とにかく北へ!!(1991GW)その2(携帯版)


まあいいや。
冬用でも防水でも無い、絞れば水が滴るグローブを再びはめる辛さ。
走り出せば、益々と冷たさが凍みてくる。
ほどなく洞爺湖との分岐点、泊まるYHを変えようかとも頭をかすめたものの、カッパを脱いでガイドブックを取り出すのも面倒くさくなってそのまま直進。

完全に夜となる。
信号で止まると震えが来る恥ずかしさを感じながら、室蘭の街を通過。
行ってみたかった地球岬に向かう気力など無く、「登別まで○Km」といった標識を、必要以上に気にしながら走る。

やっと登別に。
這いずる様な気分でYHに入る。
食堂で茶を吹き出してから1時間ちょっとの道程だったけど、まるで何時間も走っていた様な冷え込みに、手が震えて宿泊カードに名前すら書けない状態での到着であった。


朝になって雨は止み、とは言えいつ降ってもおかしくない天候である。
夕べ寒さに震えた為か、上陸時ほどのウキウキ感が無いまま出発。

初めて北海道を走るライダーの予定を聞くと、かなりの割合で「東西南北あっちこっち飛び回りのワープ型」が多い。

「絶対に2度3度と行く事になるから、もっとジックリと楽しんだ方がいいよ」

と言って聞かせても聞く耳を持たない連中が多いけど、もちろんワタクシも、そんな連中の一人だったのだ。
今日は道東だぁ!!摩周湖だぁ!!!


降ったり止んだりの天候の中、日勝峠を越えねばならない。
目の前の山々はドンヨリとした雲に覆われ、YHのオバチャンが言っていたセリフ

「GWじゃ峠は雪になる事もある」

を思い出し、心もドンヨリとしてくる。
なんたって、

「冬の日勝峠越えは最大の難所である」

と、聞きたくない事まで聞かされてしまったのだ。

峠越えを前に給油。スタンドのオヤジから情報を・・

「寒い中タイヘンだねぇ・・」

「えっ・ええ。あのぉ、峠はもっと寒いでしょうねぇ・・」

「そうだねぇ」

「ゆ・雪なんか降ってませんよねぇ・・」

「そうだねぇ。降ったら困るねぇ」


何の役にも立たない会話を交し、いよいよ峠越え。
いつのまにか霧が発生し、高度を増すごとに視界が悪くなる。
寒さも増してきているようだ。
コーナーの向こうには雪が待っているのではないか?
といった不安と、そうではなかった安堵を繰り返しながら、遂に峠に到達する。こ・こ・こりは!!!!!

晴れ渡る、抜けるような青空!!
ここまでのダークグレイの雨雲とは違う、ノドカに浮かぶ白い雲!!
眼下に広がる十勝平野!!
まさに北海道の光景がそこに広がっているではないか!!!



峠を下ると、日差しが暖かい。

「ザマアミロ!カッパ!!キサマなんかに用は無い!!」

シヤワセな気分で帯広の街を抜け、更に東を目指す。
豊頃のハルニレの木は丸裸状態で全然それらしく無かったけれど、そんなのどうでも良いのだ!!
気分は春の北海道なのだ!!!

白糠あたりから見える海の景色もサワヤカに、一気に釧路に。
弟子屈に抜ける道道に入り、釧路湿原の展望台で一休み。
ウキウキ感は、上陸当初どころでは無く、最高潮に達しつつあったのだが・・

穏やかな岡をクネクネ曲がりながら北上し、弟子屈まで10Kmを割ったあたりで、その異変がやってきた。
天候の悪化を感じるよりも先に、いきなり襲い掛かる豪雨!
そして台風の様な強風!!
これはいったい!!!!

風雨を遮る物など何も無い丘陵地帯。
カッパを着る間もなく全身ビチョビチョ!!
停まる事も躊躇してしまう状況に陥ってしまったのだ。

「カッパァ!さっきはゴメンよぉ!やっぱりキミは必用だァ!!!」

そんな心とは裏腹に、一刻も早くこの理解不能な状況から抜け出したく、カッパも着ずに走り続ける。

弟子屈の街に入っても、天候が回復しているどころかトラックがひっくり返っている有り様。
やっと辿り着いたYHに逃げ込めば、昨日以上に文字を書く事が出来ない指先。
そして、断続的に訪れる停電。

激しい風雨の攻撃に、耐え切れずにガタガタと暴れる窓!!
どこから入って来るのか、悲鳴の様な隙間風の音!!
まさかバイクが吹っ飛ばされやしないだろうか。
将棋倒しになってたらどうしよう・・

何回目かの目覚め、まだ夜中である。
風も幾分弱まり、雨の音が聞こえなくなった事に気が付き、思わずバイクの様子を見に表に出る。

摩周湖に近く、人気スポットでもあるYH。
あの天候を走り抜けて集まってきたバイク達は一台残らず倒れる事無くふんばり続け、いつのまにか現れた満月を、それぞれのミラーの中に輝かせているのであった。


1へ
3へ
聖地・北海道へ
「週末の放浪者」携帯版TOPへ

「週末の放浪者」PC版