RAIL FAN COLLECTOR　国鉄最後の蒸気機関車　Ｃ６３型　

　　　　　　　　　　　ＳＬ讃歌

蒸気機関車、という呼び方の響きには、懐かしさと、憧れ、そして幼い日の小年の夢が蘇える。
その力強いドラフトの響きは、少年の体中の血液を支配し、軽快なリンケージのリズムは、神経中枢さえも支配してしまう。

彼の雄たけびにも似た汽笛を聞けば、少年の目は彼の吐き出す煙を追い求め、その色で彼の息吹を読み取り、彼の体調まで理解してしまう。その黒光りしたモンスターと向かい合う時、もはや少年をして彼を語るに、言葉はいらない。少年の見た機関士は英雄であり、少年はいつかその英雄になることが夢であった。

蒸気機関車は、モビールスーツであり機関士はその選ばれしオペレーターなのである。

時は過ぎ、過ぎ去りしノスタルジックな思い出と共に、今も数少ない彼らとの出会いの瞬間は、あの時と何も変わらぬ時間が蘇える。
黒煙を勢いよく吹き上げ、自分に向かって驀進する雄姿に、若き日の恋人に再会するに似た心の高鳴りは、周囲を妙な静寂に包んでしまう。

　ひときわ大きな汽笛に我に返り、目の前をせわしなく動きまわるコネクテイングロッドを、瞬きもせず見送り、そして単調な客車のコトコトン.コトコトンというリズムが遠ざかり、彼の体臭にに酔いしれながら風の音と、小鳥のさえずりに静けさをとりもどす。

　その至福の時を得るための長い時間のアプローチは、彼に出会えるための一途な思いからで、嘗て我が妻を追いかけた時と似ている。

　そして今、時を越えて自分が半世紀前の、学帽に白い日よけをかぶせ、半ズボンにズックの靴を履いた少年に成っていたことを知った。・・・・・

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