懐かしき黄金の日々




賑やかな街を通り抜ける時、小さな花束を持った学生達が嬉しそうに歩いている。
「もう、卒業シーズンかー」
「そうだね」
「懐かしいなぁ…高校卒業したのも、もう11年も前か…」
「楽しかったよね、あの頃も。」
「ヒサシも可愛かったな〜ちっこくて(笑)」
「どーせ、今も小さいですよーだ!」
「おこんなって(笑)」
「怒ってません。」
「そうかー…?にしても…俺らもう出逢って12、3年か?」
「うーん…そんくらいだね」
「あと5,6年もしたら、家族と一緒にいた時間と同じになるんだな…」
「…そっか…」


ヒサシは楽しそうに歩く学生達を見ながら、懐かしい過去を思い出していた。


「なあ、外村。」
昼休み、教室の窓から外を眺めていると、突然声を掛けられた。
「んあ?」
「今バンドやってないんだろ?」
「ああ、蟻なくなったしな」
「じゃあさ、俺のバンド手伝ってくんない?」
「久保のバンドって…たしかオリジナルだよな?」
「そうだけど…ダメかな…?」
「…いいよ」

そう引きうけたのは、蟻が消滅した喪失感からだった。
暇潰しにはいいかな?ギターも弾けるし、くらいの気持ちだった。
……あの時タクロウに誘われなかったら、今の俺はない。


タクロウに惹かれるにはそう時間がかからなかった。
俺と全く正反対のギターテク、詞、曲の才能。
そして何よりも人柄。誰にも好かれる彼のその優しさ。
多分、自分の周りでタクロウの事を嫌いだと言う奴はいない。
その優しさ故、彼女はなかなかできなかった。
「友達以上には思えない」とよく彼は言われていた。
でも、失恋は彼に素晴らしい詞を書かせるのだ。何よりも素晴らしい詞を。

タクロウが好きだ。
でも、タクロウの側にはいつもテルがいた。
幼馴染みであるテルを、タクロウは誰よりも信頼していた。
テルの歌の才能を発見してから、タクロウは「俺の歌を歌うのはテルしかいない」と言う。
俺はそこまで言われるテルが羨ましかった。
俺の知らないタクロウを知っているテルが羨ましかった。
学校で同じクラスの俺より、テルといる時間の方が長いだろう。
そして、あの2人には俺が入りこむ隙間など無かった。

「たくろー、それ違う〜!!」
「てっこが間違えたんだろ〜」
「違うよ〜」
「オマエいつもそうやって誤魔化すだろ〜(笑)」
「あ、バレた?うはは〜」
「何年てっこと付き合ってると思ってんだよ〜!(笑)」
仲のよい2人の姿を見るたび、俺の胸はチクリと痛む。

「とのどうしたの??」
「え…なに?」
「どうしたの〜ボーッとしちゃって」
「え?あ…なんでもない…。」
「そう?」
「…仲いいよな…」
「ん?ああ、タクロウと?ま、昔から知ってるしね。どうしたの、突然」
「いや…」
「ねえ、との」
「とのは…たくろうのこと好きなんでしょ?」
「な、なに…言って…」
「やっぱりそうだ。」
「ちがっ」
「…ねえ、たくろうがどうして皆に優しいか知ってる?」
いつになく真剣な眼差しのテルがいた。
「たくろうが優しいのはね、寂しいからなんだよ。」
「アイツが…?」
テルは、スタジオの外で人と話しているタクロウをちらりと見て言う。
「ほら、タクローってさ、ちっちゃい頃に父親無くしてるじゃない?
それでけっこう寂しい思いとかしてたらしいのね。でも、それを母親には言えなくて。」
「…なんで…?」
「子供ながらに思ったんだって。自分たちの為に一生懸命働いてる母親を困らせちゃいけないって。
タクローの今の性格はその頃できたんだねー。」
「……てっこ……」
「ね?」
「……オマエ……変だぞ。」
「はあ!?なんだようぅ、せっかく俺が真面目に言ってるのぃ〜。」
「真面目なオマエはなんか気持ち悪い…。」
「ひどーい!!」
「なんでもいいけど、オマエタクロウに余計な事言うなよ?」
「言わないよ〜」
テルが笑って言うのを、ほっとして見ていて、それに神経が行っていてそばにきている事に気づかなかった。
「余計な事ってなに??」
「た、たくろう…」
いつの間に側に来てたんだよー。
「ねえ!2人で内緒話なんかしちゃってさー。ずるいよ。」
「大した話じゃないから」
普通を装って俺は言う。でもタクロウは食い下がらなかった。
「大した話じゃないんなら言ってよ。」
「だから…ごめん、俺帰る。」
これ以上言える訳もなく、俺は1人スタジオを後にした。


その後、テルがタクロウに何を言ったかは知らないが、
タクロウは少しづつ、俺を避ける様になった。なんだか態度がよそよそしい。
てっこの奴…!

俺は練習がない日にテルを学校の前で待ち伏せする事にした。
今日はたくろうも委員会があって、テルとは逢わないハズだ。
下校する学生の奇異な視線を感じながら、てっこが出てくるのを待った。
しばらく待つとてっこは出て来た。隣に女の子を連れて。
「小橋くん、バイバーイ!」
「小橋先輩さよーならー」
「バイバイ」
次から次に掛けられる声に、テルが笑顔で返す。
「小橋、今日練習ないのか〜?」
友人らしき男が声を掛けた。
「うん。今日は休み」
「で、デートって?」
「まあねー。」
「さっすが、ミスター函商。もてるね〜。じゃあなー」
そう言ってテルよりも先に出て来たその男が俺の姿に気づく。
「あ…」
一言呟くと、来た方をくるっと振り返って、大きい声で言う。
「おーい、小橋〜!!お前の友達来てるぞ〜!!」
「え〜!?」
テルは一緒にいた女の子にちょっと待ってて、と言ってこっちに走ってきた。
「との!?どうしたの??」
「あ、いや…」
俺は、用事は済んだとばかりに帰って行く男を密かに睨む。余計な事しやがって。
「もしかして俺の事待ってたの?」
「…ちょっと話あるんだけど。」
「俺に?…じゃ、ちょっと待ってて」
待たせている女の子の所に駆けていくと、何やら謝っている。

「ごめん!この埋め合せは今度するからさ」
「え〜だって、今日練習ないって言ってたのにぃ」
「ホントにごめん!」
「…わかった。じゃあ、今度は絶対だよ?」
「うん。約束する」

話を終えたテルが戻って来た。
「さ、いこっか。」
「…いいのか?」
「全然」


テルはヒサシの腕を引っ張って歩き始めた。


続く。

林檎姫さんからリクを頂きまして、高校生の時の彼らですね。
ヒサシは密かにタクロウの事を思っていただろうと考えまして。こういう話です。
実はまだ続きます。テルはタクロウに何を言ったのか…気になるとこですねー。
続きはしばらくお待ちください。