星空の下で
「なータクロー」
「ん?どした?」
「遊び行こ。」
珍しくヒサシが外へ出ようと言い出した。しかし今は真夜中である。
「珍しいねぇ。パソコンはもうやめたの?」
「あきた」
「そっかー、でも今ダメ」
「なんでだよ」
「詞がさ…」
「なんだよ、詰まってんのか?」
「んーいまいちなんだよね…」
「やだー出かけるのー散歩するー」
ジタバタとだだっこのようにヒサシは言い出す。
「ワガママ言わないの」
「やだー、出かけるー!鮎も出かけたいよなぁ?」
側でごろごろしていた鮎に話しかけるヒサシ。
「鮎は猫でしょ。猫は散歩に行かないの。それに今、夜中だよ?」
「鮎はいくよなー」
「…ったく…しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ?」
「ホントに?やったぁ!俺、コート取ってくる!!」
「どーしたんだ?一体…」
首を傾げるタクロウ。
「ねーどっちのコートがいい?」
ヒサシがお気に入りのコートを両手に持って見せている。
「どっちでも良いんじゃない?」
「…そんなのダメ!どっちか言って!」
「えー…じゃあ右の。」
「うんっ。じゃあそれにする。」
着ないの戻してくる!と言って戻って行く。
「やけに可愛いじゃん、今日。なんかあったのかなぁ?」
ますます不思議なタクロウ。と、そこにヒサシが戻ってくる。
「お待たせ!」
「はいはい、じゃあ行きますか。」
タクロウも立ちあがってコートを着る。
するとヒサシは先に玄関へ走って行く。
「おい、鮎は?」
タクロウの後をトコトコと鮎がついて来ている。
「留守番だよ〜。タクロウ早くー!」
「だとよ。ごめんな、鮎。すぐ帰ってくるから待ってろよ。」
不満そうにニャア、と返事をする鮎。
「囮だったワケね、鮎は。」
「早くー!」
「はいはい」
ヒサシはもう靴を履いて待っている。
タクロウも靴を履いて、玄関の扉を開ける。
「鮎ぅ〜行ってくるね〜」
ヒサシはタクロウの腕を掴んで廊下に出すと、すばやく鍵を閉める。
「で、何処行きたいの?」
「タクロウと外歩きたいの。今日は月が出てないから、星が綺麗に見えるよ。」
「月が出ないと、星が綺麗なの?」
「そうだよ。月の光がねぇ、いつも邪魔してるの。今日は出てないから、いつも見えない星も綺麗に見えるの」
「ふーん、よく知ってんねぇ。」
「こないだ、てっこが教えてくれた」
「あ、そうなの?」
「うん」
「ねぇ、手繋いで?夜だからいいよね?」
「いーよ。はい」
「俺ねぇ、タクロウの手って好き。ギタリストの手。」
「それ言ったら、ヒサシの手だって、ギタリストの手でしょ?自分の手は嫌いなの?」
「タクロウの手の方が好き」
「ありがと。…あ、ホントに星綺麗だねぇ…。東京の空もまだまだ綺麗なんだ…。」
タクロウが空を見上げて言う。
「ツアーで地方とか行っても、すごい綺麗に見えるよ」
ヒサシも空を見ながら答える。
「あー、そうだねー。やっぱりそれには叶わないけどね。…函館が一番綺麗だと思うけどね。」
「うん。」
「あ、あれオリオン座?…俺さぁ、それ位しかわかんないのね(笑)」
指をさして言う。
「俺もね、わかんないよ」
ヒサシもくすくす笑いながら答える。
「あ、やっぱり?でもやっぱり、冬の空っていいよねぇ。空気も澄んでるし。」
空を見上げたまま、ハァーと空気を吐くタクロウ。息が白く残って消えて行く。
「ん?」
ヒサシが繋いでいる手を引っ張るので、ヒサシの方を見ると、ヒサシが不満そうな顔で見ていた。
「どした?」
「…上ばっかり向いてたら…俺…見えないよ。タクロウの顔。」
「あ、ごめんごめん」
空を指していた手をヒサシの頭に持ってきて、撫でてくれる。
「これで見える?」
タクロウはそう言ってしゃがむと、ヒサシの顔の前に自分の顔を持ってくる。
「…見えた」
嬉しそうに微笑むヒサシの頬は、嬉しいからか寒いからか赤くなっている。
「ヒサシ寒い?」
「ううん、大丈夫。だって…タクロウと一緒だから。」
「そお?ヒサシの手冷たいよ。」
「じゃあ、タクロウが温めて?」
「もちろん」
ニコッと微笑むタクロウ。
「公園でも行って見る?」
「うん」
2人は手をつないで公園へ向かった。
公園のベンチに座る2人。
ヒサシはタクロウの膝の間に座って、タクロウに後ろから抱きしめられる格好で座っている。
「寒いね」
「そうだねぇ」
「ねぇ、タクロウ?」
「ん?」
「夜の公園てさみしいね」
「誰もいないからね」
「ねぇ、タクロウ?」
「ん?」
「タクロウは暖かいね」
「ヒサシが側に居てくれるからだよ。」
「俺がいると…暖かいの?」
「そうだよ。俺がヒサシを温めてあげたい!って思うから。ヒサシがいてくれるから俺は暖かいの」
「ホントに?」
「ホントだよ。…そろそろ戻ろっか?鮎も待ってるよね」
「うん。」
2人は手を繋いで夜の公園を後にしました。
星がとても綺麗に見えた真夜中の事でした。
「たまにはこうして出かけるのも悪くないね。」
「でしょ?」
「どうして、出かけたかったの?」
「星が綺麗だったから。タクロウにも見せてあげたかったの。」
「ありがとう。おかげでいい詞が書けそうだよ。」
「良かった」
たまには星空の下を、君と2人で歩きたいね。手を繋いで。
「また行こうね。」
「そうだね。でも、今度行く時までに星座でも覚えないとね」
「タクロウが覚えて、俺に教えて?」
「じゃあ、頑張って覚えないとね」
「そうだよ。」
キリリク作品でした。6868を取った藍依ちゃんのリクだったのですが、シチュエイションはお任せだったんで、
こんな感じで。どうでしょう。なんて言うか…最速ですね。こんなに早く小説が書けたのは。
これから冬は星が綺麗ということで、ちょっと早いですが、真冬が設定のお話にしてみました。
2人の会話を大切にしたかったので、敢えて余計な描写はさけました。
みなさん、自分で想像して見てね。