左利きのハサミは設計ミス                1997-1-2 


■左利き専用のハサミはあまり売れていないのではないか。その理由を販売サイドは理解していないのではないか。左利きで困るのは、右利き用のはさみがうまく使えないということになっている。よく左利きの洋服仕立て職人は、専用の左手はさみを持っているという話もある。たしかに、曲がり刃の金切りばさみは、絶対に左手で切ることはできない。ところが普通のはさみでは決してそんなことはない。しかし、左利き用のハサミであったら、もっと良く切れるのではないかとは思っていた。

■右手に握ったとき、上刃が右側に来るのが、右利き用のはさみ。それを左手で使うと、自然な握り動作で2枚の刃が開くベクトルが働き、切れなくなるという理屈である。 そこで、気の利いたメーカが、右利き用と対称形の[左利き専用はさみ]を売り出した。10年以上前のことだが、東急ハンズに飛んでいって買ったものである。ところが、これがまったく切れない。左手でも切れない。もちろん右手でも切れない。刃はきちんとついているので不良品ではない。

■理由は、あらためて考えてみると簡単だった。自分は長年、右利き用のはさみを使っている。それで問題なく切ることができる。右利き用のはさみを左手に持ち、握るときに二つのグリップを開く方向に力をかけている。握り込むのではなく、握りながら、親指を押し出している。この運動により刃側は閉じようとする運動して、相手を切ることができるのである。この指の運動が完全に無意識にできるようになっている。このことは、左利き用はさみを使う上で逆効果となり、無意識に刃を開くようにはさみを動かす結果となるからである。
 今まで、無理をしていたのだから、左利きのはさみになれた方がいいという意見もあるかもしれない。今後、いかなる場面でも左利きのはさみしか使わないということになれば、それでもいい。決してそんなことはない。はさみのタイプによって、指の運動を制御することなど不可能だ。


■この左利き用ハサミを設計した人間は、間違いなく[右利き]に違いない。たしかに、右利きの人が、このはさみを左手に持てば、みごとに切ることができるだろう。以上より[左利き用はさみ]とは、[右利きの人が左手で使うためのはさみ]と定義することができる。ニーズはあるかって。右利きの人がケガ等で右手が使えなくなったとき、このハサミは大活躍することだろう。
 ということで、現在私の[左利き用ハサミ]は、商品デザインにおけるヒューマン・インターフェイスの難しさを示す事例として、時々若い設計者に使わせてみて、使い勝手という意味を考え直すツールとして化している。 メーカには、取扱説明書に以上の事実を記載することを提案したい。



【左右の理屈】