フランスの国宝とは?
パリ建築・文化財博物館にて

Cite de l`architecture & du patrimoine


(2014-8-22記述)

 

■パリ・トロカデロのシャイヨー宮右翼に2007年開館したのが、国立の「建築・文化財博物館」 (Cite de l`architecture & du patrimoine)。フランス全国の教会を見て歩くのは困難な人、あるいはこれから見て歩こうという人には是非訪れることをお薦めしたいというか、そうやって薦められて昨年2013年5月、サンティアゴ巡礼ル・ピュイの道を歩き終えた後、立ち寄らせてもらった。
 さてフランス美術の第一番の 国宝はどこにあるだろうか。当然最初に思い浮かぶのが「ルーブル美術館」だが、古代エジプトに始まって、ギリシャ・ローマ彫刻ときて、ルネッサンス美術あたりが展示の中核だが、実は純然たるフランス固有の作品というのは記憶に残らない程度しかないはず。間違って「モナリザ」こそ、フランスの宝といったら、イタリアから大きなクレームが来るだろう。
 ならば「オルセー美術館」はというと、絵画においてはフランスがその独創性を発揮したのは印象派が最初といって良いから、純然たるフランスの宝と言ってよいが、伝統に反発した若い才能の発揮であって、今になって国の宝というのは、別にうれしくないと言われそうだ。もっと古い時代のものはないだろうか。ならば「クリュニュー美術館」(現中世博物館)があると反論される。確かに一角獣のタピストリーはすばらしい。謎めいて装飾性が高く、高貴な美しさはあるが、これがフランスとしての第一の芸術的宝と言えるだろうか。

■素人考えであるし、個人的感想ではあるが、フランスが芸術の世界で、これこそフランス芸術の起源として誇っていいのはロマネスク教会美術ではないか。すなわち、コンクのサント・フォア聖堂、モワサックのサン・ピエール僧院の扉口タンパンこそが、フランスの国宝1号、2号と呼んでいいのではないかと思う次第。どちらもサンティアゴ巡礼道(ル・ピュイ道)でその現物に接した後、その印象は一層強い。
 これらのロマネスク教会建築(特にそのタンパン)が、一望できるのが、実はこの「建築・文化財博物館」である。 



■同博物館のメイン展示品は、上の写真のサン・ピエール僧院(モワサック)である。2週間ほど前に現地で見てきたばかりなのに、同じものがパリにある。しかも、その印象はこちらの博物館のものの方が圧倒的である。実は、この展示は実物の等寸のコピー、現地で型取りしてから注型・彩色したもので、技法的にはデスマスクと同じである。同博物館は、フランス国内の記念碑的建造物の彫刻、フレスコ画、ステンドグラスなどを、可能な限り再現して展示している。なぜ、サン・ピエールのタンパンが実物より強い印象を与えるのだろうか。下の写真で実物と比較する。

 

■左の全体として摩滅が進んでいる実物と比較して、注型された展示品の方が照明の効果も相まって彫りが深くみえるので、人像の表情までくっきりと識別できる。特に小人像が一体一体に生命感が宿り、それが狭い空間に密集し、全体として実物よりはるかに大きく見えた。ただトリュモーの聖エレミアの表情や髪の線刻は、なぜか実物の方が、はるかに克明で、部位によって注型の技術に差があるように感じた。次にコンクのサント・フォアである。このタンパンで、最も有名な「神の右手に額ずく聖フォア」の部分を下の写真でアップしてみる。このタンパンは彩色が残ってるのが特徴だが、展示品はまったく生気がなく、これではこのタンパンの魅力がまったくZ伝わらない。難しいものだ。



■私がフランスのロマネスク教会のなかで、今一番訪ねてみたいのがオルネーのサン・ピエール教会である。ロマネスク美術に対する興味をひきつけられたきっかけとなった「岩波写真文庫169:フランス古寺巡礼:柳宗玄,(1955年)」のなかでも最も印象的な写真を下に引用させていただく。若いころから、なぜか墓標のある写真や絵画に心引かれ、そんな一枚の写真や絵をたよりに、現地を訪ねる旅をしていた。冬の丹後半島間人(たいざ)の海際の墓地、平戸の対岸、田平の天主堂墓地もそんな思い出の一つである。ル・ピュイの道では、オーブラック救護院の夕日に光る平らな墓標が印象深かった。
…オルネーは人口千余の村。その村外れの墓地の糸杉の間に、訪れる人も殆どなく独り立つ教会。しかし、これはふらんすのロマネスク建築で十指に中に数えることができる程の傑作だ。12世紀初頭の建立。クリーム色のやわらかな石が、真夏の陽光を一杯に受けて静かに輝いていた。西及び南の入口上部を飾る数層をなすアーチの彫刻−−これはポワトゥ派の教会建築の特徴の一つだがとりわけ見事だ。装飾化された植物や人像、更にはロマネスク特有の奇怪な動物達もみえて、近くからはその彫りの鋭さに、遠くからは、レースそのままの繊細な美しさに驚かせれるのだった。(上掲書:柳宗玄)…


「岩波写真文庫169:フランス古寺巡礼:柳宗玄,(1955年)」P.29

オルネーはサンティアゴ巡礼道ではパリの道、ポワティエからサントの途中の村である。このあたりの教会はポワティエ様式と呼ばれる矩形断面の細密彫刻を持つアーチボルトに特徴を持つ。今回はがんばって歩いたので、パリからの帰国まで2日余った。そこで電車でオルネーに立ち寄ることを考えてみた。グーグル・マップで見ると、最寄駅はサン・ジャン・ダンジェリ、ここからオルネーまで片道16.8km。一日がかりの往復になりそう。さらに近いルレ(無人駅?)からなら片道13.7km。いずれにせよ主要駅サントからのローカル線情報がなく、時間的に無理と判断してパリに直行して、この建築・文化財博物館で、サン・ピエール教会のアーチボルトに対面している。写真では、少し明度を下げて、コントラストを強くしてみた。白々とした展示品だったが、写真にしてみるとなかなか良い。やはり現地に行ってくるしかないか。


Eglise Saint-Pierre サン・ピエール教会交差廊南扉口(オルネー)

■以下に、他の展示もアップしておく。


Cathedrale Saint-Lazare サン・ラザール大聖堂(オータン)


Eglise Sainte-Maria-Madeleine 聖マリア・マドレーヌ教会(Neuilly-en-Donjon)


Eglise Saint-Pierre サン・ピエール教会西扉口(Carennac)


Eglise Saint-Lazare サン・ラザール教会西扉口南側 (Avallon)


Basilique Saint-Marie-Madeleine サント・マリー・マドレーヌ大聖堂(ウェズレー)



サンティアゴ巡礼