子。「すばらしい! 戴冠式で歌ってくれないか」の一言で大円団となりました。

ここでモーツァルトがレオポルト2世の戴冠式のために書いて演奏したピアノ協奏曲第26番「戴冠式」のメロディが頭に浮かぶようであれば、あなたは立派なモーツァルティアン!

ジュリーは、クリスマス・コンサートの会場となるモンゼー教会へと足を運びます。そこには、自らオーケストラを指揮しながら、"O Holly Night"を歌うプラシド・ドミンゴの姿がありました。

プラシド・ドミンゴは、言わずと知れた実力派テノール歌手。ジョンとは、アルバム"Seasons Of The Heart"に収められた"Perhaps Love"でデュエットしています。

再会を喜びあう2人。ジュリーは、ドミンゴにクリスマス・コンサートに出てくれるよう依頼します。「ところで、君はこの教会で結婚式をあげたんだよね」とドミンゴ。「『サウンド・オブ・ミュージック』の中でね」とジュリー。そう、この教会は、映画のロケで使われた教会なのです。トラップ大佐を演じたクリストファー・プラマーとの結婚式の場面、コーラスで歌いあげられた「マリア」の旋律が思い起こされます。

このあと二人のデュエットで、"Something New In My Life"。

さて、場面変わってコンサート前夜の舞踏会。きらびやかな衣装を着た紳士淑女に交じって、ジュリーをエスコートしたジョンが登場。「ワルツを踊るなら、なんたって音楽はシュトラウスさ」と歌う"By Strauss"の曲にあわせてステップを踏みます。

う〜ん、なかなか役得ですね、この番組のジョンは。

と思ったら、宿敵あらわる。なんとプラシド・ドミンゴがジョンを払いのけ、ジュリーを奪っていってしまいました。しかし、気ままなジュリーはドミンゴの手もすりぬけ、次々と相手を替えて舞踏会を楽しんでいる様子。

音楽は、"Merry Widow Waltz"そして"Waltz At Maxim's""Christmas Waltz"とワルツのメドレーになります。
 

ジュリーをめぐる男2人のし烈な争いがくりひろげられた後、最後は3人仲良く乾杯のポーズ。楽しかった舞踏会も静かに幕を閉じます。
レストランで食事を終えたばかりのジュリーのところに、地元の男たちが思い思いのプレゼントを手にやってきます。歌いだしたのは、クリスマス・ソングの定番、"Twelve Days Of Christmas"。何とも楽しいこの曲は、ジョンもマペッツとの競演でとりあげていますよね。ただし、こちらはドイツ語バージョンです。贈り物も英語版とは違ってるので、要チェック。

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夜もふけて暖炉の前に座るジョンとジュリー。「明日はいよいよ本番ね」「うまくいくさ。ところで大事な曲を忘れてるよ。一緒に歌おう」とギターを弾きだすジョン。流れ出す甘美なメロディは"Edelweiss"。息もぴったりのデュエットが雰囲気を盛りあげます。
さて、いよいよコンサートの日がやってきました。会場となる荘厳な教会にむけて、次々と参加者がやってきます。ジョンとドミンゴに導かれて祭壇のステージに登場したジュリー。しとやかに"Wexford Carol"を歌います。
続いてジョンが"What Child Is This"を歌います。"Rocky Mountain Christmas"や"Christmas In Concert"でもおなじみの曲ですね。2コーラス目からは、ジュリーとドミンゴもハーモニーに加わります。
教会をとり囲むように並んだ聖歌隊も見事なコーラスを聴かせます。曲は、"O Little Town Of Bethlehem"。
次は、プラシド・ドミンゴの独唱で、"Gift Of Love"。さすがオペラ歌手、その声は広い教会いっぱいにくまなく響きわたるようです。
ジョンが歌い出すのは、"It Came Upon A Midnight Clear"。2番はジュリーが歌いつぎます。ふたたびドミンゴの独唱で、"Ave Maria"。次第にジュリーの声が重なってゆき、美しいデュエットとなります。

こうしてコンサートはフィナーレを迎えます。聖なる夜は感動とともに幕を閉じるのでした。

コンサートの翌日、ジュリーがお別れのあいさつです。ドミンゴやジョンへの感謝の気持ちを表しながら、「最後に私のお気に入りの言葉を」と、次のメッセージを贈ります。

「平和 愛 喜び、そして、さようなら」。
(Peace, Love, Joy and Good-bye)

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