遠く離れて
注・黒はTAKURO 青はHISASHI です。見やすい、かな?
TAKURO SIDE
ニューヨークでのレコーディングの後、個人活動と銘打って、1人で旅に出た。
ヒサシも「好きにしな」って言ってくれていた。
何処へ行ってもネット位普通に出来るだろう。
ヒサシに、「メールするから!」と言って彼よりも先にホテルを出た。
高速バスに乗った頃、ある事に気づいた。
「ヒサシにどうするか聞くの忘れてた…」
自分ばっかり喋っていた事に今更気づいた。
「てっことジロウは…聞くまでもないか…。あー俺って最低かも…」
自分を見送ってくれた時のヒサシの顔を思い出して、自己嫌悪に陥った。
HISASHI SIDE
タクロウを朝早くに見送った後、再び眠りについて起きたのは昼だった。
隣の温もりがない寒さに目が覚めたのだった。
「あいつ…何処行ったんだっけ…?あ…」
寝ぼけていた頭が急にさえてくる。
タクロウが1人で出かけてしまったこと。
だから、しばらく逢えない事。
そして…自分には「何処へ行くのか」と聞かなかったこと。
「一言くらい聞いて行けよ…バカ…」
寂しさが増してしまった朝だった。
TAKURO SIDE
3,4時間程バスに乗り、目的地に着く。
夜になったら、星が降る程に沢山見えそうな所だった。
観光するワケでもなく、ギターのケースを抱えた俺は、ただあてもなく歩く。
都会の喧騒からはほど遠い、静かな場所に心が癒されていくようだった。
今日は小さなホテルに泊まる事にした。
カントリー調の机でパソコンを開く。
今日あった事をメールに打ちこんでいく。宛先は…もちろんヒサシ。
「あー、『メッセージ』も更新しないとな…」
そういいながら、インターネットに接続しようとする。
「…あれ?」
『接続できませんでした』
の文字が表示される。
「もう1回……ダメだ。」
さっきと同じ表示が出てくる。
「なんだよ…」
何度やっても接続出来なかった。
HISASHI SIDE
「あー懐かしい…」
一足早く日本に帰って来ていた。
ラジオがあるから、というのは建て前かもしれない。
ホントは…タクロウと一緒に行きたかったのかもしれない。
タクロウと一緒にいられないなら、どこにいたって変わりはない。
その足で実家に向かう。母親に鮎を預けていたからだ。
「あら、もう帰っちゃうの?」
鮎を受け取ってすぐに帰ろうとする息子に母親が声を掛ける。
「やる事あるしな。」
「あらあ。…そういえば、タクロウくんは?一緒じゃないの?」
逢いたかったわ、という意味を含ませた声でそう聞いてくる。
「知らないよ。まだ向こうなんじゃないの?」
ヒサシはそのまま、自宅を後にした。
TAKURO SIDE
1人でいろいろな所に行った。
でも、何故か、何処へ行ってもネットには繋げない。
俺の選択が悪いのか?ネットには適さない所らしい。
「ヒサシ、心配してるかな…。…怒ってるかもな。」
メールするから!って言って出て来たもんな、俺。
でも、明日行くのは大都市だから、そこはさすがに平気だろ。
そう自分に言い聞かせて、今日も眠りについた。
HISASHI SIDE
新着メールを知らせる音でパソコンに駆け寄る。
もしかしたら、と思い開いて見る。しかし…
「…なんだ…」
メールはてっこからだった。
タクロウが去り際に「メールするから!」と言って出かけてからもう1週間。
メールは一向に来る気配がない。
もしかしたらと思いHSSSを開く。しかし、彼のメッセージはクリスマスで止まっている。
HSMSも見てみるが、更新されていない。
ため息をついて切断する。
「ニャア」
「ん?鮎、お腹すいたか?」
鮎足元で、が綺麗に切りそろえられた爪でヒサシのパンツをといでいる
「ニャア」
そのまま、鮎を抱えて台所へ行く。
「あれ?」
いつもの場所に猫缶がないのだ。
それでヒサシは気づいた。そういえば、帰ってきてからほとんど外にでていない。
「あ…鮎の猫缶終わっちゃったのか…。…買い物でも行こうかな…」
鮎を置いて、寒さ対策万全で外へ出る。外はいつから降り始めたのか、雪が降っていた。
「…寒いよ、タクロウ…。」
向こうにいたほうが遥かに寒かったのに。
寒いのは体でなく心かもしれない。
近くのスーパーで必要なものを買って外へ出る。
「雪か…。積もりそうだな…。……タクロウ…早く帰ってこいよ…。」
低い空から舞い落ちる雪を見上げて思わず呟いた。
「ただいま」
低く掠れた、でも大好きな声が不意に聞こえてくる。
「え…?」
反射的に顔を上げる。
TAKURO SIDE
やっと大都市につき、まずパソコンを開いた。
インターネットに繋いで、更新出来なかったメッセージを更新する。
他のメンバーはどうしているか、なんてタイトルにしたりして。
気になっているのは、ヒサシだけ。
俺に「好きにしな」と言った彼はこのオフをどこで過ごしているのだろう。
「…マジ…?!」
俺が向かうところは一つしかなかった。
晴れていた雲の上から徐々に飛行機は降下する。
久しぶりに見た日本は白かった。
「雪だ…」
広い飛行場のあちらこちらが白くなっていた。
「向こうも寒かったけど、やっぱり日本も寒いな。」
荷物を待っているのももどかしい位だ。早く…
荷物を受け取って外へ出ると、俺を待っていたかのように人が居た。
「モッシュじゃん。どしたの?」
「タクロウさん迎えに来たんですよー!何時につくって電話くれたじゃないですかー!」
「俺、迎えに来てくれって言ったっけ?」
「え、違うんですか?」
「あー…じゃあこれ俺んちに持ってっといて。事務所に鍵あるから。」
「あ、はい…。じゃあ、タクロウさんは?」
「俺は行くトコあるから。タクシ乗る。じゃあな!」
荷物とモッシュをその場に置き去りにし、タクシーに乗った。急いでください!といって行き先を告げる。
懐かしい景色。
ヒサシの家の側でタクシーを降りる。
そのままヒサシのマンションへ向かおうとして、ふと回りを見渡すと…
そこに誰よりも愛しい人の姿が。
まだ自分の姿に気づかないらしく、ヒサシは空を見上げてこう呟いた。
「雪か…。積もりそうだな…。……タクロウ…早く帰ってこいよ…。」、と。
その言葉で愛しさがこみ上げる。
だから俺はこっちへ向かってこようとするヒサシにこう声を掛けた。
「ただいま」って。
HISASHI SIDE
「…タクロウ…」
頭や肩に白く雪を積もらせたタクロウがそこにいた。
「ただいま。びっくりしたよ。帰ってきたら、雪すげえ降ってんだもんな〜」
走り出すヒサシ。
「うわっ…。」
雪で足を滑らせたヒサシをタクロウが受け止める。そして…抱きしめる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「音信不通でごめんね。ネットに全然繋げなくてさ。ヒサシが日本に帰ってるのも『Message』で知った。」
「いつ…帰って来た?」
「今日だよ。ホントはもうちょっと居ようと思ったんだけど。」
「思ったんだけど?」
「ヒサシのメッセージ読んだら、日本が恋しくなってさ」
「ふーん…」
「ヒサシに逢いたい!って方が強かったけど。」
いつもの優しい顔でそういって笑うタクロウ。
「寒いから、早く帰ろ?」
「向こうの方が寒かったじゃん」
「あっちはあっち。こっちはこっち。ね?」
「なにそれ」
「早く!」
タクロウはヒサシの手を引っ張って歩き出す。
「そんなに急がなくてもっ」
「早く中に入りたいの!」
「雪降ってるからって…そんな寒くないだろ…?」
「違いますー」
「うわっ!」
ヒサシはタクロウの背中にぶつかる。早足で歩いていたタクロウが急に立ち止まったのだ。
「なっ…突然立ち止まるなよ!」
「早くヒサシにキスしたい」
ヒサシの耳元でそう囁く。
「なっ…」
「だから早く帰ろう?」
ヒサシの答えは聞くまでもないかもね。
逢いたかった。そしたら目の前に貴方がいた。
久しぶりの雪が、貴方を運んで来たのかもしれない。
END
タクヒサでした。キリリクですね。AKIさんのリクでした。冬のお話って事で。
雪が降った(1/20)ので、それをネタにしてみました。
ヒサシはもう帰ってきてるようですね。タクロウはどうなんでしょう?実際は。
ここでは雪が降った日に帰って来たってことに。しといてください(笑)