船話

わたしは学生時代、学校の実習で汽船や帆船の練習船に乗り、毎年日本各地や、ニューカレドニア、ニュージーランド、アメリカまで行ったりしていました。そのときのおもしろいエピソードを紹介します。
釣り
わたしは釣りをするために船に乗っていたという話もあるぐらい船の上では釣りばかりやってました。そんなわけで釣りに関する話はたくさんあります。


サバロシアンルーレット事件
学校の練習船で三泊四日の短期実習で館山湾に錨泊していたときのことです。夜、釣りをしたら、三十センチくらいのサバが入れ食いになりました。学校の練習船は学生用の調理設備が乏しく、刺身にするくらいしか調理方法がありませんでした。知っている人は知っていると思いますが、サバの刺身は大変美味な反面、寄生虫に当たるとかもしれないという大変大きなリスクがあります。そこで開催したのがサバロシアンルーレット大会。文字どおり、誰がサバの刺身に当たるかを競う大会であります。十人ほどでうまいうまい。と食った後、夜通しトイレから出てこない人が二人ほどいました。もちろんわたしも食べましたが、皮のあたりを絶対食べないようにして良く噛んで食べたのが勝因であります。うまかったなぁ〜。
サバにいる寄生虫のアニサキスはたいてい皮のあたりにいるそうです。ちょっとでも傷がつくと死んでしまうそうなのでよく噛んで食べれば、まずだいじょうぶだそうです。無傷のまま飲み込んでしまうと人間の胃の中で「あれ?ここ魚の中じゃない。外にでなきゃ。」と胃を突き破ろうとするのでそれはそれは大変な痛みに襲われるそうです。

練習船は漁船ではない!
一ヶ月の実習のとき、九州の五島列島に錨泊しました。そこではアジがたくさん釣れました。潮の流れが速いところだけあって大変美味でしたが、あまりに釣りすぎてあまってしまいました。そこで考えたのが「アジの開きを作ろう」でありました。ルームメイトの許可をもらい、居室の上の空間中にアジを干しました。二日ほど干したら一夜干し風のおいしい干物ができて一人で喜んでました。その日の航海中、士官に呼ばれ、「おまえ、アジをいっぱい釣ったらしいが、部屋で魚干してんじゃないだろうな。」と知っているくせに聞いてきました。「はい。干してます。うまかったです。」と答えたところ、「練習船は漁船ではない!」と一喝されたのでした。後から聞いた話だと部屋が魚臭いのがイヤだったルームメイトが士官に相談していたらしいです。いいっていったじゃん。

ハンカチ事件
いつものように船尾で釣りをしていたら魚が釣れましたが、手が魚臭くて何か拭くものないかなぁ〜とその辺のウエス(ボロ切れ)とか探していました。ウエスが見つからず、まぁ仕方ないかと思った瞬間、目の前に大きな布があるじゃないですか!白くて真ん中に赤い丸が書いてあります。こりゃ〜いいハンカチだと魚臭い手を拭かせてもらいました。そう言えば、船の船尾にはその船の船籍を表す国旗が掲揚してあります。もちろん日本の練習船は日の丸です。あのハンカチって・・・

巨大イカ
普通の汽船ですと15ノット(時速30キロぐらい)くらいで走りますので、とても速過ぎて釣りはできないのですが、帆船ですとたいてい5、6ノットでトロトロ走るのでトローリングに最適なのです。マグロやカツオはなかなか釣れないのですが、夜の太平洋はイカがウジャウジャ。青白く光っているのが見えるぐらいです。ここに新兵器アミノ酸ラバー装着エギという仕掛けを流すと、どんどん釣れます。たぶんアカイカという種類だと思うのですが、刺身でも、炒めたりしてもおいしく、毎晩釣っていました。とある夜、いつも流している仕掛けがめちゃくちゃ重くて上がってきません。流木でもひっかかったのかなと思いましたが、なんとか上げてみたら写真の巨大イカ!こんなでっかいイカは生まれて初めて見ました。全長一メートルはあります。さっそく料理してみたら硬くて刺身ではとても食べられないことが判明し、煮てみました。ひとかけら口に入れてみたらものすごい歯ごたえで右の歯で噛んだらプリン!と口の左の方に飛んでいきました。今度は左の歯で噛んだらまたプリン!と口の右の方に飛んでいきました。また今度は・・・プリンプリン!と口の中で踊る踊る。いつまでたっても飲み込むことができず、結局、あまり硬さに食べることはできませんでしたが、ゲソの方はとても軟らかく、おいしくいただきました。

ニューカレドニア
大学四年の総決算の航海で神戸〜ヌーメア(ニューカレドニア)〜オークランド(ニュージーランド)〜東京と大成丸というタービン船の練習船でのべ三ヶ月の航海をしました。

ヌーメアのパイロット
神戸から十日ほどの航海でヌーメヌに到着し、パイロット(水先案内人)の先導でヌーメア港外に投錨しました。このとき、船橋にいた私は当然、パイロットに「このへん釣りしていいの?」と英語で聞きました。「ああ。釣りしても構わないけど、緑色のサンゴ礁の魚しか釣れないよ」とか会話してしました。錨泊するときに前後進を繰り返してヘタなパイロットだな〜と思っていたのですが、翌日の入港のときも投錨と同じパイロットで、どうも、このパイロットはタービン船は慣性が強いのでアスターン(後進)に入りにくいというのを理解してないなあと思っていたのですが、見事に着岸のときやってくれました。岸壁のでっぱりにぶつけて船体をヘコましてくれたのです。パイロットは「アイアムベリーソーリー」と言ってましたが、船長はキレギレでした。

両替できん!
ニューカレドニアの通貨はフレンチパシフィックフランというわけのわからん通貨で日本の銀行では扱っていません。そこでヌーメアに上陸したらすぐ、両替に行くことになりました。ヌーメアに上陸した日は土曜日。どこの銀行もやっていません。ホテルに行ってみたら「ホテルの客の分しかやらない。」とか言われ、「じゃあどこに行けばいい?」「銀行。」「銀行休みだから来たんだけど」「そっか今日土曜日か・・じゃあカジノに行けば」「カジノはどこ?」「ここから海沿いに行ったところ。バスですぐだよ。「だからそのバスに乗る金がないんだよ!!」と思いながら、てくてくカジノに向けて歩いていくことにしました。十分ほど歩いたらあるじゃないですか。カジノが!「なんだ近いじゃん。」と思って入っていったら単に「カジノ」という名前のスーパーマーケット。紛らわしい名前付けんなよ!!とキレギレになるものの、さらにカジノを求めて、てくてくてくてく3時間。ものすごい強烈な日差しに水も買えず、死にかけたとき、「あ、クレジットカードがあった。」あっさりCD機からフレンチパシフィックフランを引き出すことができたのでした。これで仲間の分の水を買ってやれました。さらに1時間後、ついにホンモノのカジノを発見し、カードがない仲間も両替することができたのでした。でもその頃には太陽が沈み始めたのでした・・・両替だけで一日が終わり、てくてく4時間かけて歩いた道をバスに乗って15分で帰ったのでした。
海にはいろんなものが・・・
海のど真ん中なんてどうせな〜んにもない。と思っていたら大違い。いろんな生き物やあらゆる自然現象に出くわしました。

動かない雲
海の上から見る星空は空気がキレイな上に他に光がありませんからそりゃ〜きれいなもんです。ニューカレドニアに向けて赤道近くを航海中、さらに輪をかけて星空がキレイな夜がありました。その夜は月もなく快晴。満天の星空です。しばし見入っていると2つの小さな雲がありました。「他にまったく雲もないのに変だな〜」と思いました。そのあとしばらくたって見たらほとんど同じ位置にあります。「変だな〜」と思って「あの雲動かんね。」と話したら「あれは大マゼラン星雲小マゼラン星雲だ!」と教えてくれるやつがいました。「なるほどあの向こうにイスカンダルがあるのか・・・」と一人感心しておりました。
それにしても肉眼で見れちゃうんですね〜。海の上では星雲まで!

動く星
航海中、たまに上空を飛行機が通ります。「飛行機は速くていいなぁ」といつも思っていました。飛行機の1時間が船の1日。と良く言われます。グアムまで船だとだいたい3日、オーストラリアまで10日ぐらいですから、だいたい当たってますね。
夜、飛行機が通ると点滅してますからすぐわかるのですが、点滅していないちょうど星ぐらいの明るさの物体がまっすぐつーーーっと上空を通っていきました。流れ星にしてはゆっくりです。「あれなんだろ?」と思ったら「あれは人工衛星」と教えてくれるやつがいました。
それにしても肉眼で見れちゃうんですね〜。海の上では人工衛星まで!

UFO見ゆ
アメリカ本土からハワイへ向けて帆船で航海中のことです。夕方の日没直後、天測をするため、50人くらいで北極星やら星を探していました。すると、西の空に金星ぐらいのとても明るい星があります。金星は別のところにあるのに何の星だろう??と思ってみんなで見ているとフェードアウトするように暗くなっていき、最後にポッと消えてしまいました。あれはいったいなんだったんでしょう?まっすぐ飛んできた隕石説、照明弾説いろいろありましたが、いまだにナゾです。やっぱりUFOだったのかなぁ。

まだまだ続く船話・・・