DREAM

 

pipipipipi
今日は珍しく午後からレコーディングという朝、携帯電話が枕元で鳴る。
半分寝ぼけたまま通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「タクロウ!?」
「あ〜…ヒサシ?どうしたの?珍しいねぇ、電話してくるなんて…
なんかあった?」
―何かあった?じゃねぇ!早く来い!
「え?なんで?」
―いーから(怒)。10分以内で来いよ!
「えー無理だよ…」
―いーから来い!わかったな!
「はい…」

いつものように勝手にオートロックを解除して部屋まで来る。
「ヒサシ〜どうした、うわっ!」
ドアを開けて中に入ると、ヒサシが抱きついてきた。
「な、なに?どしたの?」
「どうしよう…俺…俺……になっちゃった…」
「は?何?聞こえなかったよ?」
「だから……女…に…」
「は?どういう事?」
TAKUROはHISASHIの着ているTシャツの首元から覗く。
そしてTAKUROは愕然とした。
本来平らなはずの所にふっくらとしたものが…
「えっ…どういう事…なの?」
「俺もわかんない…朝起きたら…どうしよう…」
「どうしよう…って…言われても…今日、レコーディングだよね?」
「俺…行きたくない…」
TAKUROが返事をしようとすると、再び電子音が鳴り響く
pipipipipi
「はい。ああ、やまもっちゃん?どうしたの?えっ…ああ、ホントに?
うん、わかった。はいはい。じゃあ」
「なに…?」
「ん?今日はレコーディング中止だって。機材トラブルがあって、修理に
丸一日かかるからって。」
「じゃあ…今日休み?」
「みたいよ」
「よかった…」
HISASHIは安心したのか、またぎゅうっとTAKUROに抱きついてきた。
「ヒサシさん…あのぉ…」
「なぁに?」
「いや〜…あたるんですけど…」
「なにが?」
「あー…胸が…なんかさぁ…とても複雑な心境なんですけど…
嬉しいような…なんていうか…」
「あ…ごめん…」
「それにしても…なんか…」
「ん?」
「ヒサシ、色っぽいよ?誘ってる?」
「なっ…なに言ってんだよ!こんな時に!」
「だって…ふーん、ヒサシが女の子だったら、こーゆー感じなんだぁ。
良かったねぇ、男で。オンナノコだったら襲われてるって。絶対。」
「てめぇ…人がこんな時に…」
あまりに呑気なTAKUROに怒ったHISASHIはいつもの様に
ボディーに一発。

「あれ?」
いつもすごく痛がるTAKUROがけろっとしている。
「あれ?」
「ヒサシぃ、痛くないよ。」
「な、なんで…」
「オンナノコでしょ、今。だからじゃなーい?」
ニヤニヤとTAKUROが笑っている。
その顔は「ヒサシのパンチが痛くなかったら、怖いものなんてないもんねー」
と言っている。

ムカ!
「てめぇ!勝ったと思ってるだろ!」
「別に〜。ほらほら女の子なんだから、そんな言葉遣いしちゃダメ」
TAKUROはそう言うと有無を言わさずHISASHIを抱き上げる
そのままお姫様抱きにしてリビングへと戻る
「なんだよ〜勝ち誇ったような目しやがって〜!」
HISASHIはTAKUROの腕の中で暴れるが、TAKUROは異にも解さない。
「ほらほら、そんなに暴れたら落ちちゃうよ。」
「うっせえ!降ろせ〜!」
「だーめ。」
ジタバタと暴れるHISASHIを抱えてリビングまで来たTAKUROは
ソファーへ座る。もちろんHISASHIを抱えたまま。
HISASHIをヒザの間へと座らせる。
「ねえねえ、どんな感じ?女の子になって」
「…変な感じ」
「なんかさぁ…抱きしめた感じもいつもと違うよね。柔らかいし。」
「なにそれ?」
「いや、なんとなく」
「…そっちの方がいい…の?」
「いつものヒサシの方がいいよ。」
「…じゃあ、今の俺は…嫌い…?」
「どーしたの?」
「……不安……」
「ふーん。ねえ!ちょっと出かけない?」
「えっ…」
「大丈夫だから。ね?」
「でも…」
「じゃあ、てっことジロでも呼ぶ?」
「それは嫌だ。」
「じゃあ行こ?」
「…うん…」
(なんか…うまく丸め込まれたような…)とHISASHIは思った。
「よし、決定!ちょっと待ってて。電話してくる。」
「電話ってどこに…」
「まあまあ、ちょっと待っててよ」
そう言ってTAKUROは寝室へ行く。
「あ、TVでも見ててよ。たぶん時間かかるから」と言ってドアを閉めてしまった。
「何だよ……パソコンでもしよ。」

この人は自分が今どんな状態なのか、分かっているのかしら(笑)
あなた今、女の子なのよ?!

TAKUROが寝室から出てくると、HISASHIがパソコンに熱中していた。
(なんか…やっぱりいつもと違うよな…やっぱり女の子だよなぁ)
なんて思っているTAKUROだった。
(それに…なんか色気が…やっぱり、襲っちゃおうかな…)
ちょっとオヤジなTAKUROだった…

HISASHIの後ろ姿を嬉しそうに眺めているTAKURO
パソコンに夢中になって、他の事に全く意識が向かないHISASHI

しばらくそんな状態が続いたが、突然玄関のチャイムが鳴った。
その音でやっとHISASHIが振り向く
「あー、いーよいーよ。俺でるから」
「あ、そう。」
HISASHIはまたパソコンへと意識を戻す。

あーあー、今は女の子なんだから胡座なんかしちゃダメじゃない。

「タクロウさん!用意してきましたよ!」
「あ、ありがとう。休みなのにごめんね」
「いえいえ。それより、周りにみつからない様にしてくださいね」」
「はいはい、分かってますよ」
「じゃ、くれぐれも羽目をはずさないように。」
「分かってるって。しつこいね、君も。」
「じゃあ、僕はこれで」

TAKUROがリビングへと戻ってきた。
手にはなにやらダンボール箱が。
「今の…ヤマモト?」
「そうだよ。ちょっと荷物を持ってきてもらったんだ」
「それ…?」
「そう。はい、これ着て」
「えっ…」
HISASHIは箱の中の洋服を見て頭を抱えた。
「これ…俺が着ろって…?」
「うん!」
「いや…ちょっと待てよ…これって、女物だろ…?」
「そーだよ。」
「そーだよ、って…そんなあっさり…」
「…だめ?」
「だめに決まってんだろうが!」
「そっか……そう、だよね。いくら今、女の子だからって、俺調子に乗りすぎ…だよね」
「いや…」
「返してくる」
「ちょっと待てよ!」
「ん?」
「…着てやるよ」
「なに?無理しなくて良いよ?」
「無理してないって」
「絶対無理してる。」
「だから、着てやるって!!」
「ホントに!?」
TAKUROの笑顔を見てHISASHIが(嵌められた!)と思ったのは言うまでもない。
でも今更引くに引けないHISASHIだった。
(畜生!もー着てやるよ!)

やけになってます、ヒサちゃんてば(笑)

着替えていた寝室のドアを開けて、声をかける。
「タクロウ…」
「ヒサシ…可愛い…」
HISASHIの姿に気づいたTAKUROがうっとりと言う。
ヒサシのスタイルは細身のニットに大きくスリットの入ったロングのタイトスカート。
言って見りゃ、そこら辺のオンナノコ顔負けの可愛さ(笑)
「…うっせぇ…何処行くんだよ。」
やけになっているヒサシは、もう開き直ってます。
「あー、お台場の観覧車。」
「…なんでそんな人の多いところに…」
「大丈夫だって。カップルばっかりだから、ばれないって。てゆうか、俺はばれてもいいけどね。
あ、でもねぇ、その前に行く所あるんだ。」
そういうとこだけムダに自信過剰なタクロウにヒサシはため息をついて、再びたずねる。
「どこに?」
「ちょっとね〜」
HISASHIの手を引いて箱の中に一緒に入っていた女物の靴を履かせる。
「どぉ?」
「いや…ちょっと…痛い、かも」
「抱っこしてってあげようか?車まで」
「それは断わる」
「それは残念だな〜(クスクス)」
HISASHIに帽子を被せて地下の駐車場降りる。
多分何処から見ても男女のカップルに見える2人
まぁ、カップルって言えばカップルなんだけどね(笑)

車で何分か走ると、久しぶりに来る見た事のある建物が。
「ついたよ。」
「ここ…って、谷ヤンのサロンじゃん…。」
「まーまー」
「『まーまー』って…」
手を引かれて中に連れて行かれると、待っていたのは谷ヤン。
「いらっしゃい!待ってたよ〜」
「あ、谷ヤン!お願いね〜」

「はい、出来あがりました!どーかな、これで。」
「おーすごいねぇ、さすが谷ヤン」
HISASHIは意思を無視されヘアメークをされる。
TAKUROはHISASHIを見てまたデレデレしている。
誉められて谷ヤンは上機嫌だ。HISASHIは(単純だよなぁ)と思っていた。
「でしょ?それにしてもさぁ、ヒサシくんに似てない?そっくりじゃん」
「あーのねぇ、えっと…従兄弟なの。ヒサシんとこに遊びに来たんだけど、
ヒサシ今日仕事あって。だから俺がね。」
「あ、そうなんだ。じゃ、ヒサシくんが女の子だったらこういう感じなんだね〜。
どっちでも可愛いね、ヒサシくんは。…それにしても似てるな…」
「あ、じゃ俺たち急ぐから。」
「はいはい。ヒサシ君によろしくね!」
「はいよ!」
「あ、ちょっと待った!」
「なに?」
「タクロウ君、そのままで行くの?」
「そーだけど、なんで?」
「ばれるよ、きっと」
「そうかなぁ。」
「これしていきな」
「メガネ?」
「これねぇ、度は入ってないから。サングラスするよりばれないと思うけどね。」
「そう?じゃあ借りてく。サンキュ」
「いってらっしゃい!」

レインボーブリッジを通り目的地へと向かう。
ついた頃には、夕方になり辺りはもう薄暗くなっている。
目当ての観覧車も少しづつライトアップされてきていた。
いつもは混んでいるらしい観覧車も今日に限って空いていた。

少しづつ上昇する観覧車から見える景色はとてもキレイで。
生まれ育った函館には敵わないけれど、それでも東京の夜景もけっこうキレイで。
「キレイだね…」
「うん…なぁ。」
「ん?」
「俺さぁ、元に戻れんのかな?」
「大丈夫だって」
「でも…」
「もし、戻らなくても俺が一生…」
「そんなのヤだ」
「ヒサシ?」
「俺はGLAYでギターを弾いてたい。そうじゃないと、俺じゃない。」
どこから見ても女の子のヒサシがまっすぐ正面を見て言う。
「ごめん…ヒサシ」
「タクロウ?」
「ごめん…俺…ヒサシがこのまま元に戻らなかったら良いのに、ってちょっと思ってた。
そうすれば、こうやって、ずーっと一緒にいられるのにって。

俺、自分のことしか考えてなかった。ヒサシが今どんな気持ちなのか、とか
ヒサシの辛い気持ちとか全部無視してた。

そうだよね。俺らは、恋人同士である前に仲間なんだよね。
音楽があるから、お互いを尊重しあって、高め合ってきた。

ヒサシが女の子だったら、なんて俺のエゴだよね。…ごめん。」

2人の間に沈黙が続く。
気がつけば、もう地上に近づいていた。
観覧車を降り、2人は歩き出す。
「帰ろっか?」
「…うん」

2人の乗った車は、無言のまま走り出す。
HISASHIが沈黙に耐えかねてカーステレオのスイッチを入れる。
流れてきたのは…

「ずっと2人で…」

2人抱きしめた恋を 離せずに永遠の祈りを
あの日あなたに出会わなければ 愛しさも知らないままに

「何でこの曲…」
「んー作った本人が言うのもなんだけど…いい曲だなって。」
「俺も…この曲…好きだよ」
「ヒサシ…」
ちょうど、信号が赤になる。
抱き寄せてキスをしようとすると…

pipipipipipi
「ちっ、電話か…。もしもし?誰?」
通話ボタンを押しても一向に声はしない。
「もしもし!?」

「もしもし?誰だよ!」
「おい!タクロー!それ携帯じゃねえぞ。それは、目覚まし時計!」
隣でヒサシがバカにした目で見ていた。
「んあ?あれ…?え…夢?ここ…家?」
見なれた景色。ここは紛れも無くタクロウの自宅。
時間は朝。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
ヒサシはもう目が覚めていたらしい。(珍しい!)ベッドサイドでタバコを吸っている。
「なに寝ぼけてんだよ。」
「今の…夢?」
「はぁ?何の話?」
「あ…夢でね、ヒサシがオンナノコになっちゃって。で、観覧車乗った。」
「バカらしい夢」
さも“くだらない”といった顔をして返事をするヒサシ。
「ヒーサーシ。」
「なん…んっ…」
ヒサシの唇をタクロウは奪う。
「へへ、夢の続き。夢の中でキス出来なかったから」
唇を離してタクロウが言う。
「あ!!」
「なんだよ!」
「オンナノコのヒサシとキスしそこねたじゃ〜ん!ああ!!」
「女がいいわけ?」
「そうじゃなくて〜オンナノコのヒサシがいいの!」
「くっだらねぇなぁ、オマエ。そんな夢見てんのかよ」
ヒサシはすっかり呆れている。
「たまたまです。いつも見てるわけじゃないって。…あ!ねえねえ」
「なんだよ。オマエ朝からうるさいよ」
「あのさ〜俺とヒサシの子供ってどんな感じかなぁ?」
「しらねぇよ、バーカ」
「だってさぁ、俺とヒサシの子だよ?可愛いよね〜きっと。おれさぁ、女の子がいーな。」
「さぁ、俺に似たら美人なんじゃないの?」
「じゃあ、俺に似たら?」
「可哀相。特にその鼻」
「あ、ひど。女の子は父親に似たほうが幸せになるっていうじゃん!・・・でも、
ヒサシに似た女の子だったら、きっともてるよね〜。」
「なにありもしないこと想像してんだよ。ばかばかしい。」
「ヒサシ〜」
「…悲しくなるだろ。…俺は、お前に残してやれないんだし…」
「ヒサシ…子供なら、いっぱいいるよ?」
「え?」
「俺達の子供は、俺らが作った曲。ね?」
TAKUROはHISASHIの額にキスをして、微笑んだ。
「でも、もし…」
「もし?」
「俺が曲を作るっていうこの才能をなくしたら…俺には何も残らないけど、
それでもヒサシは俺と一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ…」
「ありがと。そろそろ朝ご飯にしよっか?」
「そーだな」
「ちょっと待っててね」
TAKUROは服を着て寝室を出ていった。

「子供ねぇ……タクロウの子供なら俺も欲しいよ。願ったって叶わないけどな」
HISASHIの呟きは煙草の煙とともに空気に消えていった。

おわり

 

あとがき
沙乃さんのキリリクで、ヒサシがオンナノコになって…という話しでした。 ごめんなさい!!
かなり待たせた上にこんなヘボな話で… もーホントにお詫びの言葉もございません
はっきりオンナノコだって分からない上に夢オチ。良かったんでしょうか?