「おはようございます」
「うぃーっす」
さわやかとは限らない朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
市長様のお庭に集う元少年少女たちが、今日も煤け切ったような笑顔で、背の高い自動ドアをくぐり抜けていく。
汚れを知らないのか知ってるのか微妙な心身を包むのは、深い色の背広やスーツ。
スカートは乱さないように、ネクタイの結び目は緩んでいないように、
きちんとした身なりで歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、朝礼真っ最中に走り込んでくるなどといった、はしたない職員など存在していようはずもない。

佐世保市役所。
明治三十五年市制施行のこの市役所は、もとは軍港のために村から一足飛びに市制をしいたという、
伝統はあまりない造船と観光が主産業の街の行政機関である。
長崎県北。松浦党の面影をちょっとだけ残している坂の多いこの西海の地で、亀山八幡宮に見守られ、
新卒から定年までの一貫業務が務められる地方公務員たちの園。
時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、
十八年通い続けなくても一見温室育ちのよさこいにチームを組むようなお祭り好き公務員が箱入りで出荷される、
という仕組みが未だ残っている貴重な役所である。

…事実を一部元にしたフィクションです、一応。