君と2人で


20世紀最後の日。
誰もが浮かれるこの日、アメリカの地で1人地の果てまで落ちこんでいる男がいた。
彼の名前は、TAKURO。GLAYのリーダーである。


タクロウは誰もいないスタジオで1人作業をしていた。今日は大晦日だというのに。
「ホントなら、ヒサシと一緒に過ごすはずだったのに…」
タクロウはそう言ってため息をつく。
タクロウが1人で作業をしているのにはワケがあった。
ヒサシと些細な事でケンカをしてしまったのだ。
ケンカの原因はホントに些細な事だった。

「はあ?!オマエなに言ってんだよ!」
「だって…」
「だってじゃねーよ!!ふざけんな!!」
「ヒサ…」
ヒサシは怒ってタクロウの部屋を出ていってしまった。
慌ててヒサシの部屋に行ってもそこには誰もいなかった。
テルやジロウやスタッフに聞いても、ヒサシが何処にいったか分からなかった。

それが昨日だったのだ。
寂しさを紛らわせるため、黙々と作業をしていたら、
気がつくともうスタジオの窓がら夕日が差し込んでいた。
「もうこんな時間か…」
あと少しで20世紀も終わりである。
「一人で年越しか…21世紀なのにな…ヒサシ…寂しいよ…」
バタン
急にドアの開く音がする。びっくりして振り向くと、そこにいたのは…
「あ、マイケル…」
この地で一緒に働いているエンジニアの1人だった。
彼もまた驚いている。まさかこんな日にこのスタジオに人がいるなんて思ってもみなかったのだ。
『どうしたんですか?』
タクロウの問いに、マイケルは、
『この間、忘れ物しちゃってね。とりに来たんだ。ところでタクロウこそ、
こんな所でなにしてるんだい?今日は大晦日だよ?』
と逆にタクロウに聞いてくる。
『恋人とは過ごさないのかい?』
『いや…』
『まさかケンカでもした?』
『あ、まぁ…』
そう言って、寂しそうに笑うタクロウの頭を自分の子供にする様に撫でて、マイケルは言う。
『早く仲直りしなよ。せっかくの21世紀を1人で迎えるなんて寂しいことはやめな。』
『…ありがとう…』
タクロウはその優しさに微笑みで返す。
マイケルは、See you next century!と言いスタジオを去って行った。


マイケルはスタジオを出て、ビルの入り口で人とぶつかりそうになる。
「Sorry!Oh、HISASHI!!」
彼がぶつかりそうになったのは、ヒサシだった。
ここまで走って来たのか、息をきらせて肩を上下させている。
『あ…マイケル…なんで?』
『忘れ物を取りにね。ヒサシこそ、どうしたんだい?もしかしてヒサシも忘れ物かい?』
『いや、俺はそうじゃなくて…中に誰かいました?』
『ん?ああ、タクロウがいたよ。彼はどうやら恋人とケンカしたみたいだね。
とても寂しそうな目をしてたよ。一人で年越し、なんてことにならないといいけど』
「やっぱり…」
『ん?どうかしたかい?』
『あ、別に』
『そう?』

ヒサシはマイケルの「See you next century!」という声に、
「Bye!」とだけ答えて再び走り出した。


再び1人になったスタジオでタクロウは寂しく呟いた。
「ヒサシかと思った…。なんて…ヒサシが来てくれるワケないのに…
なに俺期待してんだろ…。」
バタン
再びドアが開く音がした。
「マイケル…また何か忘れた……ヒサ…」
どうせまたマイケルがなにか忘れて戻って来たんだろうと振り向いたタクロウの
目の前にいたのは、今一番逢いたいと思っている人だった。
ヒサシは息を切らせて、ハァハァと息を吐いている。
「ヒサ…シ…どして…?」
驚いて目を丸くしているタクロウの元に、ヒサシは大股でツカツカと歩み寄ると、
タクロウを抱きしめる。
「ヒサシ…」
「ごめん!」
タクロウはおずおずとヒサシの背に手を回す。
「タクロウ…1人にしてごめんな。」
「ヒサシ…ごめん…」
「オマエはあやまんなくていーんだよ。」
「でも…」
「オマエは悪くない。悪いのは全部俺なんだよ。それより…何でここにいたんだ?」
「…部屋に1人でいるの…寂しくて…ここで曲作ってれば…寂しくないかな…って…」
「で?」
「やっぱり…1人は寂しいよ…。ヒサシ…俺のこと嫌いにならないで…」
「嫌いになんかなるワケないだろ!」
「…ホント?」
「…ったりまえだろ!」

ソファーに2人並んで座る。
「あと何分?」
タクロウはヒサシの肩にもたれながら聞く。
「30分」
「外すごいんだろうな」
「俺が来た時も結構すごかったけどな」
「20世紀も終わりかぁ…」
「そうだな…。さてと…」
タクロウの服を脱がそうとするヒサシ。
「…なにしてんの?」
「ヤリ納め。」
「は?」
「20世紀最後ってことで。」
服を脱がす手を止め、あっさりとヒサシは言う。
「でも…してる間に年明けちゃうよ?」
「そしたら姫初めってことで」
「姫言うなよ〜」
「姫じゃん」
「…俺、こんなデカイのに…」
「俺が可愛いって言ってんだから、いーだろ」
ちょっと凹んだタクロウに、ヒサシはきっぱりと言う。
「……うん(照)」
タクロウは嬉しそうに顔を赤くして、ヒサシの背中に手を回す。
「…ヒサシ…して…いいよ…」
「じゃ、遠慮なく(笑)」
「んっ…」
2人は深いキスをする。


「やあっ…ヒサ…」
ソファーに組み敷かれているタクロウがヒサシの名前を呼ぶ。
「…タクロ…」
ヒサシは愛しげな眼差しでタクロウを見つめる。
2人抱き合っていると、タクロウが小さい声で聞いてくる。
「…あと…何分…?」
「んーあと1分…もないや。」
そう、21世紀まであと1分もないのです。ヒサシが(21世紀か〜)と思っていたら、
「…キス…して…」
とタクロウが言ってきた。
「ん?キスしながら年越しか?それもいーな」
外が騒がしくなってきた。どうやらカウントダウンが始まったようだ。
30、29、28…と徐々に数字が減って行く。
「20世紀も終わりだね。いろいろあったなー…でも一番は…」
「なんだよ」
「…ヒサシと出逢って、こうやって一緒にいられること、かな。」
「可愛いこと言うじゃねーかよ」
「だって…んっ…」
まだなにか言いたそうなタクロウの口を塞ぐ。
外からは、カウントダウンの声が更に大きく聞こえている。

『10!』

『9!』

『8!』

『7!』

『6!』

外は更に騒がしくなっている。

『5!』

『4!』

『3!』

『2!』

『1!』

『ゼロ!! A HAPPY NEW CENTURY!!」
皆の騒ぎ声やら花火やら、どこかでなっているクラッカーの音やら。
ありとあらゆる音が聞こえてくる。
しかし、この部屋に流れるのはキスを交わす2人の息遣いだけ。
「…あけましておめでとう」
タクロウは嬉しそうに微笑む。
「おめでとう。21世紀も…」
ヒサシはそこで口篭もる。
「なに?」
タクロウが首を傾げて聞く。
「…俺が幸せにしてやるからな…」
タクロウにも微かにしか聞こえない声でヒサシはそう言った。
「…うん…ありがと…」

2人は抱きしめあって眠った。
タクロウは今までで一番幸せな年越しだと、ヒサシの腕の中で眠りながら思っていた。
「ヒサシ…大好き…だよ…」
そう寝言で呟いた。
「タク…?寝言か…。オマエが寂しくないようにずっと側にいてやるからな。」
ヒサシは抱きしめたタクロウの額にキスをして自分も目を閉じた。

外はまだ新世紀を迎えた興奮で歓声がひっきりなしに聞こえていた。




8282をゲットしたユズルくんのリクでヒサタクでした。
ケンカして、タクロウが落ちこんでて、でもやっぱり仲直りして…っていう感じなのですが。
彼らは年越しはNY、ってことで。こんな感じだといいなぁ、と。
どうなんでしょう??