50mmレンズと35mmレンズ               2000-12-4 


■古い話しだがアサヒカメラの1955年の3月号の座談会コーナで木村伊兵衛が面白いことを言っている。1955年だからM3が発売された翌年の話しだから、まだ評価の定まらないM3に対する初期の率直な意見が出ていておもしろいので、これは別に書くことにして、今日書くのは50mmレンズと35mmレンズの話しである。

■3月号の座談会では……欧州撮影旅行から帰った木村伊兵衛に対して。
名取
「ライカはみなM3ですか。」
木村
「コンタックスもレンズがよくないという評判ですよ。オプトンになってからほんとのレンズになっていないという。そこでライカM3とVf、どっちがいいかというのはいまケンカですよ。……
実際問題として、報道写真家が日本じゃ35mmだけれども、フランスでは50mm一点張りでたいがい間に合うというんだ。そうなるとVfのほうが簡単じゃないかという。ぼくはきいてなるほどと思った。日本の横丁はね、広角じゃなきゃだめだが、向こうの横丁は広いんだ。だから50mmでちょうどいい。」
名取
「ぼくもライカのスタンダードでいいと思っている。」
木村
「痛切に感じたのは、向うの横丁は35mmだと横丁にならないで空が出ちまう。人間と背景との関係が50mmのスタンダードでちょうどいいということを最初知らないからね、日本の調子でバカの一本ヤリで35mmを使ったけれども、向うじゃそれはほんのわずか、あと大部分50mmだけですよ。」

■これはブレッソンが50mm一本ヤリであるという影響を木村がもろに受けていると言うこともできるが、もう一つ思うのは、木村が日本でやるように被写体に1歩踏み込んでいないからではないかということ。木村の欧州撮影は人に距離を置いているように感じられる。だから35mmでは都合悪いのだ。確かに、ヨーロッパの都市で撮影すると、35mmは石作りの建築物が平板に写り込むように思う。だからその広がりは28mm以下が丁度いいし、逆に長い方は90mmぐらいがいいなと思っている。
木村は50mmの標準を使えと言うが、自分にとって標準はすごく難しい。どうしてもレンズの画角の効果を当てにしてしまうのである。




【カメラの触感】