「週末の放浪者」TOP2軍>限定解除

限定解除(1992・府中)

 今はイロイロとシステムが変わっておりますが・・・・
バイク乗りになったからには、やはり全てのバイクに乗る資格が欲しいものです。
立ちはだかるのは免許証に記載された
『自動二輪は中型(400cc未満)に限る』
の憎っくき文字。
こ・こりさえなければ!!!!
誰もが一度は、この理不尽な呪いの言葉から逃れたいと思うのでは無いだろうか。



ガタガタになったSTEED400の車検を半年後に控え、
「車検を通すのは勿体無い!買い換えよう。どうせならSTEED600に。」
などと考え、限定解除を目指したのは初冬でした。
いきなり試験にチャレンジしたところで合格する気はしないので、雑誌でテキトーに見付けた大型練習所を偵察に行き、そのままイキオイで入所。
そこが
「オラァ!!!」「バカヤロー!!!」
の掛け声と共に竹刀ミサイル攻撃が飛び交う、恐怖のスパルタ練習所だと知ったのは入所後の事でした。
練習所脇の、徐々に寂しくなっていく銀杏の木を見上げながら
「あ〜・・・いったいいつになったら大型に・・・・」
などとうめいてGSX750(あかべこ)に跨る日々。

当時の府中の試験車両はFZXかVFR。
この練習場にも前記2台は有ったのだけれど、キッチリ乗れてくるまではGSXにしか乗せてもらえず、
(たまにホライゾンも登場!!これはGSX満車時の予備車両でした。)
怪しげなデジタル表示のギアを気にしながら、延々と続くスラローム特訓に泣かされる。
「最後の一枚が散るまでには何とか・・・」
などと、密かに考えていた銀杏の木、ついには丸裸になる。
とにかく苦手はスラローム。
「おらぁ!!ケツ振り過ぎだぁ!!そんなんじゃ雨の日に滑るぞぉ!」
毎度の竹刀攻撃!!
軽くハタくなんて甘いもんじゃ無い!!
突いてくるのである。
こりは痛いよう!!

「よぉしっ。次からFZXで練習しても良しっ!!!」
やったぁ!!!
GSXから乗り換えると、なんとも軽い!乗り易い!!
ただしペダルの角度がきつく、長時間乗ると辛い辛い!!
ギア抜けとブレーキ引き摺りに悩まされる。
そしてVFR。
いきなりデカさを感じてビビりながら乗ると・・・・
おおっ!!低速でのノッキングの嵐!!!
こりはシトいよう!!!

嗚呼!!
ホントに合格する日は訪れるのだろうか!!!


何気に「戦友」といった気分になり、思わず団結する練習生達。
色んなシトがおりました。

教授

某・有名大学の教授、60歳。
他の練習所では「責任が持てない」と断られて、ここの練習所に入門。
最初は超危なく、人間魚雷など日常的。さすがに竹刀では殴られなかったけど、相当に鍛えられていた様子。
努力のシトで、練習有るのみ!!
待合室をトクホン臭くしながらも・・・
なんと!!
府中では1回目で合格!!!!

熱血ねーちゃん

峠系の走りで、本人は相当自信があったらしい。
いきなりハングオンで皆を驚かせる。
「そんなライン取りじゃ合格出来ない!!!」
と、散々怒られっぱなし。
もちろん竹刀付き指導。
思うような走りが出来ないと、走りながら悔し泣き!!

謎の白人、デビッド・ダグラス

長身で、皮の上下をピッチリ着込み、バイクに跨ると超カッコイイ!!
バリバリと走っちゃいそう!!!
でも・・・・・・・
笑っちゃうほどターヘー!!
(名前は推定)

V−MAXくん

練習所の駐輪所に、いきなりV−MAXで登場。
ここに来る位だから免許は無いハズ・・・
教官に問い詰められ
「トモダチに乗っけてもらって2ケツで来た」
と言い張るが、見られた以上、そのまま乗って帰れる訳が無い。
遂には白状し、そのまま破門となる。



土日のたびに、大型練習所での地獄の様なシゴキが続く。
いや、「様な」は不要だったかもしれない。
「おらぁ!!!ヒザァ!!!」
「おらぁ!!!視線が悪い!!」
ピシピシピシピシピシ!!!!
アリガタいご指導は、乗り方だけでは無かった。

「そんなブーツ履いてっからギア抜けするんだ!!紹介してやるからブーツ買ってこい!!!」
「は・はぁ・・・」
(これは確かに、紹介価格で安かった!!)

「おらぁ!アメリカンなんかに乗ってっから上達しないんだ!」
「は・はぁ・・・」
(こりは紹介されたって、簡単には買えないよう!!)

「おらぁ!!!明日も練習に来るツモリかぁ?」
「き・来ます(ドキッ!!まさか破門?)」
「よぉしっ。そんじゃ今日はバイクを置いて帰れよ。」
「?????」
「暗くなるまで、何かテキトーに手伝っとけ!!」
訳が判らないまま、倒れたパイロン起こしなどの矯正労働。
そして・・・
飲み屋に拉致されて肝臓を鍛えられ、更にカラオケで声帯を特訓されるのであった。


銀杏どころか年も押しつまってくる。
何とか年内に免許を・・・
そんな気持ちから、思わず試験の予約を入れる。
所長様は、全然上達していない練習生が受験するのには批判的なのだ。
恐る恐る報告すると
「ふ〜ん。まあ、試験の雰囲気を味わってくるのも悪くないなぁ。」
ワタクシが合格するなどとは、みじんも思っていないのであった。




とりやえず、受験の申し込みに府中に出向く。
下見のツモリで試験の光景を覗くと・・・・
おおっ!!こんなターヘーなヤツラが受験しているよう!!
オリのほうがジェンジェン上手いではないか!!
思わず自信がこみ上げる。
しかし彼らの走りのぎこちなさは、技術がどうこうと言うよりも、プレッシャーとの戦いの結果だと言う事が、後に身を持って知らされる事になる。


おうっ!!!
とんでもないものを見てしまったぁ!!!
なんと、一本橋を落下したヤツが合格してしまったのを目撃!!!
試験官が見落としたとしか考えられない!!!
府中のバヤイ、スタートしたらイキナリ一本橋。
そして波状路・スラロームと、課題走行が続く。
失敗したら試験中止!
スタート地点に帰されるのだけれど、
「キッチリ乗れていると判断されたヤツは、途中で失敗してもある程度の場所までは走らせてくれる」
(あくまでも練習させてくれるだけ。当然不合格)
と言った傾向があると聞かされてはいた。
ところがソイツ、帰されないままアレヨアレヨと完走し、黄色い手帳を渡される!!!
(府中の場合、合格者にのみこれが渡されるのです)

一本橋は、控えている受験者や金網越しのギャラリーの目の前!!
当然皆は見ていたのだ。
合格者が出ると普段なら拍手喝采となるハズなのに、まばらなパチパチといった手拍子風の拍手に送られて、オロオロしながら戻って来るソイツ。
金網越しに見ていたワタクシ、思わず声をかける。
「おめでとう。ラッキーだったじゃん!!」
「そうっすよぉ!!訳がわかんないけど受かっちゃいましたよぉ!!!完全にダメだと思ってたから、全然プレッシャー無く走れましたよぉ!」
思わぬ合格に高揚し、大声で喋り捲るソイツ。
金網越しに見守っていたソイツの彼女風おねーちゃん、
「シーッ!!!シーッ!!!」
慌ててソイツをたしなめる。

後に、スパルタ練習所の鬼所長さまにこの話をしたら
「ソイツはラッキーじゃ無い!!カワイソーなヤツだ!!ソイツは一生『自分はホントは合格じゃなかった』という十字架を背負うのだ!」
などと言っておりましたが・・・・
正直、当時のワタクシは羨ましかったです。
自分がソイツの立場だったら、自己申告までして不合格にならなかっただろうなぁ。





いよいよ試験当日!!
気合で府中へ!!
指定された時間に受験生待ち合い小屋に。
まだ試験官は来ておらず、50人程の受験生たちが不安げにタムロしている。
やがて・・・・
はるか向こうから走ってくる3台のバイク!!
試験官様が試験車両に乗ってやってきたのだ。
「果して試験車両は?????」
誰もがたたずをのむ。
や・やったぁ!!今日はFZXが3台だぁ!!!
安堵の雰囲気に包まれる。

「はいっ!始めますよぉ!!。今日が初めてのシトはこっちに来てぇ」
そう。
初受験者には事前審査があるのだ。
8の字押し歩きと引き起こし。
そしてセンタースタンド掛け。
これが出来なければ試験は受けられない。
使われるのはホライゾン。
昔(TYG時代?)は悪質で、タンクに砂を詰めるなどの小細工がしてあったらしいけど、そんな事はもう無いとの事。

この日は初受験が15人も居て、かなり時間が掛かりそうであった。
「はいっ!今日は大勢居るのでテキパキやります。ホントは8の字ですが、我々プロの目で見て大丈夫そうなシトは、途中でOK出します。」

一番手の受験生が押し始める。
「はいっ!OK」
えっ?3歩しか歩いていないよう?
そこから二番手がスタート。
やはり3歩でOK。以下同じ。
15人がかりでも2〜3周もしないままで終了。
こ・こりは・・・・
プロの目がどうこうと言うよりも、試験官が果てしなくカッタルかっただけだとしか思えない。

「はいっ!次は引き起こし。テキトーに二人一組になって!!」
アタリマエの事だけれど、引き起こしの試験をやるからには、その都度バイクを倒さなければならない。
ドスンとコカす訳にはいかないので、被試験者がサイドスタンド側・補助者が反対側にそれぞれ立ち、二人でバイクをそっと寝かして被試験者が引き起こす訳なのだけれど・・・・
どこにも大ボケ者は居るのである。
アタマワルい補助者、何と起こす時も手伝ってしまったのだ!!
「く・くぉらぁ!!何をする!!!それじゃ試験にならんだろう!!」
怒る試験官。
全く当然である。
しかし・・・・
「まったくもぉ!!!!。はいっ!!次のシト!!!」

そ・そのままOKかいっ!!!
何の為の試験なのだぁ!!!!



(つづくかも)

「2軍」に戻る
「週末の放浪者」 トップページへ