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6人の遠征隊(1999夏・剱岳登山)

別山からの剱岳 みくりが池にて

 冬の剱岳に逝った一人の若者。
その場所への訪れを決意した兄であったが、自分だけの力ではどうすることも出来ず、いたずらに年月だけが過ぎ去っていった。
そんなある日・・
「行こう!決まり!」

まり隊長のツルの一声・有無を言わさぬ大号令の元に応じる面々・・・
おおっ!!
その名も「豊田組・山のぼらー班」、凛々と集った精鋭達!

・イケイケはバイクだけじゃなかった!!猛進・重戦車:まり隊長

・影の隊長、岸壁のクモ男!!ビーサンの魔術師:よち副隊長

・頼もしい登山家、雲上の料理人:ピエール炊事班長

・スーパー下山家、幻のザトペック登山法:とどぬま救護班長

・体は細いが力持ち!!!?:ばたやんボッカ専務

そしてワタクシ、以上6名で未明の扇沢に出そろう。

 ここからトロリーバス、黒部ダムの上を歩きケーブルカー、ロープウエー、再びトロリーバス。
様々な乗り物を乗り継いで室堂へ。
乗り継ぐ度に上昇する物価、扇沢で180円だったポカリスエットは遂に220円に!!。
それでも、金さえだせば何でも手に入るのはここまで!
ここから先は、必用な物は全て自分で担ぎ上げなければならない世界なのだ。
「この位の道ならバイクでも走れる」
などとホザきながら歩く道は徐々に険しくなり、一汗かいて一の越に。
遥か下には黒部ダムの姿。
 ピエール炊事班長の声!
「よぉしっ!!昼飯っ」
って、まだ10時半ですぜぇ???
「山ではこれが常識だっ!!」
な・な・なんと!かなり時差のある世界だぁぁぁ!!
 さらなる急坂を登り、大汗かいて立山連峰の雄山到着!!
おんやぁ???
3000mを越える山頂部分だけが神社?になっていて、 そこに行くには参拝料500円も払えとの事。
セコすぎるぅ!!!
それでも、折角だからと全員で3000円の寄付(?)。
 料金所と化している鳥居をくぐり、数十メートル登って山頂へ。
祠があり、頼めばノリトなどもあげてくれるらしく、神主さんが登ってくる。
純正神主衣装で身を包んでいるが、 何かバイトのニイチャン風である。
アリガタい年寄り神主じゃ、ここまで来るのは辛かろう。
その神主、本業(?)のノリトよりも、シャッター押し係としての活躍が忙しそうだ。

 今回遠征中の最高峰の大汝山(3015m)を超え、次は真砂岳。
巻き道を発見した副隊長、
「こんなのいちいち登ってられるかよぉ」
と、別働ラクラク隊を結成。隊長/炊事班長/ワタクシの3人で山頂を目指す。
稜線上のオマケのような小さなピークなので、直ちに登頂、そして合流。
次は別山、今度は結構マトモな山で、 登る距離も先ほどとは訳が違う。
ここにも巻き道が有るけれど、これはキッチリ押さえておかねば・・・
それでも救護班長のみは、ドスドスと巻き道を突き進む。
登り始めた事を後悔する者もあらわれた頃にやっと登頂、一休み。
手の届くところに、子分の北峰が見える。
これは稜線から外れていて、ピストン登山になってしまうけど、
「せっかくだから、あれも行っとく?」
何となく言ってみると、元気一杯のまり隊長
「行こう!行こう!」
「マジかよぉ!!オマエらさては、ピークハンターだな!!」
あきれるピエール炊事班長。
結局3人で向かう事に。
がっ!!!!
「時間が勿体無いから走るぞぉ!!!」
駆け出す炊事班長、まり隊長も走る走る!!!
ま・待ってくれぇ!!!
荷物を降ろしているとは言え、これは辛い!!!
 別山を下り、ヒルネをしていた救護班長と合流。
雲に見え隠れしながら、天を突くような剱岳の巨体が姿を現す!!!
「つ・遂に現れたなぁ!!!待ってろぉ!!明日は覚悟しとけよぉ!!」

 剣御前小屋を通過し、本日の宿である山小屋・剣山荘を目指す。
そこまでは下る一方なので、気は楽なのだが・・・
点々と続く、オバチャングループ!全部で20人位は居るだろうか。
ここで炊事班長のつぶやき。
「あの連中の前にまわりたいなぁ」
「えっ?何でですか?もう小屋まで下るだけだから、慌てる事は・・・」
「山小屋はタコ部屋雑魚寝なんだよ。先に部屋に入った方が断然有利!一番乗りすれば、部屋のヌシとして威張れるぞぉ!!!」
「マ・マジですかぁ????」
何か昔のフェリーの2等に似てるなどと思い出しながら、やっぱり快適に越した事は無い。
こうして決行が決まった『N作戦(ヌシ作戦)』、快適な小屋生活を求めて、走るように下ってはオバチャン達を蹴散らすようにブチ抜く、炊事班長とワタクシであった。
 足がガクガクになりながら、やっと小屋に到着!!
「く・くぬやろぉ!重たい思いさせやがってぇ!キサマなんかこうしてくれるぅ!」
と、一気にルービ2カンを飲み干す。
これ以上ヌルいのは飲んだ事が無いほどのルービ、 でも、これ以上ウマイのは飲んだ事が無いルービでもあったのだ!!

 明日のルービを更に更にウマくするために・・・・・
早々と、そして静かに、山の夜は更けていく。

剣御前から眺めた日の出
 「翌朝は3時起床!4時45分出発!!」
前夜、副隊長から思いもよらない指令を受け、気分はすっかり「歌うヘッドライト!!」
何とか起き出すが、外は全然「朝」という雰囲気ではない。
それでも他の登山者達も皆起き出して、 それぞれに朝食をとっている。
まるで晩飯の光景だけど、これも午後に天気が崩れる場合の多い、山での常識 『早出・早着』なのであった。

 真っ暗闇のガレガレの急坂を、6個のヘッドランプを連ねて歩く。
昨日の登りは体力勝負、 今日はそれにテクニックが求められる岩登りが加わる厳しい道が続く。
しかも、いきなり剱岳そのものを登るのではない。
東西南北+αを揃えた浦和駅にはかなわないけど、「一服劔」「前劔」などの類似した名前のピークが立ちふさがり、 それをいちいち越えて始めて、剱岳本体へのアタックとなるのだ。
まあ、仕方が無い。
虎の穴だって、強敵ほど最後に出てくるではないか!!
 あたりが明るくなり始めた頃、一服劔に到着。目の前に立ちはだかる、まるで楯の様にそびえる前劔。
子分の分際でなかなか手強そうなヤツ、嫌になるほどの威圧感!!
せっかく登って稼いだ高度を一旦失い、 両手両足で岩にしがみつきながら前劔を登る。
ここで最初の鎖場が登場。
「いよいよ劔登山の為の最終試験ってとこですね。」
「いんや。まだまだ書類審査くらいかな?」
涼しい顔の炊事班長、ルートを見極めながら一歩一歩進んで行く。
「いやぁ!今日は良く登ったなぁ!!ハァハァ・・・」
って言いたくなるほど登りに登って、やっと前劔に到着。
いよいよ劔本体へ。
次々と鎖場が登場、しかも難易度はグンとアップしてくる。
「今度こそ劔登山の為の最終試験ってとこですね。ゼェゼェ・・」
「いんや。まだまだ一時面接くらいかな?」
再び炊事班長、く・くちょぉ!!!
 そんな会話を繰り返し、小さなピークで一休み。
おもむろに炊事班長
「そろそろ二次面接かなぁ・・・・」
いきなり緊張が走る。よ・よぉしっ!!!気合を入れなきゃぁぁ!!!
そんなワタクシの意気込みを知ってか知らずか、全く余裕の副隊長は・・
「あ〜ウンコしてぇ!!!!」

 遂に最大の難関、『カニの縦這』に。
垂直の岸壁、高さは数十メートル!!
正直言って、 「マジかよぉ!!!!」と叫びたくなるような光景なのだ。
「何言ってんだよ、昔は足場ボルトなんか無かったんだぞ!!」
そう言い残して、まずは炊事班長がアタック。
スルスルと手際良く登っていくが、途中で動かなくなる??。
どうやら出っ張った岩にアタマをぶつけ、天体観測をしていたらしい。
続いてワタクシ、鎖・岩に埋め込まれたボルトを頼りに、這うように登る。
まさに『カニの縦這』ですなぁ!! 良く言ったものですなぁ!!
なんて余裕だった訳ではないけど、無事クリア!!!
 まり隊長・救護班長・ボッカ専務・副隊長と全員無事に登り切る。
あとはゴツゴツとした岩の上を登って行くだけ。
頂上も見える!!
キツイけれども、ここまで来れば今更何でも無い登りだぁ!!
一歩一歩進む度に近づいていく山頂。
ついに・・・ついに・・・来てしまったぁぁぁ!!!!!

 小さな祠が視界に入る。
あと20m、あと15m、あと10m・・・・・・・・・
剱岳、標高2998m。
15年がかりの登頂の瞬間であった。


まり隊長 よち副隊長 ピエール炊事班長 とどぬま救護班長 ばたやんボッカ専務 そしてワタクシ


 岩だらけの山頂、何とも言えない達成感。
さっそくルービなどを飲み始める救護班長。
しかし、ワタクシには、ここはまだまだゴールでは無いのだ。
山頂から西に下る『早月尾根』を、標高差にして50mほど降りたあたりのポイント『カニのハサミ』。
ここが弟の滑落地点、死亡診断書に記載された場所。
ワタクシ一人では危ないとの判断か、まり隊長が同行してくれる事に。
歩き始めると、
おおっ!! よち副隊長・ピエール炊事班長も!!
ありがたい事です。
 かなり険しい鎖場を次々と下る。
『名勝・カニのハサミ』 なる看板がある訳も無く、それらしいポイントにて合掌!!。
滑り落ちたと聞いていたけど、 それどころでは無い急峻な崖、まさに落下に近い状況だったのでは??
何を考えながら落ちていったのだろうか・・・・・

 一旦山頂に戻る。
名残惜しいけど、いつまでもいる訳にもいかず、いよいよ下山。
下山だってナメていられないのだ!
恐怖のポイント『カニの横這い』が待っている。
やたら『カニ』ばっかりだけど、そういう名前だから仕方ないじゃないですかぁ!
 垂直に近い絶壁の横移動、クサリを頼りに何とか足場を探しながら進む。
落ちたらそれでおしまい。
さすが副隊長はラクラク通過。
長身の救護班長も難なく通過。
しっかり足場に出来るポイントは少なく、 足が届かない辛さ!!
ほんのちょっぴりしか足をかけられない場所をも足場にせざるを得ない。
 ズリッ!!足を滑らせてクサリにぶら下がるボッカ専務!!
「絶対に手を放すなぁ!!!」
緊迫した叫び!!身が縮む思い!!

 難所といえる場所は全てクリア!!
ホノボノとした、小粋なトークを楽しみながら下る。
何故か道徳の話題。
「童話や言い伝えは、みな道徳的な教えが盛り込んで有る!」 などと、この場ではどうでもいい会話が続く。
「オランダの話で、少年が堤防に開いた穴を発見し、自分の腕を突っ込んで街を守ったって話があったなぁ。 タイトルは、たしか『ハーレムの少年』とか言ったような・・」
「な・なにぃ!!ハーレムだとぉ!!ガキのクセにウラヤマシすぎるぅ!!」
「そ・そりは・・・」
 しかし、危険という物は、こういう時にこそ訪れてくるのであった。
前劔からの急な岩場の下り、 唐突に落下して来る頭大の岩!!
不気味な乾いた音をたてて、まり隊長に向かって一直線に転がり落ちてくる!!
とっさに、自らの足で止めようとする救護班長!!
無情にも、そのつま先をかすめるように一歩届かず!!
益々まり隊長との距離を縮めながら落ちてくる岩、他の者には何もする事が出来ない!
下手に横に飛び避けると、 自らも転がり落ちてしまう急な斜面!!!

 つい先程と全く変わらない抜けるような青空、その空に突き刺さるように居並ぶ山々。
我々を襲う非常事態などには全く関心を示す事も無く、有史以前から変わらぬ姿で、 ただただそびえ続けているだけであった。


カニノハサミ    前剣のクサリ場

 まり隊長を襲う落石!!
迫り来る岩!
転がりながらそれを避けるまり隊長!!
まり隊長の、きゃしゃな体?をかすめる様に、岩は奈落の底に落ちていく・・・・
「だいじょぶかぁぁぁ」
ゆっくり起き上がる隊長・・・
「だめぇぇぇぇぇ!!!」
人間の方は、転がった際の軽い打撲・擦り傷程度だったのだけれども
「カ・カ・カメラがぁぁぁ!!!おニューのカメラがぁぁぁ!!」
レンズには、まるでクモの巣が張ったようなひび割れが・・・・・

 気を取り直し、本日の山小屋・剱御前小屋に向かう。
小さな雪渓を横断。
スキー中級ゲレンデを歩いて横切る気分。
小さいけれど、ビギナーには十分に恐い恐い!!
足を滑らせたら、直滑降数百メートル!!
 山小屋到着!!!
今日も「ルービ最ウマ記録」更新!!まずはカンパイ!
そして小屋の目の前の、 小さなピークに登ってまたカンパイ!!。
それにしても、ビーサンで登ってしまう副隊長。
真似して便所風サンダルで登ると、足の裏が死ぬほど痛い!!
いったいどういう足の裏をしているんだか。
ふと見ると、伊豆下田の海に行った時に履いていたのと同じビーサンではないか!!
おおっ!!
一月ちょっとの間に、標高差3000m近くを制覇したとは、良い持ち主に使われたなぁ・・・ ビーサンよぉ。

 我々の登頂を祝福するように次々と現れる珍客達。
まず現れたのは「ブロッケンの妖怪」。
太陽が後ろ、前面には濃いキリがある場合に見られる現象。
キリに自分の影が、円形の虹に囲まれて写っている。
手を振れば振り返してくる、カワイイやつ!!
 小屋の中での晩飯準備中、次にやって来たのはいきなりの雷雲!
ドカンドカンとまるで祝砲のように。
ここは標高2700m、雷雲の中で聞くカミナリなのだ!!
したがって稲妻は上から下へではなく、右に左にそこいらをうろつく!!
嗚呼!テントじゃなくて良かったぁぁ!!
 翌日も未明に起床。
昨夜のカミナリがウソの様な、満天の星空。
人工衛星がゆったりと進むのが見える。
東の空には第三の珍客・・
おおっ!!オリオンだぁぁ!!
今年もイロイロな出来事があった夏。
その都度、それを空から見守って居てくれたサソリ座にかわり、 「さあ!夏は終わりだ!」と言わんばかりの冬の盟主の登場!
ああ・・そうだな。
今年の夏よ、有り難う!!
また来年もヨロシクね!!


 今日も観光客でにぎわう立山黒部アルペンルート。
黒部ダムを見下ろす展望台にも多くの人々が訪れている。
その観光客達が遠巻きに・無言で見守る中・・・
轟々と湧き水の溢れる水飲み場。
はしゃぎながらヒシャクを手に手にアタマから水をかけあう 「豊田組山のぼらー班」の面々!!
なんとも楽しげな・・・・
客観的に見ればハズカシげな・・・・
そして、ちょっぴり寂しい遠征終了のひとこまであった。
遠征隊のみなさま、ありがとう

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