講談社【人類の知的遺産】全80巻 アイウエオ順良書巡礼
(2012-12-7開始)
■最近本を読まなくなったし、たまに読んでも辞書への登録が面倒ではかどらない。年齢のせいだ。2010年最大の収穫はサルトル新訳「嘔吐」を読んだことだった。強く印象に残ったのは主人公ロカンタンが図書館で出会い、食事を供にした「独学者」だ。この独学者は図書館で、かたっぱしから書名のABC順をかたくなに守って読破している。この脈絡のなさ、知識の系統化の欲求のなさ、すなわち知るという行為の無目的さがすごいと思った。自らはは何もなす事はない、それでも極大化した自尊心がそれをさせる。

■講談社の「人類の知的遺産」は名著ではないかもしれないが、私が知る限り現代最高の良書である。中央公論の「世界の名著」は名著だったかもしれないが、読み切れなかった。なにより「人類の知的遺産」は字は大きいし、本質的な理解はほど遠くても、研究者ではない一般読者が「分かる」気持ち、あるいは「確かに難しい」という気持ちを持つことができるからだ。たまたま10数年前に必要があって同シリーズの「トインビー」を読んで、あまりに読みやすいのに驚いた記憶があり、その後何冊かは読んだ。そこで今回、嘔吐の「独学者」に習って、このシリーズをアイウエオ順に読もうと思ったのが2010年の年末。

■本来の「人類の知的遺産」80巻は「古代イスラエルの思想家」→「ウパニシャッドの哲人」→「ブッダ」→「孔子」→「老子莊子」→「墨子」と続く。アイウエオ順だと「アインシュタイン」→「アウグスティヌス」→「アダム・スミス」→「アリストテレス」と進む。人間の知識は歴史を直線的に集積したものではないとすれぱ、こんな読み方もありだ。自分の辞書に語彙採録した時点で読了とするので、なかなか前に進まない。

■2012年末となって2年経過したが、まだウィトゲンシュタインまでしか来ていない。その間、少しずつ古書を買い集めてきて、30冊以上が並んだ。そろそろ「カ行」の著作を用意しておこうかと、ヤフオクや日本の古書店を検索。なんとヤフオクで全80巻が出品されているではないか。残り50冊を単品で買いそろえるより遙かに安価だし、手数が省ける。これまで、それをしなかったのは、読み切れるあてのない本を積んでおくことが気が引けたからである。しかし最近、自炊に目覚めて、本棚の本が裁断されPDF化されている。その空いたスペースに納めようという魂胆。それにしても30冊は捨てなければならない。その結果が下の写真だ。 現時点では、死ぬまでに読み切れそうな気がしている。というより、読んでおかなければという切迫感が湧いてきている。ただし、自炊してからタブレットで読むので、読み進めば、また本箱のスペースは空くはず。


■各巻はそれぞれ個性が豊かで、均一な水準で書かれた解説本というより、各著者の思いの詰まった原著者→著者→読者という「精神のリレー」であると感じらられる。アリストテレスの今道は、アリストテレスを批判的に捕らえ、自らの論理体系を自信を持って語る。正統派とされるアウグスチヌスは、実はみずからマニ教を克服することで愛の信仰に到達する、それを聖職者の子である神学者が書く。ロヨラに強く共感する垣花(名古屋大学プラズマ研長!)の描くロヨラ像は司馬遼太郎による「ロヨラの妖気」のイメージをぬぐうし、ルターに対する批判的表現もおもしろい。何より、中世イスラム世界の最大の知性とされる「イブン・ハルドゥーン」を読めたこと。しかも著者の森本は元東大寺の管頭である。
 これらを読んで、自分の生き方がいまさら変わるわけではないが、読むこと、知ることという行為そのもので十分充実していると言えるような気分になっている。なにより、古典的名著の概要が分かることより、これらの古典に向き合って学究生活してきた各著者の真摯さに触れ合えることが嬉しい。

■講談社「人類の知的遺産」は同社の創業70周年記念出版事業として、1978年4月から刊行開始している。第1回配本は「フロイト」(小此木啓吾)で始まり、「ドストエフスキー」(内村剛介、「ニーチェ」(山崎庸佑)と毎月刊行されていった。最後は第79回「ロック」(野田又夫)から「ルソー」(福田歓一)の第80回配本(1986年1月10日)で終わる。企画委員は以下だが、刊行開始前に死去した森を除いて、全員が完刊を見届けている。
        市井三郎 1922-1989
        貝塚茂樹 1904-1987
        加藤周一 1919-2008
        都留重人 1912-2006
        中村 元 1912-1999
        森 有正 1911-1976

■ちなみに「アイウエオ順」に読むというのは、実は努力が必要。後半に読みたい人物が多くても我慢。アウグスティヌスを読んだ後、トマス・アクィナスを続けて読みたくなったが我慢。今までのの読書傾向は、少し本流から離れた偏った分野だったが、そうなると好きな分野の本ばかりが増える。好きな理由は、好きになる出会いがあった訳で、その意味で関心の有無を問わず強制的に読んでいくのは、新しい出会いとなり、何より新鮮で刺激がある。自分にとって新たな80番札所巡りの出発のような気分だ。行き着ければ良し、行き倒れるも良し。
「アインシュタイン」→「ガンディー」(この棚読了かつ自炊済み→廃棄済み
「カント」→「孫文」(この棚読了かつ自炊済み→廃棄済み
「ダーウィン」→「ハイデッガー」
「パスカル」→「マックス・ウェーバー」
「マホメット」→「魯迅」

No. Vol. 知的遺産 生年〜没年 著者 読了
1 68 アインシュタイン 1879〜1955 矢野健太郎 2011-1-30 (416)☆☆
2 15 アウグスティヌス 354〜430 宮谷宣史 2012-5-6 (429)☆☆☆
3 42 アダム・スミス 1723〜1790 大河内一男 2012-5-20 (430)☆☆☆☆
4 8 アリストテレス BC384〜322 今道友信 2012-5-31 (431)☆☆
5 12 イエス・キリスト --- 荒井献 2012-9-30 (436)☆☆
6 27 イグナテイウス・デ・ロヨラ 1491〜1556 垣花秀武 2012-9-31 (437)☆☆☆
7 22 イブン=ハルドゥーン 1332〜1406 森本公誠 2012-10-31 (438)☆☆☆☆☆
8 14 ヴァスバンドゥ(世親) 400?〜480? 三枝充悳 2013-1-14 (443☆☆☆☆
9 73 ウィトゲンシュタイン 1889〜1951 藤本隆志 2013-1-15 (444)☆☆
10 2 ウパニシヤッドの哲人 松濤誠達 2013-1-19 (445)☆☆☆
11 23 エラスムス 1469〜1536 二宮敬 2013-3-9 (449)☆
12 25 王陽明 1472〜1528 大西晴隆 2013-4-29 (453)☆☆
13 31 ガリレオ 1564〜1642 伊東俊太郎 2014-1-8 (466)☆☆☆
14 28 カルヴァン 1509〜1564 久米あつみ 2014-2-9 (467)☆☆
15 64 ガンディー 1869〜1948 森本達男 2014-9-1 (482)☆☆☆
16 43 カント 1724〜1804 坂部恵 2014-10-1 (487)☆☆☆☆
17 11 韓非子 不明〜BC233 貝塚茂樹 2014-10-16 (489)☆☆
18 48 キルケゴール 1813〜1855 小川圭治 2014-11-4 (490)☆☆☆☆☆
19 55 ケア・ハーディ 1856〜1915 小川喜一 2014-11-7 (491)☆☆
20 70 ケインズ 1983〜1946 伊藤光晴 2014-12-10 (492)☆☆☆☆
21 45 ゲーテ 1749〜1832 手塚富雄 2015-2-26 (495)☆☆☆☆
22 80 現代の自然科学者 --- 里深文彦 2015-3-30 (498)☆☆
23 79 現代の社会科学者 --- 富永健一 2015-7-20 (506)☆☆☆ 
24 4 孔子 BC552〜479 金谷治 2015-8-31 (508)☆☆☆
25 33 黄宗義 1610〜1696 山井湧 2015-8-31 (509)☆☆☆
26 1 古代イスラエルの思想家 --- 関根正雄 2015-10-10 (510)☆☆
27 3 ゴータマ・ブッダ BC463〜383 早島鏡正 2015-10-23 (511)☆☆☆☆
28 77 サルトル 1905〜1960 加藤周一 2016-1-20 (510)☆☆☆☆
29 19 朱子 1130〜 1200 三浦国雄 2017-1-15 (538)☆☆☆
30 35 スピノザ 1632〜1677 工藤喜作 2017-1-31 (541)☆☆☆☆
31 善導 613〜681 藤田宏達 2017-2-12 (542)☆☆☆
32 孫文 1866〜1925 堀川哲男 2017-2-26 (543)☆☆☆
33 ダーウィン 1809〜1882 筑波常治 2017-5-18 (553)☆☆☆☆☆
34 61 タゴール 1861〜1941 吾妻和男 2017-6-14 (541)☆☆☆☆
35 ダルマ
36 ディロド
37 デカルト
38 デューイ
39 デュルケーム
40 トインビー
41 ドストエフスキー
42 トルストイ
43 トマス・アクイナス
44 トロッキー
45 ナーガルデュナ
46 ニーチェ
47 ニュートン
48 ハイデッガー
49 バクーニン
50 バスカル
51 バルト
52 フッサール
53 プラトン
54 フランツ・ファノン
55 フロイト
56 ヘーゲル
57 ベーコン
58 ヘレニズムの思想家
59 ベルクソン
60 ベンサム
61 墨子
62 マイスター・エックハルト
63 マキアヴェッリ
64 マックス・ウエーバー
65 マホメット
66 マルクス
67 孟子
68 毛沢東
69 モンテスキュー
70 モンテーニュ
71 ヤスパース
72 ライプニッツ
73 ラッセル
74 ラーマクリシュナ
75 ルソー
76 ルター
77 レーニン
78 老子・莊子
79 魯迅
80 ロック


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