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カエル温泉(1995頃・福井)
とある弱小装置メーカーに勤務していた頃、なんだかんだで出張の多い生活でした。
行き先は、大手系電気メーカーの半導体工場です。
これらの工場は、北海道と沖縄を除いて至る所にありまして・・・・・
まあ、ワタクシも全国津々浦々と出かけました。
同行者がいる場合は、その日のシゴトを終えた後
「んじゃぁ、ちょっと行く?」
などと街に繰り出し、その地方のサカナや地酒などでヘロヘロになるヒトトキ・・・・
フシギなモノで、初めて訪れた地であっても、ヨッパライの帰巣本能は働くものです。
泥酔酩酊していたハズなのに、キチンとホテルの自分の部屋で目を覚ましたりします。
まあ、それはそれで楽しかったりもします。
「ウラヤマシい!!」
などと思う御仁もいらっしゃいましょうが、とんでもありません。
なんたってシゴトなんですから。
その出張先のシゴトで大いにトラブったばっかりに、学生時代から
「ああ、いつかはソコを訪れたいなぁ」
なんて憧ていたハズの場所が、二度と行きたくなくなってしまうケースだってあるのです。
終りの見えないシゴト、客先担当者の罵声、そして帰れぬ日々を繰り返す・・・・
そんな思い出がトラウマとなり、いざそちら方面に遊びで出掛けようとすると、ついつい足が重くなるのです。
心の底から楽しめないのです。
秋田、富山、佐渡などがハマりましたが、そんな一つに福井県もありました。
その福井出張は、唐突に決りました。
そろそろ夕方になろうかという時刻に、課長からデンワが入ったのです。
「よう、タイヘンなんだ。助けてくれよ」
「あれ?カチョー。今、どこですか?」
「福井だよ。ふ・く・い」
「えっ? まだ福井なんすか? 確か予定では今日帰ってくるハズでは・・・・・」
「帰れねぇんだよ!!」
要は、トラブったのです。
課長と新人小僧の2人で、既存の装置の改造工事に福井まで行ったのですが、コゾーの作業ミスで、装置をブチ壊してしまったと言うのです。
「今からさぁ、部品を持って来てくれないか?」
「い・今からって・・・・・」
しかも、課長の要求する部品は、何だかんだで80キロくらいの重さになるのです。
「クルマで来ればヘーキだよ。クルマで」
「は・はぁ・・」
カローラバンに部品を積み込み、東名と北陸道をブツとばし、福井に到着したのは夜の10時くらいでした。
ホテルの駐車場に到着すると、まさかソコで張り込んでいたのか、課長が満面の笑みで待っていました。
「よぉ、ゴクロー。さっそく行こうか」
「えっ?今からシゴトですか?」
「まさか。まだメシ食ってないんだろ? メシだよ、メシ。いい居酒屋があるんだ」
なんと課長は、コゾーと共に、メシも食わずに待っていてくれたのです。
しかし、ココで感激したのは間違いでした。
このカチョー、泥酔すると極めてタチが悪いのです。
説教オヤジなんてナマヌルいモノではなく、とにかく凶悪なのです。
この日も、案の定、ダメ化してくれました。
「そうじゃないんだ!!ばかやろう!!」
などと、ロレツも回らない叫び声でテーブルを激しく叩くものですから、店中の注目を浴びちゃったりします。
やがて、いたたまれなくなったコゾーは
「カチョー、すいません。ボクは先に・・・」
などと、ホテルに帰りやがるのです。
10時までメシを待たせてしまったワタクシは、責任を感じて帰るに帰れずにいました。
よくよく考えれば、ワタクシのせいでメシが10時になった訳では無く、課長が勝手に待っていただけなのですが。
そんな調子で、とうとう午前一時になりました。
課長は、留まるところを知らず
「オカワリィ!」
などと叫びます。
「カチョー、今日はもう止めましょう」
「なにぃ?帰るだとぉ?」
「明日もありますし・・・」
「よぉし。じゃあ帰るか。でも、ラーメン食ってからな」
ラーメンにさえ付き合えば、やっと寝れる・・・・・・
それが、またまた間違いでした。
福井駅近くの商店街を徘徊するものの、この時刻に開いているラーメン屋など無いのです。
「カチョー、もう諦めましょう」
「うるさい。こういう時はタクシーに限る」
課長は、言い終わらないうちにタクシーを止めました。
そして、泥酔している割には妙にスバヤい動作でタクシーに乗り込み、
「運ちゃん、ラーメン。ラーメン」
などと叫びます。
「はぁ? お客さん、どこまですか?」
「どこまでって、ラーメンが食える所まで!」
運ちゃんは、「この時間にラーメン・・・」と、まるで念仏のように何度も唱えながら、市内を右に左にハンドルを切ります。
やがて到着したのは、大きな交差点脇に、屋台のラーメン屋が3軒くらい固まっている場所でした。
「お客さん、ココでいいっすか?」
「文句ない文句ない」
課長が機嫌よくタクシーを降りた事にホッとしながら、ワタクシは3軒の屋台の中の一つを指差し、
「カチョー、ココにします?」
と言いながら課長のほうを振り向くと・・・・・・
なんと課長が別のタクシーに乗り込み、ワタクシに手招きをしているではありませんか!!
ワタクシはてっきり、課長は屋台のラーメン屋を気に入らなかったのかと思いました。
そしたら違うのです。
無言で我々の顔を眺めて、行き先が告げられるのを待っている運ちゃんに対し
「運ちゃん、コレコレ。コレを買えるとこ連れてって」
などと、小指を振りかざしたのです。
「判りました。でも、この時間にやってるかなぁ・・・・」
ワタクシはアセりました。
カンベンして欲しいと思いました。
しかし、タクシーは無情にも走り続けます。
そして川っぺりの、なんだか妙にウサンクサそうな民家の前でタククシーは止まりました。
ワタクシは、そのようなイカガワシい買い物などした事はありませんでした。
しかしワタクシもオトコです。
運命は受け入れなければなりません。
「仕方ないなぁ」
などと思い始めた、その時!!!
怪しげな民家から、2人の女性が小走りに出てきました。
いや、女性というよりもオババなのです。
砂かけババァとカマドウマのような2人のオババは、
「いらっしゃいませぇ」
「はやく降りてきなさいよう」
などと口々にウメきながら、タクシーの窓にヘバりつくように顔を寄せてきました。
どんなホラー映画よりも、キョーフを感じました。
「運転手さん、このままクルマを出してください」
ワタクシは、搾り出すように叫ぶしかありませんでした。
課長は、走り出したタクシーの中で黙り込んだまま、もう誰もヘバりついていない窓を見つめておりました。
「ムツカシい内容」「膨大な仕事量」「アタマワルい客」
出張がトラブる3大要素です。
今回は、それに「アタマワルい身内」が加わってしまった物ですから、もう終わりが見るハズがありません。
帰宅予定日は日に日に後ろにシフトし、んもぉ蟻地獄状態でした。
しかしどんな悪夢でも、必ず覚める時はやってきます。
何日か目の夜11時、遂にシゴトが終わったのです。
後は、翌日にチョコっと打ち合わせして終りなのでした。
そんな時・・・・・
地方都市にありがちな緊急事態が発生しました。
「カチョー!! 宿が無いっす!!」
そうなのです。
宿が豊富な観光都市と違い、こういった中小都市の場合は、何か学会やら大会などがあると、まるでウソの様にイッキにホテルが満杯になってしまうのです。
「今日こそはシゴトを終わらして帰ろう」
なんて甘い期待で、毎日毎日チェックアウトし、その都度当日予約してたのが命取りになったのです。
電話帳のホテル欄は全滅しました。
客の担当者も、心当たりの宿を片っ端からデンワしてくれるけど、やはりダメでした。
いよいよ客先の駐車場で車中泊、もしくはエッチホテルに男3人で・・・・
そんな覚悟を固め始めると、執念深くデンワ器にかじりついていた客先の担当者が、妙な形に手を振りながら叫びました。
「宿がありましたよぉ!!ビジネスホテルじゃないですけど」
「なんでも良いです」
「●▼温泉という所です。もうゴハンは間に合わないそうですが」
「よいですよいです。泊まれさえすれば」
「ここからクルマで30分くらいかなぁ」
「行き方を教えてくださいな」
「う〜ん。目印になるものが何も無い所なので、私がクルマで先導します」
「ありがたやぁ」
「途中でコンビニに寄りましょう。そこで晩飯でも買って下さいね」
何やら、一軒宿の温泉なのだそうです。
せめて、北陸のひなびた温泉の情緒でも満喫し、仕事で疲れた体を癒そうかと思ったのは・・・・
これもまた、大間違いでした。
すでに午前0時近くです。
工場の正門前で、案内してくれる先導車を待っていたのですが・・・・
やってきたのは、●▼温泉を見付けてくれた担当者ではなく、その上司の課長様でした。
それがまた、ウチの課長に負けず劣らずの、おもいきりアタマワルイ人なのです。
訳の判らないイイガカリを振りかざし、この出張を長引かせてくれた張本人でもある御仁なのです。
少しは反省し、気を利かせてくれたツモリなのかもしれませんが・・・・・
イヤな予感。
「オレが先導してやる。アリガタく思え」
真っ暗闇の田んぼに浮き上がる、2台のヘッドライト。
右に左にクネクネ曲がりながら、九頭竜川の土手っぷちを河口に向って走ります。
ものの見事に何も無い大平原。
コンビニなどが有る雰囲気どころか、宿の存在さえも怪しくなって来た頃・・・
不意に、先導のバカ課長のクルマが止まりました。
周囲5キロ以内にはニンゲンなど存在しないと言われても、思わず信じてしまいそうな荒涼とした風景の場所でです。
いったい何が・・・・
60億人も居ると言われる人類の中で、ワタクシ達のクルマの3人しか見ていないだろうと思われる課長号のハザードランプ。
そして、クルマの中でゴソゴソと怪しげな動きを見せる課長。
我々の行く末は、この田んぼの光景と同じく、真っ暗闇なのでした。
暗黒の荒野のド真ん中にカエルの大合唱が響き渡ります。
ほんの一角だけカエルどもが押し黙っている場所に、2台のクルマが意味の無いハザードを灯して止まっているのです。
「おいっ、あのバカ課長はどうしちまったんだ」
コッチのバカ課長が呟きます。
「誰か様子を見てこいよ」
「なんか一人でゴソゴソうごめいてますね。何やってんですかね」
ワタクシは、前方に停まっているアッチのバカ課長のクルマに向け、ライトをハイビームにしてみました。
すると、その車内には、この期に及んで信じられない光景が映し出されたのです。
「うをぉ!!ち・地図を見ていやがる!!」
エバって先導を引き受けたバカ課長、どうやら道が判らなくなったらしいのです。
ワタクシはクルマを降り、バカ課長のクルマににじり寄りました。
「どうしたんですか」
「こ・ここはどこ?」
「なに言ってるんすかぁ!!」
んもぉ任せてはいられません。
バカ課長から地図を取り上げ、コッチのチーム3人であーだこーだ言い合いながら走り出しました。
もうコンビニに寄るなどと言ってるバヤイでは無く、とりあえず●▼温泉の方角らしき方向に進みます。
黙って後から付いてくるバカ課長のクルマ。
これじゃ、どっちが案内しているんだか訳が判りません。
ふいに、チンケな林の間から、マイクロバスが2台ほど止まっている建物が現れました。
バスのボディーには「●▼温泉」の文字。
ここだぁ!!
そこは、まるで不渡り手形でも出してしまった零細健康ランドの様な建物です。
ひなびた温泉宿などではありませんでした。
「ここだここだ。ここだった。んじゃぁオレが話をつけてくる」
急に威厳を取り戻したアッチのバカ課長が、エバりながら玄関に向ったのですが・・・
「カ・カギが閉まっているぅ!!!」
メンドーな事に巻き込まれたく無いらしく、バカ課長は逃げの体勢です。
「そりじゃ、確かに案内したからね。おやすみぃぃぃぃ」
誰一人、走り去っていくバカ課長に、労いの言葉を発するものは居ませんでした。
「すいませぇん!!!こんばんわぁ!!!」
しーん。
「さっき、予約のデンワを入れた者ですがぁ」
しーん。
室内には灯りが灯り、けっして誰も居ない訳ではなさそうなのですが。
「カチョー、どうします?」
「デンワしてみようか?」
「番号を知らないっすよ」
「良く見ろ。バスの横っちょに書いて有ったぜ」
「かけるったって、どこにデンワ器があるんですか。探しに行きますか?」
「んなメンドーな事してられっかよ。どっかから潜入しようぜ」
シゴトに疲れ、それに駄目を押してくれたアッチのバカ課長に疲れ・・・
そんな我々を暖かく迎え入れてくれたのは・・・・
半ば剥がれたモルタルの壁に沿って建物の裏側を徘徊しているうちに発見した、リネン室のドアなのでした。
とにかく、建物に入る事には成功したのです。
無人の廊下を彷徨いながら、ドヤドヤと進んでフロントらしき所に辿り着くと・・・・
無人のカウンターに、我々の社名が書かれたメモと、部屋のカギが置いてありました。
「なんだよう。建物に入れなきゃ意味無いじゃんよう」
ひったくるようにカギを拾い上げ、それでもホッと一安心です。
とりあえず、なんだか「宴会場(中)」といった感じの部屋に落ち着くと、次の難問を解決しなければなりません。
そうです。空腹なのです。
コンビニに寄れなかったので、食い物が無いのです。
「カチョー、どうします?」
「廊下のハジッコにさぁ、館内スナックがあったろう」
「確かにありましたねぇ」
「まだ営業してるフンイキだったぜ。カラオケが聞こえてたし。焼きウドン位は出してくれるんじゃないか?」
「さっすがカチョー!! 行きましょう食いましょう」
再び廊下をドヤドヤと行進し、怪しげな紫色の曇りガラスに覆われたスナックの前に立ちました。
中の様子をノゾき見る事はできませんが、間違い無くカラオケらしき音も聞こえてきます。
妙に弱々しい、国籍不明のユッタリした曲でした。
「なんかフンイキがブキミですよ。ボラれませんかねぇ?」
「よぉしっ。オレが様子を見る」
課長はまるでスパイかデバガメのように、妙にカラダをよじりながら少しだけドアを開け、そして中を覗き込みました。
「・・・・・・・」
「カチョー、どうですか?」
「ダメだ」
ワタクシもコゾーも、その理由を聞く気にはなりませんでした。
さすがに温泉宿だけあって、とてもキモチイイ風呂でした。
建物の外観からは想像できないリッパな大浴場で、我々3人で貸切り状態だった事もあり、広々とした感じが妙にユッタリ気分なのです。
コゾーと2人で湯船につかり、身も心もトロけておりますと・・・・・
課長が、洗い場でなにやらゴソゴソやっています。
「カチョー、なにしてるんすか?」
「パンツ洗ってんだよ! パンツ!」
「えっ?オモラシでもしちゃったんですか?」
「ばかやろう。んなワケないだろう! もうパンツが足りねぇんだよ」
「足りないって、ボクはコンビニで買い足しましたけど・・・」
「コゾー!! 誰のせいで足りなくなったと思ってんだ!!」
「す・すみません」
「まあまあ、もういいじゃないですか。ところでカチョー、パンツを全部洗っちゃって、どうするんです?」
「朝までには乾くだろう」
「今夜は」
「うるさい。ナマ浴衣だ」
「バッちいモノが見えちゃいますよぉ」
「じゃあ、オマエラのパンツ貸せ!!」
こんなアンバイで、穏やかに、そして知的に語り合う我々にも、風呂上りには現実が待っています。
そうです。餓えです。
「カチョー、缶ビールをゲットできました。自販機は、深夜の販売停止になってないっす」
「よっしゃぁ。じゃあ、今夜は麦の流動食でしのぐか・・・・・」
「あのぉ・・・」
「なんだ?コゾー」
「コレ、どぉっすか」
コゾーが差し出したのは、イカの形をしたセンベイでした。
普段から、絶え間なくオヤツを食っているコゾーの習性が幸いし、その備蓄が我々を救ったのです。
「おおっ!!ソレは素晴らしい!!生きて帰れるぞぉ」
大いに喜んで、踊るようにイカセンベイに飛びつく課長。
そしてイカの形の後光がさした5枚のセンベイは、上司部下の分け隔てなく、公差5ミリの範囲内で3分割されました。
実際には、そんなセンベイはオシメリ程度の役割しか果たさず、長く辛い夜が明けました。
とっとと宿を出れば、あとはコンビニを探すだけです。
ヨダレまみれのフトンを部屋のスミに蹴飛ばしながら、課長が呟きました。
「なあ、この宿で朝飯、食えないだろうか?」
「ムリじゃないっすか? メシ無しの素泊まりって聞いてますよ」
「何でも勝手に決め付けちゃイケない。確認しよう」
部屋のデンワ器で、フロントに内線をかける課長。
「もしもしぃ?朝飯、食えますか?」
「はいはい。どうぞ食堂に・・・・」
カチョーは、小躍りしながら我々に叫びました。
「おいっ!!食えるってよ!! 行こうぜ。コンビニのメシより上等だ!!」
3人で食堂に入ると、4人掛けのテーブルに案内されました。
「なかなかンマそうじゃん。食おうぜ」
アリキタリの質素なメシでしたけれど、前日の昼飯以来のゴハンです。
もう、五臓六腑から海綿体にまで染みわたる美味に感じられました。
散々にオカワリし、ハラも落ち着いたところで出発です。
ワタクシとコゾーは一足先にクルマに乗り込み、会計を済ませている課長を待っておりました。
やがて玄関から、課長が走って出てきました。
小走りなどというナマヤサシいモノではなく、全力疾走なのです。
課長は、なだれ込むようにクルマに乗り込むと
「おいっ!!早く出せ!!出発出発!!」
などと急かします。
「どうしたんですか?」
「いいから走れ!!」
クルマが、あの大平原に差し掛かりました。
暗闇の中では荒野にも思えたソコは、朝日に輝く田園風景に変わっておりました。
さすがにカエルの声も消え、あたり一面に静寂が広がっております。
そのノドカな光景を眩しそうに見つめながら、シミジミとした笑顔を浮かべて、課長が語り始めます。
「なあなあ、得したぜ」
「何がですか」
「タダだよ。タダ!!」
「えっ?まさか会計しなかったとか・・・・」
「あほぉ。そんな事するかよ。メシがタダだったんだよ」
「マジすか?」
「うん。宿泊料金しか請求されなかった」
「ま・まじでですか・・・・・・」
相変わらず、
「我々を閉め出した事に対する、お詫びのサービスだ」
「朝飯は、宿泊料金に含まれてるのでは?」
などと分析しあっている課長とコゾーの会話を聞き流しながら、
ワタクシには、ちょっと引っかかる事がありました。
我々が食堂で案内されたテーブルには、メシが4人分置いてあったのです。
そして我々が3人で座ると、一人分を、係りのオバチャンが持ち去ったのでした。
「アレって、もしや・・・・」
たぶん間違い無いでしょう。
課長がフロントに確認した際、行き違いがあったと思われるのです。
「もしもしぃ?(予約してないんだけれど、)朝飯、食えますか?」
「はいはい。(予約の分の朝ゴハンは既に用意出来てますので、)どうぞ食堂に・・・・」
このカッコの部分が抜け落ち、お互いに思い込みの会話だったに他なりません。
おそらく今頃、あの温泉旅館では・・・・・・・
4人連れの3人だけが食いっぱぐれて、ひと騒動おきている事でしょう。
ワタクシは、その考えを口には出しませんでした。
なぜなら、何だかんだ言いながら、実は課長も同じ事を考えているに違いないからです。
そうでないと言うのであれば・・・・・・
課長が慌てて旅館を飛び出してきた事実に、全く説明がつきませんから。