織田ドラマ「踊る大捜査線」

何はともあれ、「踊る大捜査線」である。
「踊る」から織田裕二にハマった私としては、まずこれから語らねば。
「踊る大捜査線」は織田裕二にとっても非常に大きな存在だと思う。
本人がどう考えているかは別にして、「踊る」が織田裕二と周囲に与えたものは大きい。

このドラマで織田裕二が演じた「青島俊作」というキャラクターは、
彼の演じてきた中では、かなり彼自身に近いのだろう。
その演技はあまりに自然で、おそらくこのドラマしか見ていない一般の人の中には、
「素でやっている」「ほとんど演じていない」と思っている人がいるに違いない。
だが、比較的素に近い役柄であるからこそ、彼の「演技」が光る。
織田裕二をよく知るファンなら、青島と織田がまったく別人であることに異論はないだろう。
青島の、その青島らしさ、カッコ良さ。
それは織田裕二自身とはまったく別の魅力に溢れている。

青島は、織田の他のキャラクターと異なり、「受け」のキャラである。
群像劇である「踊る」の中で、主役として「引っ張って行く」のではなく、周りを「受けとめる」役回り。
そういう役柄を演じる中で、織田裕二は「引っ張る主役」よりも強烈な印象を見る者に与える。
作り過ぎない、力の入り過ぎないナチュラルな演技であるがゆえに、
その人物はむしろ生命力を増し、魅力を増して、視聴者にアピールしている。
その徹底した役作り･作り込みが織田の特長であるがゆえに「続編」の難しい織田であるが、
青島という輪郭の少しぼやけたキャラクターは、織田の可能性を広げた。
そして、その魅力に惹きつけられる視聴者の範囲をも広げた。

「踊る」は企画・脚本・キャスト・演出・その他の類まれな素晴らしい組合わせの産物として、
ドラマ史に残る傑作作品となったが、
しかし、その中のたったひとつ「織田裕二」が欠けていたらそうはなり得なかっただろう。
他のどんな高視聴率俳優や演技派俳優が演じていても、
「青島俊作」はあれほどカッコ良く、また、親しみやすいキャラクターにはならなかっただろう。
「踊る」の世界の中で生きている「青島」は、その世界を飛び出し多くの人を惹きつける。
その青島は織田の「役になりきる」柔軟な演技力があって初めて存在するのである。

青島のあまりの魅力と「踊る」の大ヒットゆえに、その後の織田の仕事は、ある意味難しくなった。
「踊る」と「青島」のイメージを払拭し、さらに上を目指さねばならないからである。
そういう意味では、「踊る」は織田にとって必ずしも「いい存在」ではないかもしれない。
しかし、やはり、織田が「踊る」で得たものは大きいと思う。
そして、「踊る」は織田のファンを増やし、ファンは「傑作」を得た。
なによりも、「踊る」があったからこそ、
私は織田裕二という役者の素晴らしさに気付くことが出来たのである。