(織田ドラマTOP)
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「なんかハッキリしない男っすねえ」とカンチを見て青島俊作(「踊る大捜査線・秋SP」)は言った。
永尾完治はハッキリしない男である。
さとみに気持ちを残しつつも、リカに惹かれて付き合い、
リカとやっていくのかと思ったらさとみに戻る。
当時は優柔不断な優しい男が流行っていたので人気が出たものの、
織田裕二の言うように「嫌われなかったのが不思議なくらい」である。
もっともその代わりにさとみが嫌われたのではあるが。
織田裕二は途中からカンチの気持ちが理解できなくなったという。
原作を読んでカンチを引き受けた織田であるから、仕方のないことだったかもしれない。
なにしろ、ドラマは原作と違って「リカが主人公の物語」だったのだから。
あくまで「カンチとさとみの物語」である原作の印象で織田はカンチを受けた。
原作どおりなら、織田もカンチを理解し、最後まで真剣に取り組めただろう。
しかし、「リカの一途な気持ち」を主軸にしたストーリーに沿って役になじんでいって、
いきなり「さとみへの回帰」がドラマチックに登場した。
混乱して当然である。
その後「死人が演っている」状態だったと語る織田であるが、
しかし、出来あがった作品では、そんな状態だとはとても思えない。
むしろ、それがカンチの苦悩として「はまった」のか、結果として切ない演技のドラマとなった。
そして、「東ラブ」は大ヒットし、ラブストーリーの傑作として、織田裕二の代表作となった。
印象深いのは、リカと別れてさとみと電話で話しているうちに泣き出すシーンである。
織田裕二の泣き顔はめったに拝めない。
あの織田裕二が顔をくしゃくしゃにして泣いている。
「死人が演っている」ような状態で、あんな泣きの演技ができるのか?
恐るべし織田裕二。
「東ラブのカンチ」は織田にとって、かなり不本意なものとなったらしい。
初めは、これまでと違う役を「出来ると思ってふってくれた」と喜んで受けたのに、
途中から理解できなくなって投げ出してしまったのであるから、当然だろう。
その後、ことさらに違うタイプの役をやろうとしたことからも、
「カンチ」のイメージを払拭したいという気持ちがよくわかる。
しかし、「カンチ」は織田にとっては代表作であることは間違いない。
リカが主人公のドラマではあるが、「織田の」大ヒット作である。
そして、気持ちの上で投げ出したにせよ、役の幅を広げたのは事実である。
「カンチ」は織田が演じたからこそ、嫌われずに済んだのだと思う。
たとえ、織田本人が「ハッキリしないヤツ」と嫌おうが、
「永尾完治」は、「東京ラブストーリー」は多くの人を惹きつけて止まない。