(織田ドラマTOP)


(織田ドラマTOP)

織田ドラマ

ワルな天才外科医、監督が若松節郎、共演に石黒賢、さらには飛鳥涼。
これだけ並べて「振り返れば奴がいる」が浮かばなければ嘘である。
なのに、確信犯でこの設定を選んだ織田裕二。
違うものにする自信があればこそだとファンは考えた。
「二番煎じ」かとそれ以外の人は考えた。
そして、結果として、織田裕二は見事に違う人間を演じていた。

正直なところ、作品そのものについては不満が残る出来であった。
脚本の安易さ・強引さを、役者の演技と映像の美しさでカバーして、
どうにかこうにか、織田ドラマとして及第点まで引き上げたドラマであったと思う。
そして、これほど「CMなしで見たい」と思ったことも初めてであった。
仕事をしない刑事といい、あまりに唐突で都合の良すぎる同級生の過去暴露といい、
ミステリー要素の設定の甘さといい、急展開すぎる病院建て直しといい、
最後の都倉の取ってつけたような演説といい、
キャストを生かしきれていない脚本は穴だらけであった。
おまけに感動最高潮で突然に入る「甘栗剥いちゃいました」のCM。
「これはDVDを買わせる為の陰謀か?」とさえ思うほどの絶妙な感動ぶち壊しであった。

しかし、それでもなお、どうにか織田ドラマとして及第にしたのは俳優陣の演技と映像の美しさであった。
これほど「振り返れば奴がいる」の司馬と設定のかぶる都倉隆という役を、
織田裕二は見事に演じ分けていた。
司馬とはまったく違う、徹底的に孤独な状況で育ち生きてきた都倉という人間を演じていた。
所詮裏切られた相手の中川をそれでも信じ甘えていた司馬と違い、
誰も信じず、しかしことさらに敵対することもせず、自分の力のみで生き抜いてきた、
ひたすらに孤独で、したたかで、悲しい男がそこにいた。
終盤に父の気持ちに触れ和らぐまで、その孤独さと悲しみが全編に満ち溢れていた。
議論さえもせず、説明さえも諦めて、言葉を飲み込んでしまう都倉。
父のたったひとつ心からの言葉に心を融かすほど深い孤独の中を生きてきた都倉。
その演技は、確かに司馬とは違う、成長した織田裕二の演技であった。
共演の俳優陣も芸達者な俳優ばかりであるが、それが生かしきれていないのが実に残念である。

あの途中中断の「ロケット☆ボーイ」以来の、21世紀初の完全な織田ドラマは、
しかし、どうにか及第点のもの足りないものに終わった。
役者は良かった。映像も美しかった。
しかし、それを相殺するほどに、脚本がよくなかったと思う。
福田氏はミステリーや連続モノは不得手だったということなのだろうか。
織田裕二ファンとして、織田裕二の演技を楽しむには良いドラマである。
しかし、織田作品としては、やはりもの足りないと言わねばならないだろう。
次の作品に期待したいものである。

「真夜中の雨」