PRESENT
最近テルが冷たい。
もうすぐ僕の誕生日だっていうのに…
この間だって
「今度の火曜日何の日だか覚えてるよね?」ってきいたら
パソコンから目も離さずに、「何の日だっけ?」だって。
その前だって、僕が
「今日、テルのうち行ってもいい?」っていったら
いつもなら笑顔で「もちろん!」って言ってくれるのにさぁ
「ごめん。今日部屋散らかってるから今度ね」だって!
テルの部屋が散らかってるのはいつもの事なのに!
散らかってたって僕が掃除してあげるのに……
この間までしつこいくらい優しかったのに……もう僕の事嫌いなのかな…?
…誕生日に1人きりって寂しいよね。
そりゃ、タクロウくんとかスタッフとかは盛大に祝ってくれるけど…
大スキな恋人がしてくれるのとは違うもん。
今だって控え室にいるのに、僕から離れた所に座ってるし。
あーあ、タクロウくんとヒサシくんは仲良さそうでいいなぁ
ヒサシくんにいじめられてもタクロウくんは嬉しそうな顔してるし。
顔がにやけてるよ…タクローくん…
ヒサシくんも素直じゃないよね〜
…って2人のことはどうでもいいんだよ!!問題なのは僕たちなんだから!!
なんでだろう…僕なんかしたかなぁ?
あ!!もしかして…
もうすぐ僕の誕生日だから3人でなんかたくらんでるとか?!
あ、でもヒサシくんとかタクロウくんはいつもとかわんないしなぁ
ヒサシくんはさ、何があったって表情一つ変えないけどさ(ウソツキだもんね、ヒサシくんは)
タクロウくんはすぐ顔に出るタイプだし、嘘つけない人なんだけどなぁ
最近ヒサシくんと似てきたのかな?嫌だなぁ、ヒサシくんみたいなの2人もいらないよぉ
まあ、タクロウくんみたいのが2人いるよりはいいかな?
タクロウくん、ペシミストなんだもん。落ち込むとなかなか浮上しないしさぁ…面倒なんだよね。
…ってまた脱線してるよ、僕!!
う〜〜テルに聞いてみようかな?
でもなー、どーしよー…よし!
「テル、あのさぁ…」
「ジロウ?何?」
「すいませーん!テルさん、ちょっといいですか?」
「何?」
「ちょっと来てもらえますか?」
「ごめんねジロウ、何か急用?」
「いや、僕は後でも平気だから」
「そう?」
あ…せっかくこっち向いてくれたのに…スタッフのバカ!僕のバカ!テル、行っちゃったよ…
ジロウが落ちこんでいる時、タクロウとヒサシはといえば…
「なぁ、ヒサシ、ジロウが…」
「アイツ顔にでるからな〜以外と。」
「落ちこんでるね。」
「でも、しょうがねぇだろ。てっこが黙ってろって言ってんだから」
「でも…可哀相だよ。ジロウあんなに落ちこんでるのに」
「だから、俺たちが首を突っ込むことじゃないだろ。」
「でも…」
「オマエ、うるさい。」
タクロウの“でも”の声にヒサシがきれて怒り出す。
「ごめん…」
タクロウがしゅんとなってしまったのを見て、ヒサシが立ちあがる。
「ほら、行くぞ!」
「どこに?」
タクロウがきょとんとした顔で聞いてくる。
「タバコ買いに行くんだよ!」
「なんで…?」
「オマエとジロウ2人きりにしといたら、ちょっと問い詰められたら、ペラペラ喋っちゃうだろ!」
怒った声で、でも小声でヒサシは言った。
「あ…」
「おい、ジロウ!俺たちちょっと出てくるから。すぐ戻ってくるけどな。」
「あ…うん」
そう言ってヒサシはタクロウを引っ張って控え室を出て行ってしまった。
あ…出てっちゃった…
なんだろう…こそこそ話したりして。
ちぇっ、3人ともさ、なんかいっつも僕の事仲間外れにしない?
そりゃあ3人はさぁ、函館にいた時からずーっと一緒で親友って感じだけど、
僕って…なに?
たまに僕は入れない雰囲気をつくったりしちゃってさ
プライベートでは、テルとは恋人だけど…
それを除いたら…あの3人とは、何なんだろう?
ただのメンバー?友達?親友?
…っていうか僕、何で誕生日を目の前にして悩んでんの?
なんか…凹んできた……
あーもぉー!!スタジオ行ってこよ。今なら誰も居ないよね、きっと。
ジロウが、悩んでるのが嫌で音楽へと逃避する為に控え室を出ていった。
誰も居ない部屋に戻ってきたのは…テル。
「あ…ジロウ、居ないんだ。」
そこへ出ていたヒサシとタクロウが戻ってきた。
「あれ?ジロウ居ないの?」
「ん〜どっか行っちゃったみたい。」
「オメーよー、いつまで黙っとくんだよ。あいつ異様に落ちこんでたぞ」
「ホントに!?」
「ホントだよ。ねぇ、てっこぉ、ジロウ可哀相だよ」
「でも、せっかくのプレゼントなのに…今ばれたらさぁ…」
「喜ばせたいんだろ?」
「そう」
「喜ばせるのはいいけどよ、その前に嫌われてもしらねぇぞ」
「そうだよ。」
「うん…でも…もうちょっとだからさ。それまで内緒にね?」
「わかったよ」
ヒサシはそう言ってため息をつく。
「じゃあ、俺帰るから!」
そう言ってテルは荷物をまとめて帰ってしまった。
「…俺らまたジロウの泣きそうな顔見なきゃいけないの?」
「しょうがねぇよな」
2人は同時にため息をついた。
「そういえば、ジロウは?」
「さぁ?」
ヒサシが首を傾げると、そこにちょうどスタッフがやってきた。
「あのぉ〜」
「ああ、なに?」
「ジロウさんが…」
「ジロウがどうしたの?」
「スタジオに1人ではいってるんですけど…」
「この後、ここ使うの?」
「いや、それは無いんですけど…」
「じゃあ、そのままやらせといてあげてよ。みんな帰っていいからさ」
「わかりました。」
しばらくすると、スタッフは全員帰って行った。
ヒサシとタクロウはジロウがいるスタジオを覗きにいった。
見ると、ジロウは広いスタジオに1人で楽器を手にしていた。
「ひさしぃ…」
「…俺らも帰るか。」
「そう…だね…そっとしといてあげようか」
ヒサシとタクロウはジロウに伝言を残して帰っていった。
テルは大急ぎで自宅に帰り、着替えて作業に取り掛かる。
テルがしているのは、ジロウへのプレゼントだった。
ジロウになにか形に残るものをあげたい、と思ったテルが得意な
絵を描いてあげる事にしたのだった。
ジロウの誘いを断わっていたのはその為だった。
ヒサシとタクロウにも協力してもらって、ジロウには内緒にしてもらっている
「…ごめんね、ジロウ…寂しい思いさせて。もうちょっとだからさ」
作業を続けながら、テルは呟く。
もう少しでプレゼントは出来あがりそうである。
落ちこんでいるジロウだったが、とうとう明日は誕生日という日が来てしまった。
今日の夜はにパーティか〜またタクロウくんが張り切ってるんだろうなぁ
テルは相変わらず冷たいしな…
ホントはさ、テルと一緒に12時を迎える予定だったのにさ…
あ…タクロウくんが呼んでる…
「ジロウ!今日あの店に夜10時に来てよね」
「なんで9時なの?タクロウくん。」
「準備があるんだよぉ…1回家に帰ってもいいしさ、ね?」
「分かった…じゃあ僕もう帰ってもいい?」
「うん。じゃあまた後でね」
ジロウは自宅に戻っても暇を持て余していた。
「なんだよ〜、まだだいぶ時間あるよなぁ。テルは…今日は来なかったみたいだし…
…なんか眠くなってきちゃった…いいよね…まだ時間あるし…」
…眠っちゃいました。ソファーで、クッションを抱きしめながら。
「ん…あ…寝ちゃった…今何時ぃ?9時50分…やばっ!!
遅れちゃうよ!!早くしなきゃ!!あと10分だよぉ!!」
ジロウは車を猛スピードで走らせて(テル並)、パーティ会場のライブハウスへとたどり着く。
「10時10分か…ちょっと遅れちゃったな。」
ジロウはお店がある地下へ向かう階段を降りる。
重い扉の向こうには沢山の人がいるんだろう、と思いながら、ギィ、と少し錆びた音がするドアを開く。
「あれ…?」
予想に反して、というか、予想外に中は真っ暗だった。
「間違えたかなぁ…でも、10時って言ったよね…」
不安に駆られていると、突然真っ暗なステージに一筋の光が…
「誰…?」
突然の光の眩しさに、光の方を直視できないジロウ
「Happy Birthday!!」
「テル?!」
ステージに立っていたのは、大きな花束を抱えたテルだった。
赤、青、白、黄色、ありとあらゆる色の詰まった大きな大きな花束を持っている。
「なんで…?皆は…?」
「皆が来るのは一時間後だよ。2人きりで12時は迎えられないけど、
先に2人きりでお祝いしなって。」
「何で…もう…僕の事、キライになったんじゃ…ないの?」
「ごめんね、寂しい思いさせて。誕生日プレゼント、内緒にしたかったからさ。
それに、俺がジロウのことキライになるわけないでしょ。」
「でも…」
ジロウがその場に立ち竦んでいると、テルがステージを降りてジロウに近づいてきた。
「はい、まずはこれ。」
そう言って花束を渡してくる。
「ありがとう…」
「これだけじゃないんだよ。」
その言葉のすぐ後、重いドアが開く。
現れたのはタクロウとヒサシ。
タクロウが手になにやら持っている。
こっちにやってきてその荷物をテルに手渡す。
「おめでとう、ジロウ」
「おめでと」
「ありがとう…タクロウくん、ヒサシくん」
「ジロウ、これ俺からのもう一つのプレゼント。」
「開けてもいいの?」
「うん。開けて見て」
ジロウは花束をヒサシに持っててもらって、包みを開く
現れたのは、大きなキャンバスだった。
そこに描かれていたのは…
「これ…僕?」
そう。描かれていたのはジロウだった。
「もしかして…これ…書いてたの?だから僕を家に呼んでくれなかったの?」
「そう。なかなかうまく書けなくて、時間かかっちゃったんだよね。」
「テル…ありがとう…僕…」
「大好きなジロウになにか形のあるものをあげたかったんだ。
ジロウは、俺が“何が欲しい”ってきいても、いっつも“なにもいらない”っていうでしょ?」
「だって…テルがいてくれるだけで…幸せだもん…」
「ジロウ…愛してるよ。」
「僕も…大好きだよ…」
テルがジロウを抱き寄せる。そして激しいキスをする。
「んっ…て…るぅ…」
「はいはい、そこまで!いちゃいちゃしない!もうすぐ皆来るんだからね!」
「ちぇっ。…かえっちゃだめ?」
天然なボーカリストの言葉に、イベント好きなタクロウが怒る。
「始まる前から主役がいないなんで!ダメに決まってるでしょうが!!
明日、思う存分いちゃいちゃしてください!今日は我慢。」
「…はーい」
テルは不満そうに返事をした。
後一時間で17日という所で徐々に人が集まりだした。
ジロウの交友関係の広さからか沢山の人が集まった。
「5、4、3、2、1、0!Happy Birthday!!」
パーン!皆が一斉にクラッカーの紐を引く。
「ジロウ、おめでとう!」
「おめでとう!」
そこかしこから聞こえる祝福の声。
「みんな、ありがとう!!」
その夜のパーティは大いに盛り上がった。
もうすでに、みんな酔っ払っています(笑)
「ジロウ……」
「テル…プレゼント、ありがとう…」
2人は部屋の隅のあるソファーに座って話しています。
周りに起きている人は…誰もいません(笑)
「ねぇ、テルぅ」
「なに?」
「僕、テルの肖像画の方が欲しかったな」
「どーして?」
「だって…テルがいなくても寂しくないし…」
「そんなのいりません!」
「…なんでぇ?」
「だって、俺がいつも隣にいてあげるから。」
そういって、ジロウの唇に軽く触れるようなキスをする。
「テル……もう僕に冷たくしないでね?僕…もう嫌われたかと思って…」
「ごめんね。でも、もうそんな事しないよ。」
「テル……大スキだよ」
「俺も、愛してるよ。このまま…帰っちゃおうか?」
「うん。でも…飲酒運転は良くないよ?」
「……タクシーでかえろっか?」
酔っ払って寝ている皆を置いて、2人は帰って行きました。
これから2人で誕生日をお祝いするのでしょう。
そして、なにをするかは…そんな野暮なこと……自分で想像しましょう(笑)
なにはともあれ
ジロウくん、、、HAPPY BIRTHDAY!!
「帰ったな…ま、当然か。おい!起きろ!」
「んぁ〜、とのぉ…。」
寝ぼけ眼で返事をするタクロウ
「はいはい!なんですか!」
「てっことジロウはぁ?」
「もうとっくに帰ったよ!」
「俺らも帰ろぉよぉ」
「はいよ。ほら立て!」
「ん〜抱っこぉ〜」
「ふざけんな!自分で立て!」
「とのの意地悪ぅ…」
タクロウはそう言ってまた寝てしまいました。
「ったく……」
ヒサシはため息をつく。
面倒くさそうな顔をしながらも、ヒサシはタクロウを抱えて外へと運ぶ。
ここへ来るのに乗ってきた自分の車の後部座席にタクロウを放りこむ。
「ったく、はしゃぎすぎなんだよ…」
運転しながら文句を言うヒサシ。
タクロウは起きる気配もなく、クークーと寝ています。
そんなタクロウをぶつぶつ文句を言いながらも優しい眼差しで見つめていたヒサシ。
彼らのお話はまたいつか…