(織田ドラマTOP)
(織田ドラマTOP)
「振り返れば奴がいる」の司馬江太郎は悪いヤツである。
と、思ったことは、実は私には1度もない。
初めて見たときから、司馬が可哀相な人間に見えた。
なにか心の傷を抱えて人間不信ではあるが悪人ではないと。
最初のマージャンのシーンの後は、おそらく最終回まで笑顔を見せなかった司馬。
「死なせてやれ」と言い放ち、平気で金を受け取る司馬。
石川玄の登場に対抗するようにオットーを利用し悪事を働く司馬。
しかし、常にそれだけではない「なにか」を裏に感じさせている司馬。
「ちゃんと説明する」「わかってもらおう」という努力を放棄している司馬。
その陰には、尊敬していた中川に裏切られた悲しみがあった。
彼の心の傷が悲しみが、見事に表現されていた司馬というキャラクター。
この作品が、あの「東京ラブストーリー」の次の連続ドラマであったことは、
そして、このドラマの成功は織田裕二の役者としての将来を決定付けた。
単なる「アイドル俳優」ではなく、「役者」としての将来を。
私が特に印象深いのは、石川にレントゲン写真を見せて病名を知らせるシーンである。
「おまえのだ」と言う、その声の震え、その後の「お大事に」の押さえた声。
嫌いながらも大事に思う石川の命に対する司馬の心情が伝わってくる。
ラパコレの時は、中川部長に対して冷たい態度で「ボクはいませんよ」と言いながら、
中川が手術続行不可能になったときのために待機している司馬の、
中川に対するフクザツな想いを表わす場面も印象に残る。
ガス爆発事故の時、廊下で倒れた患者に駆け寄る司馬。
自由にならぬ右手で必死にラパコレを続ける司馬。
笹岡の意志に従い、その命を自らの手で絶った司馬。
「死にきれない患者が増えてるんだ」と石川に言う司馬。
冷酷で金に汚い悪徳医師のように周囲に思われながら、
実は誰よりも命に対して真摯で、医師としての自信とプライドが高い司馬の姿。
それは、私には、石川よりも素晴らしい医師として映っていた。
ただ命が存えることよりも、その「質」を大切に思う司馬は、
人を信じることができるようになれば、きっと素晴らしい医者となっていたに違いない。