パッションバレイ(1991夏・四国)その2(携帯版)


会場に居合わせた全員が参加したような大盛況の中で、コンテストが始まりました。
もちろん盆踊りなど踊れないワタクシですが、なんとかテキトーに体を動かしていると・・・
な・なんと言う事だ!!
巡回してきた審査員が、いきなり島根ニィチャンの肩を叩く!!
優秀賞第一号となって櫓の壇上に引き摺り上げられたニィチャンは、呆然とあたりを見下ろして立ち尽くしております。
ヤツは決して踊りが見事だった訳では無いのです。
モトパン・オフブーツという格好でドカドカバタバタ踊る姿が、審査員には奇抜で面白く見えたのでしょう。

「すごいぃ!!」

オネェチャンも大喜び。
こりは、ちょこっとヤバい!!


優秀賞が全員確定し、壇上ではその十人のウイニング踊りが始まります。
やんややんやの喝采で壇上を見上げる観客達の中で、ワタクシはそれを無視するように、オネェチャンに語りかけます。

「門前仲町にさぁ、美味しいサカナの店があって・・・」
「カッコイイ!!ねぇねぇ、見て見て!!」

オネェチャンは、もう壇上にクギヅケ。
こりは、とってもヤバい!!


優秀賞の商品を気前よくオネェチャンに差し出し、自分の地元での盆踊りの武勇伝を語るニィチャン、それを楽しそうに聞くオネェチャン・・・
今度は、ワタクシが局面の打開を考える番でした。
その時です。

「あ~あ~。フーフーフー。ここで盆踊りを一時中断して、花火大会を始めますぅ。大豊町の花火大会は、日本一ですからねぇ!!」

こんな谷間のイナカの花火大会が、何が日本一なのだろうか。
それよりも、今のこのヤバさを何とかせねば・・・

たかが盆踊りごときで何も焦る事は無いのですが、その時のワタクシは冷静では無かったのかもしれません。
もう花火などどうでも良いほどに焦りまくっていたのです。
そんなワタクシの焦りとは無関係に、いよいよ花火大会が始まりました。


これと言った事も無い、まぁフツーの規模の花火が、間欠的に打ちあがります。
その合間合間に

「ただいまの花火は、○×商店の提供です」

などと、いちいちスポンサーが紹介されるのもご愛嬌なのですが・・・・
確かに、こりはマジで日本一の花火大会なのかも知れません。
ワタクシは、今度はオネェチャンの事などどうでも良い程に、この花火に見入ってしまいました。
いや、正確には、聞き入ってしまったのです。

とにかく凄まじい音なのです。
ホントにこんな所で花火なんかあげて良いのかと疑うほど、んもぉ無茶やってるとしか思えないのです。
なぜかって、奥多摩あたりで花火を打ち上げる事を想像して頂くと判り易く、四方から目一杯迫っている山に反射して、まるであっちこっちの山の裏側でも花火大会を同時開催しているのかと錯覚してしまう程、一発ごとに

ドカァァァァンドカドカドカンァァンドドドドドドヵヵヵヵドカドカァァァァン

なんて感じで、幾重にも衝撃波が来るのです。
それも腹に響くなんて生易しいものじゃなく、全身がブッ飛びそうになるパワーなのです。
隅田川などの大金をかけた大規模な花火大会の主催者から見れば、こりはリッパな反則技としか言い様がありません。


翌朝早く、オネェチャンが一人でYHを出発して行きました。
島根ニィチャンは起きて来れず、ワタクシ一人で見送る事となったのです。

「それじゃ、気をつけてね」
「ありがとう。楽しかった」

ワタクシは、思いついた様にテレカをオネェチャンに手渡します。
裏にはキッチリと、ワタクシのデンワ番号が書き込んであります。
こりが、ワタクシが考えた、唯一の打開策でした。

「デンワしてね。今度、呑みに行こうよ」
「うん、ありがとう。帰ったら連絡するね。」

千切れんばかりに、手に持ったテレカを振りかざしながら、YHの階段を下りていく彼女。


四国のどこかで気まぐれに買ったテレカ。
このテレカが、ワタクシにとって有効に使われる事はありませんでした。


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