Ardent love
なんか…最近俺おかしい…。こんなの俺じゃない。
タクロウの笑顔にドキドキしたりして。
顔が赤くなるのを見られたくなくて、顔を背けたら、
タクロウが
「何で?俺…なんかした?」
悲しそうな声で聞いたきた。
「別に…」
あー、何でこんな答えしかできねぇんだよ、俺!!
「そう?ならいいけどさぁ。」
あ、タクロウ行っちゃったよ…。
「ハァー」
タクロウの事が好きだと気づいてしまったのは、いつだろうか。
高校の時に出会って…もう10年以上一緒にいる俺達。
彼に普通じゃない気持ちを抱き始めてしまったのは…いつからだろう。
彼にこんな気持ちを知られてはいけない。
きっと…軽蔑されるに決まってるんだから。
あれは…いつだっただろう…
「ひさしぃ…」
「なんだよ」
OFFの日の夜、タクロウが突然俺の家にやって来た。
いつ明るく振舞っている彼が沈んでいる。こんな時は絶対…
「俺さぁ…振られちゃった…。優しすぎる、って言うんだ。私の事より、
GLAYの方が大事なのね、って。そんなの…比べられないよ…どっちも…大事なのに…。」
ほら来た。昔からそうだ。
あいつが振られるパターンは昔から変わらない。俺の知ってる限りでは。
『優しすぎる』、『私の事を愛してないのね』、『GLAYと私とどっちが大事なの』
そんな言葉でタクロウの恋はいつも終わる。
その度に、どーして誰もタクロウの優しさを分かってあげられないんだと歯がゆくなる。
「好きだったのか?」
「…愛してたよ、ちゃんと。でも…彼女は、俺の中で一番にはなれなかった、って言うんだ。
俺の中で、GLAYとは違う所で一番だったのに。…彼女は…それを分かってくれなかった。
全部ひっくるめて、一番じゃなきゃやだ、って言ったんだ。俺…ズルイのかなぁ?」
「なんでだよ。女はなんでそう欲張りなんだよ。オマエは悪くないだろ」
「ひさし…俺…寂しいんだ。いっつも。」
「タクロウ…」
「曲は…詞は…俺を癒してくれる…そんな気がしたんだ。」
寂しそうな声でタクロウは続けた。
「みんなどうして俺にいろんな事を求める?俺、そんな心の広い人間じゃないのに。
ねぇ、俺は…誰かに必要とされてる?どうして…みんな俺から去って行く?」
「…俺が…いるだろ!」
「ひさし…?」
「俺は…お前を必要としてる。」
言ってしまって、俺ははっと我に帰った。
やば…ど、どーしよ…ほら、タクロウが唖然としてるよ。なんとかしないと…
「お、俺だけじゃないぞ。てっこやジロウだって…お前を必要としてるだろ。」
「…俺…ヒサシに必要とされてるの?」
「…うん」
「そっか…よかった。」
「うん…」
「俺…帰るわ。ごめんね、愚痴っちゃって。」
「ああ」
タクロウは申し訳なさそうに、ごめんね、ともう一度謝って帰って行った。
それを見送ると、思わず声がでる。
「やべー」
何言おうとしたんだよ、俺…。
とりあえず…うまく誤魔化せた…よな?
「寂しい気持ちに突け込もうなんて…俺…最低だよな…」
ため息が、白く残ってすぐ消えた冬の夜だった。
ふと我に返ったら、タクロウが何処にいるのか気になった。
スタジオにでもいんのかな?
…行ってみよ。
スタジオに行くと、タクロウは中のピアノを1人で弾いていた。
癖の様に猫背でピアノを弾いているタクロウ。切なくて、、、小さな声で「好きだよ」なんて囁いてみる。
俺って…こんな性格だったっけ?
そっと中に入って、タクロウの後ろに立つが、気づいていない。
ピアノの椅子に半分だけ腰掛けてピアノを弾くタクロウ。
今度は心の中で「好きだよ」と囁いてみる。絶対に口に出しては言えないこの言葉。
それを考えたら、余計に切なくなる。
こいつ今…彼女居ないんだよな、たしか。最近そんな話も聞かないし、その前に話してこないのか。
俺にも…可能性は…あるのか?
自分に密かに問い掛けてみる。
まさかな。
なるわけないじゃん。俺は男だぜ?恋愛対象にもなれないんだぜ。
そう心の中でもう1人の自分が、バカにしたように答えた。
そうだよな…。
タクロウと背中合わせになる格好で、後ろが半分空いているピアノの椅子に座る。
タクロウの奏でるメロディが止まった。
「誰…ヒサシ?どうしたの…?いつから居たんだよ…」
驚いた声で聞いている。
「いーから、弾いてよ。」
わざとつっけんどんな答えで返す俺。
「どーしたの?」
「お前のピアノ聞いてると、良く眠れんだよ。最近寝不足なんだよ。だから、弾いて。」
…もっと、他の言い方あるだろ、俺!
心の中で叫んでしまう。
「なんだよ〜。俺のピアノ聞くと、眠くなんの?それって、誉めてんの?けなしてんの?」
苦笑いしながら、タクロウが問うてくる。
「…どっちだろうな。…とにかく弾いて。」
タクロウは、「はいはい、分かりましたよ。」と言って適当に弾き始める。
ホントは…お前のピアノ聞いてると、すごく安心できる。でも、そんなこと言うのは…俺のキャラじゃない。
タクロウが奏でる優しいピアノの音色。安心してホントに眠くなってくる。
俺はタクロウに背中を預けて目を閉じる。
急に重くなった背中の重みにちらりと振り向くと、ヒサシが寝息をたてて、眠っていた。
「ホントに寝ちゃったよ…」
呆れながらも、優しい顔でヒサシをみるタクロウ。
「タクローくーん!」
「あ、ジロ。しっ!」
スタジオに入って来たジロウに向かって、口に人差し指をあてて、「静かに」という合図をする。
「…どうしたの?」
ジロウが小声で聞いて来た。
「いや…ヒサシがさ…ほら」
「寝てんの…?」
しゃがみこんで、ヒサシの顔を覗くジロウ。
「あーあー嬉しそうな顔しちゃって。…タクロウくん、ソファーまで運んであげなよ。」
「あ、うん。じゃ、ちょっと、ヒサシ支えててくれる?」
「はいよ。」
ジロウはヒサシの背中を支えると、タクロウがすばやく立ちあがる。
ヒサシをお姫様抱きにすると、ジロウが支えててくれた隙にドアを通る。
「タクロウくん、しばらく一緒にいてあげなよ。わかった?」
「え、なんで?」
「いーから。」
不思議そうな顔をしながらも、「うん、わかった」といってタクロウは控え室に向かって歩き出す。
「とのくんてば、ホントにタクロウくんの事好きなんだね〜。早く言っちゃえばいいのに。
あの、タクロウくんが気づくなんて事、ありえないんだから。」
ジロウはタクロウの後姿を見ながら呟いた。
誰…?誰かが俺を抱えてる…?
タクロウ…?あ…タクロウだ…。
なんで?…あ、そっか…夢か。夢でも…嬉しい…。
タクロウが大事なものを運ぶように…俺を扱ってくれてる…。
夢なら…言ってもいいよね。夢でくらい…いってもいいよね。
「タクロウ…好き…だよ…。」
夢でなら…「俺もだよ」…って言ってくれるよね…
控え室の大きいソファーにヒサシを降ろす。毛布を持ってきて、掛けてあげる。
「このまま戻ってもジロウに怒られるよな〜」
タクロウは仕方なく、ヒサシの頭を自分のヒザに載せる。
ヒサシはホントに熟睡している。
「さっきのは…寝言…だよな?」
『タクロウ…好き…だよ…。』
「ヒサシが、俺の事好きなわけないよな。そうだ、そうだ。」
「い…今の…なに?」
きょろきょろと周りを見渡すがたまたま誰も歩いていない。
「ヒサシ…俺もだよ…」
小さい声で返してみる。
「…なにしてんだ、俺。…起きてないよなぁ、ヒサシ。聞かれてたら、軽蔑されるよ、俺」
実はヒサシに淡い恋心を抱いていたりするタクロウは、ヒサシの言葉にとても驚いた。
「どんな夢見てんだよ…。あんまり期待させないでくれよ…」
あれ…?ここ…
「あ、起きた?」
「…?…っ!タクロウ!」
なんで?!なんで?なんで俺、タクロウの膝枕で寝てんの?え?え?
ガバッと飛び起きてきょろきょろと周りを見渡す俺に、タクロウが苦笑して答える。
「寝ちゃったから、ここまで運んで来たんだよ。」
「…なんで…膝…」
「その方が寝やすいかな?と思って。」
「お、俺、なんか変な事言わなかった?」
「んー別に?」
「そっか…」
ちょっと待てよ?運んで来たってことは…
「タクロウが運んできたのか?」
「そうだよ。」
え?え?…って事は…あれは…夢じゃない?!もしかして…聞かれた!?
「…俺…なんか変な事言ったろ…?運んでるとき…」
「あー、うん。」
「あ、あれは、冗談だからな。な、なんか変な夢みちゃってさ…ハハ」
慌ててごまかず。なんか変か?
「…あ、そうなんだ…」
な、なんだ…?神妙な顔して…。いつもなら、「変な事いうんだもんなー、ビックリしたよ〜」とか言うだろ?
「…な、なんだよ?」
「…俺は…嬉しかったよ。」
「は?」
今何と?おっしゃいました?嬉しい?なにそれ。
「俺、ヒサシの事、好きだったから。嬉しかった。」
「へっ?」
おもわず、変な声が出てしまった。
タクロウが…俺の事好き?ちょっと待って…えっ…?
「それ…ホント…?」
「ホントだよ。俺、ヒサシの事好きだよ。…気持ち悪いと思っただろ?ごめんな。」
タクロウは言うだけいって、部屋を出ていってしまおうとしていた。
「ちょ、ちょっと!」
自分だけ言うなんてズルイ。俺だって…
「お前の事好きだよ!俺こそ、ずっと軽蔑されると思ってた。」
「ヒサシ…ホント?」
「こんな時に、嘘なんてつくワケないだろっ!」
「ヒサシ…」
タクロウが戻って来た。隣に腰掛ける。
「ヒサシ…キスしてイイ…?」
遠慮がちの問いかけに俺は小さく頷いた。「うん」なんて、恥ずかしくて言えねぇよ。
タクロウの男らしい顔が近づいてくる。
俺の大好きなタクロウの顔。俺はそっと目を閉じた。
タクロウの唇が、そっと触れるだけのキスをする。
「ヒサシが俺の事好きでいてくれたなんて…俺、すげぇ嬉しい。」
「もっと…キスして…深く。」
足りない。もっと…俺を愛してる証を頂戴?
俺を…貴方の物にして。愛してる。
「んっ…タクロウ…好き…」
激しいキスの合間に途切れ途切れに囁くと、タクロウが「俺もだよ」と更にキスをくれる。
夢みたいだ…。こんな日が来るなんて…。
キスした後、タクロウが俺を抱きしめてくれた。
タクロウの胸に額を押し付けて、、、
「夢かなぁ」と囁いてみる。
「夢じゃないよ。」と、優しい声が返してくれた。
「ホントに?」
「ホントに」
くすくすと笑いながら、タクロウが髪を撫でてくれた。
嬉しい。
「これからは、ずっと一緒だよ?」
「…うん。」
こんなの俺じゃないみたい。でも、タクロウが側にいてくれるなら、こんな俺でもいい。
だって…すごく幸せだから。
えー片思い、ヒサシ編でした。6400をゲットしたまゆさんのリクでした。
片思いって事で、最初の方は男らしいですね、ヒサシも。
でも…やっぱり可愛いヒサシになっちゃいました。タクヒサのヒサシはやっぱりね〜
私的にはこんな感じで。ハッピィエンドでしたね。実はタクロウもヒサシの事好きだったという(笑)
こんな感じで。まゆちゃん、どうでしょう?
ちなみにタイトルは…切ない恋心、みたいな意味で。(多分)