左手操作のカメラ       2000-5-6追補 


■「写真は目で撮る。」 だから、主要な機能が右手操作であっても、さして不都合はない。土門拳は脳梗塞でカメラを持てなくなっても、「古寺巡礼」の撮影を続けた。近年の全自動カメラは、さらに左利きである不便さは解消しているが、一方の手が不自由である場合や、片手をカメラの拘束から逃れたいという片手操作用のカメラのニーズはある。

■1989年に発売された京セラのSAMURAIは、片手操作を前提として、それぞれ右手用と左手用が発売され、話題を呼んだ。
   右手用……SAMURAI Z    (定価 左手用と同じかどうかは不明) 
   左手用……SAMURAI Z−L (定価58000円)
35mmハーフサイズで3倍ズームのストロボ内蔵一眼レフで、パスポートサイズ時代のSONYのハンディカムと類似したホールディングである。右利き用を現在も使っている友人によれば、使いやすく、写りも良いとのことである。

■通常の35mmカメラを左右対称に設計すると、部品の大半を左右対称にせざるを得ないことが、左手用の供給を困難にしている。SAMURAIはフィルムを縦に走らせることで左右対称設計を実現し、カバーリング以外の部品を右手用、左手用で共通化をはかったことが、左手用の販売を可能とした。残念ながら中古市場でも見かけることがない。

■SAMURAIのようなデザイナーの意思が感じられずに、理由なく構造上の都合で左手操作するカメラもある。1936年ドレスデンのイハゲー社が発売したEXAKTA(エキザクタ)である。フィルム巻き上げレバーが左側にあり、シャッターボタンはレンズの左斜め上についている。航空工学の佐貫亦男先生によれば、緩速度シャッタとセルフタイマーのチャージダイヤルのバネが強すぎて、右手でなければ巻けないので、これを右側に配置し、やむなく巻き上げレバーを左に持っていったという事情であるそうだ。このデザインは戦後も継続されたが、廉価モデルのEXA(エクサ)でシャッター位置はそのままで、巻き上げレバーだけ右側に移動した。
エギザクタは、左手用というよりは、右利きのひとにも、左利きのひとにも使い難いことで有名であり、それに音を上げたオリオン精機の萩原社長が国産初のペンタプリズム式一眼レフのべミランダTを開発したという逸話がある。

■ドイツ人は頑固な設計をするものだ。エキザクタの事例は、1966年フランケ・ウント・ハイデッケ社から発売されたローライ35で繰り返される。35mmフルサイズのコンパクトカメラなのに、当時のニコンFと同等の価格という高価なカメラであった。このカメラはシャッターは右手、フィルム巻き上げは左手だが、アクセサリーシューが底面についているので、メーカはストロボ撮影にカメラをさかさに保持することを推奨している。この時のシャッターは左手、巻き上げは右手操作になる。

■知る限りでは、片手操作カメラとして最も優れているのは1963年発売のCANON ダイヤル35ではないだろうか。ハーフサイズ、フィルム縦走りで、スプリングモータによる自動巻き上げであるので、右手でも左手でも違和感なく操作できる。なにより、片手で自然に保持するとハーフサイズなのに横位置にフレーミングできるというのがよい。中古市場では高価ではあるが手に入れることができる。

(2000-5-6追補)
■ このサムライを高輪台の松坂屋カメラで見つけた。瞬間的には右用か左用か分からず、左用ならめっけものと期待がたかまったが、結局右用で、さらにZの廉価版のZ2(定価53000円)であった。それを「研究用」ということで3000円で購入。持ち帰っていじってみれば、問題なく動作する。そこでサムライの左右対応は、機構を左右対称に設計してカバーだけの交換で対応するようにしたということから、実際にどうなっているかカバーを開けたのが下の写真。完全な対称ではなく、左手グリップが入るべき部分はストロボのポップアップと、ズームモータが組み込まれており、これを右に組み替えしなければ、カバーを手作りしても左利き用には改造できないことが判明した。




【左右の理屈】