世界のワンマンショー 「すばらしきカントリー・ボーイ」


1970年代から80年代前半にかけて、オリビア・ニュートン・ジョン、カーペンターズなど当時人気のあった外国歌手らが出演するバラエティ番組を、NHKが「世界のワンマンショー」というシリーズにして放映していました。ジョン・デンバーが出演した番組も確か3つあったと思います。今回紹介する作品はそのなかのひとつで、「すばらしきカントリー・ボーイ」("Thank God, I'm A Country Boy")をテーマにしたものです。見どころのひとつは豪華なゲスト陣。ジョニー・キャッシュ、ロジャー・ミラー、グレン・キャンベルというカントリー界の第一人者がジョンの引き立て役として出演、これだけでも当時のジョンの地位と人気の度合いがうかがい知れるというものです。

 
番組の最初に、幼い頃のジョンの写真とジョンが生まれそだったオクラホマの生家のイラストが映されます。小さい頃から田舎育ち、大きくなって都会に出てきても、心はいつまでも「すばらしきカントリー・ボーイ」というわけです。バックには、"Thank God, I'm A Country Boy"の前奏が流れはじめています。
これが番組のタイトル。例によって観客に手拍子を求めながら、「すばらしきカントリー・ボーイ」を歌いだします。狭いライブハウス風のセットのなかで、最初から観客との一体感あふれる演奏です。
歌い終わるとさっそく、いっしょに演奏してくれたゲストの紹介。「フィドルはロジャー・ミラー、バンジョーはグレン・キャンベル、ギターはジョニー・キャッシュ。僕らあわせて600万ドル・バンドです!」

このギャグは、いわずと知れたリー・メジャース主演の人気TV番組、「600万ドルの男」("The Six Million Dollar Man")のもじりです。あの頃、流行ってましたからね。私も毎週楽しみに見ていました。

続いてもう1人のゲスト、女優のメアリー・ケイ・プレイスを紹介します。ジョンと同じくオクラホマ出身のこの女優は、ジョンに呼ばれて観客席からステージへとかけあがってきます。

メアリー・ケイ・プレイスといえば、最近はあまり名前を聞きませんが、「再会の時」という映画でなかなか味のある演技をしていましたね。

場面は変わって、ジョニー・キャッシュと並んで納屋から歩き出すジョン。子供時代に聞いたラジオ番組の話などにふれながらカントリー・ミュージックとのかかわりを語りあいます。そして、二人してギターをとりだし、弾き出した曲は、「故郷に帰りたい」。
ふたたびスタジオに戻り、ゲストとともに「テネシーのロッキー・トップ」という曲を歌います。「帰りたい、テネシーのロッキー・トップへ ロッキー・トップ、なつかしのわが家」と小気味よいテンポのカントリー・ソング。グレン・キャンベルのバンジョーがなかなかかっこいいですね。

この曲を歌って気合いが入ってきたのか、ここからジョンお得意のパフォーマンスがはじまります。

まずは息子のことを心配していろんなカントリー・ソングを作っては「吹き込め」と送ってくる父親を紹介。できあがった曲は、「人生行路の楽しき足跡」("Live A Lotta Happy Tracks As You Walk Along Life's Road")「どん底の下を見よ」("If You Think You Reached The Bottom, Just Look Down")「おれはダンプ」("Hello, I'm A Truck")「人生のゴールへ転落」("Drop Kick Me Jesus Through The Goalpost Of Life")などなど名曲(迷曲?)ばかり。「そのうちのひとつで、前にアルバムに入れた曲を披露します」と前おきしながら、「これをきいてもらうには独特のムードが必要です」と地方ラジオ曲スタイルの演出に浸りはじめます。
「テキサス西部を車で走ってると思ってほしい。午前2時か3時。前方は見渡すかぎり何もない。後方も。手をのばす。ラジオをつける。きこえてくる」――ジョンは地方ラジオの老ディスク・ジョッキーになりすまし、曲の紹介をはじめます。客席は大ウケで爆笑の連続。

そして演奏したのがこの曲。ファースト・アルバムに収められた「踏まれた心」("You Done Stomped On My Heart")です。

続いてはゲストの1人目、グレン・キャンベルの紹介。グレンは、「哀愁の南」("Southern Nishts")という曲を歌います。
またもやスタジオに戻って、今度はロジャー・ミラー、グレン・キャンベルと3人で「チャガラック」というコミカルな歌を歌います。誰にでも経験のある、はじめてお酒の味をおぼえた時のことをテーマにした曲で、3人3様の酔っ払った仕種にお客さんは大笑い。どうですか、ジョンのこの顔。笑わずにはいられないでしょう。
これはジョニー・キャッシュと演奏しているつなぎの歌。曲名はわかりません。「扁桃腺を切られて自慢の声が台無し。仕方ないからヨーデルでも歌うか」とジョニーが振ると、ジョンが"Calypso"さながら、高らかにヨーデルを歌い出すというオチがついています。
次はグレン・キャンベルとのデュエットで、「帰りたくないか」("Don't It Make You Wanna Go Home")。誰の曲かは知りませんが、「カントリー・ロード」で歌われている情景をほうふつとさせるような歌詞の、なかなか味わい深いスローテンポの曲です。私は、この番組の中では(ジョンの持ち歌をのぞけば)一番好きな曲です。
さて、ゲストの2人目です。ロジャー・ミラーが歌う"Some People Make It"というこの曲、「働くやつと日陰で休むやつ。成功するやつとしないやつ。ある者はレモネードをすすってるっていうのに、俺は給料がでるのを待っている」という少々ひがみっぽい歌です。
場面はスタジオのジョン。軽やかにギターを弾きながら、「フォルサム監獄のブルース」という曲を歌いはじめますが、1コーラスだけ。この歌もゲストを紹介するための"つなぎ"の曲です。あ〜あ、やっぱすごいゲストばっか呼んでしまうと、ジョンの出番が少なくなってしまいますね。3人呼んで、1人だけ歌わせないってわけにもゆかないだろうし。
というわけでゲスト3人目はジョニー・キャッシュ。「最後のガンファイター」("The Last Gunfighter Ballad")という曲を歌いますが、老ガンファイターに扮して最後の決闘に向かう姿は、「真昼の決闘」のゲイリー・クーパーをほうふつとさせます。もしかしてこの曲、「ハイヌーン」へのオマージュだったりして。
いよいよ最後の曲となってしまいました。ジョンが語ります。「今夜僕がいいたいのは、カントリーがファミリー音楽(home music)だということ。僕にとってはそうです。身内であろうとよそ者であろうと、カントリーが好きならファミリーの一員です。でも音楽の好みがどうあれ、身分、土地、職業の区別なく、家庭のよさはわかります」

そしてゲストとともに"Back Home Again"を熱唱。でもさあ、スーパーの歌詞で、「ああ、家はいい やはり家はいい」っていうのはやめてほしいよねえ(ままじゃん)。

これがエンディング。メアリー・ケイ・プレイスの今後の活躍を願うとともに、あらためて3人のゲストに感謝をのべるジョン。これで40分間の番組が終了です。

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