フェニックス(1996GW・九州)その2(携帯版)
今日は大根占という街で泊まる事に。
ツーリングマップにはマークだけが書いてある、名無しのキャンプ場を目指す。
しかし、地図上では有るハズのキャンプ場が見つからない。
徘徊するうちに、ちょっとした公園のような場所に、バイク及びテントを発見。
先客が4~5名居て、皆ソロだという。
流し場風のものが有るところを見ると、キャンプ場に見えなくも無い。
テントを張り、買い出しから戻ってくると、先程は居なかったアフリカツインが止まっていて、オーナーらしき男は腐れかけたベンチに小粋に座り、ホップスのロング缶などを妙にカッコつけながら嗜んでいる。
それが「K山商会」との初対面であった。
その夜・・・
結局10人近く集まり、ライダーばかりなので気を使う事の無い宴会となる。
皆、各自のメシを食い終わっって、そろそろ飲みに専念しようかといった頃、唐突に一人の男が・・
「すいませ~ん。ご飯の炊き方を教えてください!やった事無いんです。」
「道具とか米とかあるの?」
「あります。米も研いであります」
ランタンの灯りに輝く、確かに、どう見ても新品のコッヘル・ストーブ。
しかしその中には、研がれた米が3合も入っている!
溢れんばかりの水に浸って沈殿している大量の米に、一同は唖然とする。
「そ・そ・それ一人で食べるの??」
「えっ?お茶碗1杯分ぐらいですよ?ちょっぴり多すぎました?」
「ど・どこがちょっぴりなもんか!!」
「お・おまえ!小学校の時、家庭科さぼったな?」
「米を茶碗2杯分も・・」
「研いでしまったからには、絶対に食えよ!米の量を体で覚えやがれ!」
予想外の集中砲火的な大衆の非難に、唖然としながら意味も無く背筋を伸ばして姿勢を正し、そのハズミでオカズに買ってきたコロッケをひっくり返したりする3合くん。
それでも気を取り直し、コロッケについた土を払い落としながら
「判りました、全部食べます。だから炊き方を教えて下さい!」
いよいよNEWストーブの火入れ式である。
期待に燃える3合くん、瞳の中にはランタンの灯りが揺れている。
そして米の入ったコッヘルを乗せ・・・・
ところが!!
炊き方を教える際の、水加減・火加減・火を止めるタイミング等、一同バラバラなのだ!
多くの異なる指示に戸惑いを見せる3合くん。
自分のゴハンを焦がしたZZR1100くんの指示だけは無視しながら、火を強めたり弱めたり・・
けっこう人それぞれのやり方で、みな何となく炊いているのだと実感するうちに、3合くんのメシも見事に炊き上がる。
ただし、彼の試練はここから始まるのだ。
「ちょっと手伝ってくださいよう」
「いらねぇ!自分で食え!」
そのような会話を繰り返した挙げ句に、結局見事に完食した3合くん!
これ見よがしに空になったコッヘルを逆さにして見せて「ホラッ!」などと叫ぶものの、その表情はさすがに苦しそうで、それに対する周りの反応も彼の期待を上回るものでは無かった。
翌朝は曇り。
天気予報では悪化する傾向との事で、ほどなく雨が降り始めた。
漠然と予定していた霧島方面に向かうのを止め、鹿児島県の東シナ海側の砂浜に出る。
砂浜に入って暫し遊びながら、今日はどこに泊まるかを考えているうちに、ふいに道路の方から声が掛かる。
おおっ!
青島で別れたヒゲジェベルではないか!!
「いやぁ!二つ目玉のTWだから、もしかしたらと思って。やっぱりキミだったか!」
雨の中、お互いにカッパを着たまま立ち話。天気が天気なので、ヒゲジェベルは近くの宿に泊まるらしい。
「明日・明後日あたりに、阿蘇の坊中キャンプ場で人と待ち合わせしてるんだけど、良かったらキミもおいでよ!」
そう言い残して、ヒゲジェベルは去っていく。
雨の夜。
海の近くの建設現場風プレハブ小屋で一夜を明かす。
電気がつき、水が出る流し場もあり、ガス台さえもある。狭いながらも快適な我が家なのだ。
「ねぇ、こないだ『養ってやる』って言ったわよね。あれって本気?」
「えっ?う・うん」
「あたしねぇ、親に『結婚するって決めた』って言っちゃった」
以前から乗り物には極端に弱く、乗用車はおろかバスにさえ10分と乗ると間違いなく車酔いしてしまうA子。
ツーリングどころか、一緒に旅行に行くにしてもかなりの制約があるだろう。
どんな家で、どんな生活になるのか。
今は想像する事が出来ないまま、やたらパシパシとプレハブ屋根を叩く雨の音を聞きながら、手間などいらないハズのボンカレー作りに集中しようとしている九州上陸3日目の夜であった。
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