空港を出ると、事務所のスタッフが車を止めて待っていた。
「ヒサシさん、用意しておきましたよ。」
「ああ、ありがとう。で、これ。」
「はい。なんですか、これ?」
「飛行機のチケット。もう帰ってイイよ。」
「え?俺一緒に行かなくていいんですか?」
「うん。というかさあ、帰ってくれる?」
HISASHIは笑顔で言うと、スタッフを置いて車に乗って走り出す。
「ひさしさ〜ん…。ま、いいか。帰ろ。」
スタッフはそのままHISASHIに渡されたチケットで東京へ帰って行った。
3人の乗った車はHISASHIの運転で、海の方へ向かって行った。
「ねえとの!何処行くの?海になんているわけないじゃん。」
「は?海になんて行かないけど。」
車が向かったのは、海の近くの小さな駅。
その古びた駅の待合室にHISASHIは入って行く。…そこにJIROがいた。
「ジロウ。やっぱりここにいたんだな」
「…ヒサシくん、テル……タクロ…くん…なんで…ここに…」
「迎えに来たんだよ、ジロウ。帰ろ?」
TERUが優しく言うが、JIROはただ首を振るばかり。
「このまま帰っても、今まで通りになんて出来ないよ…。だって、だって……」
「…ジロウ…」
「今まで通りに、普通にタクローくんに接するなんて出来ないよ!」
JIROは泣くのを堪えて叫んだ。
TAKUROは必死に泣くのを堪えるJIROをみて、愛しさがこみ上げてくるのを感じていた。
いままでは、なんであんなこと言ったんだろう、という後悔と、申し訳無い、という気持ちだったのに。
なせだろう
いまはJIROを抱きしめて、慰めてあげたい。原因を作ったのは自分なのに。
JIROが愛しくてたまらない。
TAKUROはJIROにそっと近づく。
「ジロウ」
そう言ってJIROの腕をつかむ。
「は、離して!」
JIROはその腕にすばやく反応した。離してもらおうと必死になっている。
そんなJIROを見て、TAKUROは自分の思いに気づいてしまった。
JIROの手を引っ張り抱きしめる。
「や、やだっ!離して!…離してよ…」
「ジロウ、愛してる。」
「嘘だ!同情なんかされたくない!」
JIROはそう言うと腕の中からするりと抜け出て、走って出て行ってしまった。
「ジロウ!!」
TAKUROが走って追いかけようとする。が、腕をつかんで止めたのはHISASHI。
「ちょっと待て。」
「なんで!」
「今の、本気か?」
「本気だよ」
「ジロウが信じたと思うのか?今のはジロウを傷つけただけだぞ」
それでもTAKUROはJIROを追いかけて走って行った。
HISASHIはため息をついて、TAKUROが走って行くのを見守っていた。
TERUはといえば…
「おい!お前タバコ吸ってる場合じゃねえだろ!!」
部屋の隅のベンチでタバコを吸っていた。
「え〜だめなの〜?どーせここで待ってるんでしょ?長くなりそうだし。」
HISASHIはTERUの手の中のタバコの箱を奪う。
「没収」
「え〜」
TERUの不満そうな声をよそにその箱からタバコを一本出す。
「との、自分のは?」
「急いでで忘れた」
ヘビースモーカーの2人は、タバコを吸って待つ事にした。
「長くなる事は確かだな」
「ジロウはいがいと頑固だからねえ」
無言になる2人
「でもさあ、とのぉ」
「ん?」
「…うまくいくと良いよねえ、あの2人」
「そうだな」
「ジロウ!」
逃げるJIROを追いかけて、浜辺まで来てしまった。
砂に足を取られながら逃げるJIRO、追いかけるTAKURO。
2人の距離がだんだんと縮まっていく。
TAKUROがJIROの腕をつかむ。
腕を振り払おうとして、JIROがバランスを崩す。
「うわあっ」
「うわっ」
TAKUROもバランスを崩し、2人は砂浜に倒れこんだ。
「ジロウ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫…」
TAKUROは不意にJIROを抱きしめる。
「ジロウ、さっきの言葉嘘じゃないよ。ジロウがいなくなってから、
俺、ず−っとジロウの事考えてた。」
「…嘘…」
「さっき1人でいたジロウ見て、俺、気づいたんだ。ジロウの事好きだ、って。」
「嘘だよ…」
「ジロウはもう俺の事嫌いになっちゃったんだ……」
「そんなっ!」
「そんな事無い?」
「…だって俺…タクロ…くんにあんな事言っちゃって…絶対…嫌われた、って…」
「ジロウ、ごめんね」
「え…?」
「俺の事、ずっと好きでいてくれたんだよね。今まで気づかなくてごめんね。
……ジロウ…俺と付き合ってくれますか?」
「タクローくん…いいの…?」
「いいもなにも俺、ジロウの事好きになっちゃったもん」
「タクロ…くん…俺もタクロ−くんの事好き…です。」
「ジロ…」
「タクロウくん…」
2人は波の音をBGMにそっとキスをした。
空と海はもう…茜色に輝いていた。
「あ、2人が帰ってきたよ!」
TERUの声にHISASHIがその方を見ると、2人がニコニコと何かを話しながら
こっちに向かってきていた。
「うまくいったみたいだな」
「ね。見て!手、繋いでるよ!」
「ま、うまくいってよかったな」
「そうだねえ」
「ただいまぁ」
「ごめん、待たせた…みたいだな」
TAKUROがてんこ盛りになっている灰皿を見て、苦笑い。
「うちの大事なリーダーと裏リーダーのためだからね。ね、との」
「そうだな。さ、帰るか。そろそろ行かないと飛行機間に合わないし。あ、それと…」
「なになに?」
「いつまでも手繋いでんなよ。」
「いーじゃん、との。ラブラブなんだしさ〜」
「あっそ。おい!早く来ないと置いてくぞ!!」
4人は駅を後にした。
JIROが戻ってからのGLAYの勢いは凄かった。とくにTAKUROが。
今まで曲を書いていなかった分を取り戻すかの様に、毎日の様に曲を書いた。
時にはJIROが曲を書き、TAKUROが詞を書く、ということもあった。
そして当然のように2人はいつも一緒だった。
「ねえ、ジロウ?」
「なに?」
JIROはTAKUROの家に来ていた。リビングで雑誌を読んでいると、仕事部屋
からTAKUROが出てきた。手にはMDを持っている。
「これ…聞いて見てくれる?」
「ん−イイよ−」
と言ってTAKUROの持ってきたMDを聞く。
「どう?」
「うーん。なんか…切ないメロディラインだね。」
「気に入ってくれた?」
「うん。こういうの結構スキかも。」
「ホントに?よかった−」
「どうして?」
JIROがそう聞くと、TAKUROが笑顔で言った。
「この曲はジロウのために作ったんだ。だからジロウにあげる。」
「タクロ−くん…、ありがと。」
JIROは嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「いーえ、どういたしまして」
「今度僕がタクロウくんにプレゼントしてあげるね」
「楽しみにしてます。」
クスクス
何か新婚家庭みたいな雰囲気なのでした…
後日、TAKUROは別の仕事のため1人遅れて、3人の居る仕事場に着いた。
そしたらなにやら盛り上がっていた、JIROが。
「ねえねえ、聞いてよ2人とも!」
「あ?」
「なに〜?」
「昨日ね、タクロ−くんがね、僕にね曲をプレゼントしてくれたの!」
「ふーん」
「よかったね〜」
「も〜もっとちゃんと聞いてよ−ねーヒサシくん!」
「てっこに聞いてもらえ」
PCに夢中のHISASHI。仕方なくTERUの所へ行くと、
「あ、ごめん。ちょっと今忙しい」
と、こっちもPCに夢中。
JIROは怒った。2人のパソコンの電源をプチン、と切った。
「あー何すんだよ、テメェ!」
「ああ、いいとこだったのに…」
「2人が僕の話を聞かないのが悪いんだからね!!」
JIROが仁王立ちになって怒っている。
「無茶苦茶だな、お前。」
HISASHIがため息をつく。
と、そこにTAKUROが遅れてやってきた。
「どうしたの?そんなとこで」
「タクロ−くん!だって2人が僕の話聞いてくれないんだもん!」
「お前らちゃんと聞いてあげろよ。」
TAKUROが2人を注意する。そしたらHISASHIが
「お前が来たんだから、もうイイだろ。こいつうるさいんだもん。タクロ−がね、タクロ−がね、って。」
「うちの大事な裏リーダーなんだから、君達もっと大事にしなさい」
「はいはい」
HISASHIが適当に返事をすると、そこにスタッフがやってきた。
「ジロウさ〜ん!ちょっといいですか?」
どうやらJIROに用があるらしい。
「あ、うん。」
JIROはスタッフと一緒に部屋を出ていった。
「おい、タクロウ」
PCのふたを閉じながらTAKUROを呼ぶ。
「なに?」
「うまくいってるみたいだな」
「もちろん。」
「…最近ジロウも元気だし、よかったよね。タクロウの事ですごく悩んでたのが嘘みたい。」
TERUが笑顔で言う。
「お前が鈍感過ぎるからだよ」
というHISASHIの言葉に、TAKUROは何も言えない。まさにその通りだから(笑)
「ま、よかったよな。JIROがいないと俺らやっていけないしな。」
うんうん、とTERUとTAKUROも頷いている。
「あ!!」
「なんだよ、てっこ」
「ああ、あのさぁ。何で分ったの?」
「は?」
TERUの話には主語が無い。だから分りにくい。
「え?だから〜とのは何でジロウの居場所がわかったの?」
「簡単だよ。電話の後ろの音を拾っただけ」
「後ろの音、って?」
「だーかーらー、電話があったろ?その時ジロウの声と一緒に聞こえた音の事。」
「それで何で分ったの?」
TERUには何がなんだかさっぱり分らなかった。
「秘密。教えない」
「なんで〜!?タクロウは分かったの〜?」
「う〜ん、なんとなく…ね」
「ずる〜い!俺だけ仲間はずれじゃん!!」
ジタバタとTERUが暴れている所へJIROが戻ってきた。
「どしたの?テルは。」
「ほっとけよ」
HISASHIが冷たく言い放つ。
「さて、帰りますか。」
「なにいってんの!これから打ち合わせでしょーが!」
と、TAKURO。
「え〜終わりじゃないの〜」
駄々をこねているのはTERU。
「ああ、それタクロウとてっこだけだけど」
「うそ!ジロウは?」
「俺と、とのくんは無しだって。ボーカル録りの話らしいから。
だから帰ってイイよ、ってさっき言われた。」
「そっかー。ジロウ先帰っててイイよ。」
TAKUROはとても残念そうである。
「うん。じゃあタクロウくん家でまってるね。行こ、とのくん」
「おう。じゃあな」
「ねえ、とのくん。」
「なに?」
「ばれてないんだね、今回の事。」
「当たり前だろ。お前俺に感謝しろよ」
「感謝してるよ、ホントに。タクロウくんにちゃんと好き、って言ってもらったし。」
「…お前、こんな事2度と考えるなよ。わざと居なくなって、タクロウに好きになってもらおうなんて。」
「もう考えないって」
「ばれたらただじゃ済まないんだからな。立場を考えろよ、マジで。」
「もー分かってるって」
すべてJIROの計画通りに事が運んだのでした。
それを手伝ったのはHISASHI。盗聴機ももちろんダミー。
TAKUROはそれを知らない…
なんてオチなんだ・・・
途中で終わっても良かったかな…。何か2人がくっついたとこで終わったら短くなっちゃって。
もう途中からは後日談、みたいな感じ。
最初はうまく書けてたのにな。トホホ