pipipipi
台所の掃除を終えると、ちょうどテルの携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
―あ、テル?ジロウだけど。
「ああ、タクロウどう?」
―いま、薬で眠ってる。朝まで起きないって
「そう。じゃあ、俺らが行くのは明日の方がイイかな」
―うん。とりあえず僕もタッキ―も帰るから
「あ、自分ち帰るの?」
―うん。テルはヒサシについててあげなよ
「でも……」
―でも、じゃないの!じゃあね!
「あ、ジロウ……切れちゃった……」
会話を聞いていたヒサシがテルに聞いてくる
「タクロウ……どう?」
「ああ、今薬で眠ってるって。…ねえ、俺今日、泊まってくわ」
「え…でもジロウは…?」
「ジロウがそうしろって。それにヒサシ一人にしておけないし。」
「俺、大丈夫だし……」
「いいよ、今帰っても逆にジロウに怒られちゃうしね」
と、首をすくめた。
「ジロウさん、タクロウさんちに戻らなくていいんですか?」
「うん、たまには自分ちにも帰らないとね」
それだけ言って、窓の外を眺めている。ジロウの顔が泣きそうな
寂しそうな顔をしていたことにタッキーは気づかなかった。
次の日、
ジロウは久しぶりに自分の車を運転して、タクロウの家に居る
ヒサシとテルを迎えに行き、病院へと向かった。
コンコン
「はい?」
「たくろー!あ、何だ以外と元気そうだね」
「てっこ!ジロウ!……ヒサシ」
ヒサシは病室に入って来て、ちらりとタクロウを見て
すぐに窓際に行ってしまう。
そういえば今日はまだ一言も会話してないなあ、と今更ながらテルは思った。
「で、原因は何なの?」と、テルが聞くと、タクロウはあーとかいいながら
言いにくそうに、
「実はね……」小さい声でしゃべり出す。
「えっ、ストレスから来る胃炎〜〜!?」
「大声で言うなよ、テル……」
「あはは、タクローらし〜。あはは、あー腹痛え。」
「テル……」
タクロウが苦笑いしている。
「テル!」
ジロウがテルを諌める。
「あ、ごめん。やだなあ、怒らないでよ、ジロウ」
「別に怒ってないけど。でもそういえばタクローくん、最近ご飯食べてなかったよね」
「うそ!俺の前では普通に食べてたよ!」
テルが驚いて言う。
「あー、てっこはさあ、すぐ喋っちゃうだろ、だからあ」
「え〜俺そんなにおしゃべりじゃないよぅ。しゃべんないもん!」
テルのムキになった反論に、タクロウとジロウは顔を見合わせて
クスクス笑っていた。
「な、なんだよ、も〜」
「てっこ、そんなんだからファンの子達に天然、とか言われるんだぞ(クスクス)」
「そうそう、テル語録もたまってきたよね(クスクス)」
「も〜ジロウまでひどいよ!との〜なんか言ってよ〜」
窓際に居るヒサシをテルが呼ぶ
「との?」
ヒサシはいつの間にか窓を開けて、タバコまで吸っている。
「ヒサシ、どうしたんだ?それに、ここ禁煙だぞ。」
タクロウのその言葉に、ヒサシはいつも持ち歩いている携帯用の
灰皿に、煙草の火を消して入れた。
(実はこの灰皿、タクロウからのプレゼントだったりする。
じゃなきゃ持ち歩いたりしねーよ、とはヒサシ談。)
「ヒサシ?」
「…バッカじゃねえの」
「え?」
「バカみてえ。いまどき胃炎ぐらいで、血吐いて倒れたりするかよ、フツー」
ヒサシは窓の外を向いたまま、抑揚の無い声で言った。
「ヒサシ!それ言いすぎだよ!!」
ジロウがひさしに怒りを向ける。
「うるさいなあ、ホントの事だろ、どーせ」
ヒサシがやっとこっちを向いて、めんどくさそうに言った。
その顔は、人形のように無表情である。
タクロウは何も言わず、じっと黙っていた。
しばらく沈黙が続く。
静寂を打ち破ったのは、
「ねえねえ、喉乾かない?」
というテルの明るい声。テルはなおも続ける。
「なんか買ってくるね。行こ、ジロウ」
「え、ちょっと、テル!」
テルは訳がわからない、といった表情のジロウの腕を引っ張って
部屋から出ていく。
テルは、ヒサシのタバコを持つ手が微かに震えているのを見逃さなかったのだ。
もちろんタクロウも。気づかなかったのは、ジロウだけ。
「ちょっと痛いよ!」
「ああ、ごめん」
「ねえ、ホントに2人きりにしちゃってイイの?」
「いーんだよ、どっちにしても俺達邪魔でしょ。」
その言葉にジロウは納得したらしい。
「わかった。行こ!」
2人の足音が遠ざかって行くのを聞いて、タクロウがやっと口を開いた。
「ヒサシ、ごめん」
その言葉でヒサシは窓を閉めて、ベッド脇のパイプ椅子に座る。
「ごめんな」
「……バカ。」
「ごめん」
「……俺が…どれだけ…心配した…と思ってんだよ……」
「ごめん。・・・泣かないでよ」
タクロウが困った顔をして言う。
「泣いて…なんか…」
いつの間にかヒサシの目から涙が流れていた。
「心配・・・したんだからな」
ヒサシはなおも続ける。タクロウはじっと聞いている。
「うん」
「すごい、驚いたんだからな」
「うん」
タクロウはヒサシを抱きしめたかった。でも、ベットの中にいる自分には
ヒサシが遠かった。
「ごめん、ヒサシここ座って?」ベッドの脇を指すタクロウ。
ヒサシは素直にベッドの脇に座る。とたんにタクロウはヒサシに手を伸ばして
ぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、ホントにごめんね。でも、もう大丈夫だから・・・。それにしても
ストレス性の胃炎ていうのも情けないなあ。」
ヒサシはベッドに腰掛けたまま、タクロウに抱きしめられるという
不安定な姿勢のまま、タクロウの肩口に顔をうずめていた。
「・・・おまえはいろんな事、心配しすぎなんだよ」
ヒサシは恥ずかしいのか、更に顔をこすりつける。
そんなヒサシをタクロウはとても愛しいと思った。ヒサシの髪をそっとなでる。
髪を撫でられながら、ヒサシは小さな声で言った。
「なあ」
「ん?」
「あのさ…悩んでたら…俺にも相談しろよ…」
「ありがと、ヒサシ。ねえ、顔見せてよ。ダメ?」
タクロウのお願いに目を赤くしたヒサシが顔を上げる。
「ヒサシ・・・」
「タクロウ・・・」
タクロウの顔とヒサシの顔が近づいてゆく・・・
ガラッ
「うわあっ!」
突然の音と悲鳴の正体は……テルとジロウだった。
二人は重なるようにして、スライド式のドアの前でつぶれていた。
タクロウは苦笑いしながら
「こらこら君達」
「あ〜ごめんねえ」
起き上がりながらテルは謝るが、ぜんぜん悪びれていない。
「もうっ、テルのせいだからね!」と、ジロウは怒っている。
ヒサシは二人に見られていたことが、凄く恥ずかしかったらしい。
再びタクロウの肩に顔をうずめてしまった。
きっと顔は真っ赤になっているに違いない、とタクロウは思った。
「せっかくイイとこだったのに、邪魔しないで欲しいなあ、テルさん」
「それはそれは。すみませんでしたね、タクロウさん。」
2人はおどけてそう言う。
「さ、帰ろっか。ね、ジロウ」
「そうだね」
じゃあねえ、と言って二人は帰っていった。
「帰った?」
ヒサシがやっと顔を上げた。
「うん」
タクロウがもう一度ヒサシにキスしようと顔を近づけるが…
バタバタバタバタ、ガラッ
「あ、ごめん!」
2人はそろってドアの方を向く。戻ってきたのはジロウ。
「ジロウ?どうしたの?」
「あ、邪魔…しちゃったかな。これ飲んでね!じゃ!」
「あ、ジロウ…行っちゃったよ…」
置いていったのは、缶ジュース。
「…ホントに買いにいったんだ…」ヒサシがつぶやく。
「さすが、A型だな」
2人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
そして…やっとキスをした。
その後すぐに、今度はタッキーがやってきた。
タッキーから昨日の夜行った検査の結果を聞き、薬をもらい、
ついでにさんざん説教されて、やっと退院する事が出来た。
その後しばらくヒサシはタクロウの家に入り浸って、身の回りの世話を
していた、料理をしたり、掃除をしたり。
しかし、その姿を見たジロウが、
「なんか、ヒサシってば、タクロウくんの奥さんみたいだね」と、
行っていた事を知らない…。
『だって、ヒサシにそれ言ったら絶対怒るじゃん』
by JIRO
おわり
この作品はかなり昔に書いたものです。たしか、このサイトを作ろうと決めた頃に書いていたものです。
もう1年近く前ですね。でもけっこう気合入れて書いたので、すごく思い入れがあります。
実はお友達のサイトにこれを上げたのですが、そこが先日閉鎖しました。
なので、ここにUPします。読んだこと無かった人お待たせしました。