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第一幕 1998年・夏

夏の終わりの出来事です。
釧路から有明を目指すフェリー・ブルーゼファー。
出航早々にロビー横で始まったライダー達の大宴会をよそに、甲板のベンチで寄り添う男女。
この2人が出会ったのは、3日前の開陽台でした。
お互いに、何か惹かれあうモノがあったのでしょうか、そのまま一緒に行動を重ね・・・・・
いつしか、それは運命的な出会いだったとしか言い様の無いほどに、強い絆で結ばれてしまった二人でした。

男が手にした北海道版のマップルには、ここ数年の彼の行程を示す黄色いラインマーカーが、網の目のように塗り巡らされております。
おもむろに女は、自分の通ってきた道程を、ピンクのラインマーカーで書き加え始めました。
至る所で接近し、交差し、そして開陽台からはピッタリと重なっている2本の線。
「ここの岬、あたしも行った!! あらっ!! このキャンプ場も2年前に泊まったわ。」
「なんだぁ、ほとんど同じような所を周ってたんだね。ちょっぴり遠回りしちゃったなぁ。」


以上は架空の話です。
多かれ少なかれ独身ライダーは、旅に出る目的の一つとして、こんな展開への期待を胸に秘めているに違いありません。
ただし、そんなカンタンにいくほど世の中は甘くないというのも、紛れも無い事実です。
再び、先ほどの架空の話に戻ります。
この二人が開陽台で出会うまでに、何度も繰り返されたニアミス。
アチコチで同じ座標軸に居合わせたにも関わらず、二人をスレ違わせていたのは「時間軸」でした。
何年・何日だったかも知れないし、数分だったかも知れない「時」の差が、二人の出会いを遅らせていたのです。
もしかしたら出会う事もなく、それぞれの旅が終わっていたのかも知れません。
むしろ、そちらのほうが遥かに多いケースなのでしょう。
「今日はどこに行こう」
「この道、左右どっちに行こう」
ひとつひとつの気まぐれの積み重ねの末、「時」・「空間」が一致して始めて訪れる「出会い」。
それは、ニンゲンの力や努力だけでタチウチできるモノではありません。


さて、そんな神のみぞ知る偶然を克服した二人の独身オトコのお話です。
それは給油の為に立ち寄った、足寄のガソリンスタンドでの出来事でした。
ナニモノかがワタクシの背後から迫り、おもむろにワタクシの首を絞めてきたのです。
「おっ! おっ! なんだなんだ! 誰じゃぁ!」
「おぎさぁん!何やってんの?」
「おおっ!!豊田組長!!  キグウですなぁ!」
確かに、「時」・「空間」が一致して始めて訪れた「出会い」には違いありませんが、それだけの事です。
先ほどの架空の話とは悲しいまでにも異なり、ロマンスもヘッタクレもありませんでした。
その頃は、そんな程度の出会いしか、物に出来ない二人だったのです。

しかし、しかぁしっ!
このワタクシは朱蘭さまと、そして豊田組長はケーコ姐さんと、それぞれ旅先で出会った相手とケッコンしちゃったモノですから、世の中は何がどうなるのか判りません。


第二幕 2001年・春


月日が流れ・・・・・
ついにオトォチャンになってしまったワタクシは、下町の区役所まで出生届を提出しに向かいました。
一人で行けば用事は済むのですが、カンドーは家族で味わうのが我が家の方針です。
朱蘭さまとオコチャマの退院に合わせ、オコチャマまで連れて家族3人で行ったのでした。

目指すは戸籍課。
ボロい横長の建物の、一番奥まった窓口です。
青い文字で印刷された『出生届』、当然ながら始めて記入するのです。
思わずキンチョーし、名前を書く手も震えます。
係員の
「おめでとうございます」
の声と引換に届を提出し、内容確認の為に15分ほど窓口の前あたりで待たされる事になりました。

その間にも、色々な人々がやってきました。
若い二人連れが仲良さげに現れ、見覚えのある、茶色い文字の書類を提出しています。
「おめでとうございます」
う〜ん。去年の今頃、我々も提出した『婚姻届』ですな。
あれから一年、なんだかアッという間の出来事でした。

次に一人でやってきたケバい感じのオネェチャン、こちらも茶色い文字の書類です。
「おめでとうございます」
係員は、形式ばった祝の言葉に続き・・・
「あのぉ、何度目でしたっけ?」
そ・そんな事を聞いちゃうの?
まあ、本人がヨユーで答えてるんだから、何もモンダイは無いのかも知れませんが。

そして次に現れたのは、20台後半から30台前半位の二人連れです。
男はスーツに身を包み、いかにもシゴトを抜けてきた感じ。
女は茶パツで、ブランド物のバックなどをこれ見よがしにぶら下げて、二人で寄り添う様に窓口に向かいました。
う〜ん。
やっぱり茶色い文字の書類は、二人で仲良く提出するのが絵になりますなぁ・・・・・・
んにゃ??
ミ・ミ・緑の文字の書類だぁ!!!
そう。緑というのはロンリーな色。
そんな文字で印刷されているのは『離婚届』なのです。

それにしても、こんなに仲良く緑文字の書類を提出する人々が居るとはオドロキなのです。
提出後にしばらく待たされる間は、我が家族が座っている長椅子の隣りに、やはり二人寄り添って座っているのです。
「ねぇ、アタシのケイタイにメール入れた?」
「入れたよ。返事くらいよこせよ」
「マナーモードにしてるから判らなかったのよ。」
「ちゃんと見ろよ!!」
「仕事中だったから仕方ないでしょう!!。いちいちウルサイわねぇ!」
う〜ん、やっぱりどこかトゲトゲしい会話です。
緑の資格はあるのでしょうか。

やがて女は、カウンターの上に積み置かれている茶色い文字の書類を指差し、薄笑いを浮かべながら男に話し掛けました。
「あんた、どうせすぐにアレを書いて出すんでしょ?」
「出さねぇよ。オマエだろう、すぐに出すのは」
「そんな予定は無いわよ。少なくても10年は・・・」


そんな会話を聞いているのかいないのか。
我が家の提出した青い文字の書類の漢字を、一生懸命に漢和辞典のようなもので一字一句調べている係員。
彼の目は、これまでも様々な人生の片鱗をチェックし続けてきたのでしょう。
そんな人間ドラマに触れながら、いったい何を思うかコームイン!!
案外、テレビに出まくるインチキ占い師よりも、的確な人生相談を行えるのかも知れません。


第三幕 2005年・早春

ある新聞の調査によりますと、
「結婚しなくても、女性は幸せになれる」と答えた独身女性が70%
そして
「ニンゲンは、必ず結婚すべきだ」と答えた独身男性が45%

上記の結果を、ひっくり返して逆さに読んで曲解すれば・・・・・・
「ぜひ結婚したい」と考えているのは
独身女性:30%
独身男性:45%
という事になります。
つまり、30人の女性を45人のオトコで奪い合いになる訳なのです。

「必ずしも結婚は必要ない」と考える男だって結婚しちゃったりするのです。
なので実際には更に厳しい争奪戦になる訳ですが、仮にソレを無しとしたって15人のオトコが余る事になります。
そうなると、
「アタシ、別に結婚しなくてもイイわぁ」
なんて考えてる女性を、切り崩していかなければならないのです。
これは厳しい戦いです。
「それじゃ、出会いを求めて旅に出る回数を増やそう」
そんなんじゃダメです。

誤解されがちですが
「旅先での出会い・・・そして結婚」なんてのはマヤカシなのです。
確かに豊田組内においても、組長を筆頭に、そんな夫婦が10数組います。
しかし、しかぁしっ!!
冒頭の架空の話のような、出会った途端にレンアイが始まったケースなんて皆無です。
みぃんな、その出会いから紆余曲折を重ねた結果なのです。
もちろん我が家だって、出会ってからイロイロとありました。

繰り返しますが、「旅先での出会い」なんて、たんなるキッカケに過ぎないのです。
披露宴とかで発表するエピソードとしてはウツクしいかもしれませんが、
「同じサークルで」「シゴト関係で」「トモダチの紹介で」「お見合いで」
などなど、キッカケとしてはみぃんな同列なのです。
偶然を待っているだけでは、自らチャンスの窓口を狭めるだけで、やがてはイキドマリです。

さあ、行動しましょう。アチコチに触手を広げましょう。
ただし、空気を読む事は重要です。
一歩間違うとストーカーになりますから。



とある日曜日、房総の九十九里浜に行きました。
海水浴客が来るハズも無いこの時期の九十九里浜と言えば、バイクでのサンドランに幾度となく通ったものでした。
そんな事も今や昔。
オコチャマの誕生以来、
「イチゴ狩りの時期に合わせて、焼きハマグリやイワシも喰いまくろう」
などと全く趣旨を変えながらも、我が家の年中行事になっていたのです。

成東でのイチゴ狩りの後、腹減らしに九十九里浜で戯れるのも毎度の行動なのですが、今回は寒さに負けて車中でヒルネです。
サンドラン天国だった広い砂浜も、クルマが乗り入れ禁止になってから久しく、ただただ閑散としておりました。
バイクは潜入できる状態ではありますが、さすがにこの寒さです。
そこまで元気なヤツの姿は見えません。
ときおり現われるカップルどもは、まるで使命感に満ちた監視員のように、例外なく波打ち際までヨタヨタと往復するのでした。


イワシ屋になだれ込めば、冬の房総の定番客なのでしょうか、やっぱりカップルだらけです。
我が家の隣にも、30歳前後のお二人様が座っておりました。
にこやかに二人で語り合っているのですが、なんだかちょっぴり様子がヘンなのです。
それなり美形で妙にハッキリした口調のオネェチャンは、敬語とタメ口がチャンポンで、その内容も自己紹介的なのです。
はっはぁん。
もしかして始まったばかり、もしくはこれから始まろうとしているお二人様なのでしょう。

一方のオニィチャンは、容姿もイマドキ風でスラっとしたイイオトコなのですが、その口調は
「さえない」「間が悪い」「ジジくさい」
の三重苦。
おいおい、もすこし頑張りたまい!
いい年コイて、アニメやゲームの話なんかしちゃイケん!
ああ、勝手にイラつくよう。

そしたら、そのサエナい君がビシっと決めてくれました。
どうやら子連れバツイチらしいオネェチャンに・・・・・・・
「オレ、本当の父親にはなれないけれど、トモダチみたいな関係で子供を守る」
おおっ! いきなり言い切った!
話の脈絡を全く無視した発言だったけど、それなりに良い所にパンチが決まった!
オネェチャンは姿勢を正し、話題はイッキに具体性を帯びていったのでした。



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