左利きとディスレクシア                    2007-2-10 



■「2ちゃんねる」には「左利き」に関するスレッドがいっぱい立っている。
http://find.2ch.net/?STR=%BA%B8%CD%F8%A4%AD&SCEND=A&SORT=MODIFIED&COUNT
=10&TYPE=TITLE&BBS=ALL&OFFSET=20

 一般の左利きサイトは、左利きの人間によって運営され、私も含めてどちらかというと左利き礼賛的に偏りやすい。しかしあの「2チャンネル」である。左利きだけで慰めあうなどできっこない。右利き連中の罵詈雑言を含む第三者的見解は、出典の明らかでない色々な通説が飛び出したりして、そのまま了解する訳にいかないような記述は少なくない。しかしそれを我慢して忍耐強く読めば、以外と面白い。その中でも注目すべきは「左利きは障害者」というスレッドである。
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/handicap/1095346061/601-700
 2チャンネルの発言者は、一般論としては自分が賢明であるという立場で発言している。だから相手が自身より知的に劣ると見ると、徹底的に追い詰めていく。特にウェブ流の意図的誤変換を除く不用意な誤字には敏感に反応される。だから私はとても、そのような皆さんに向かって発言する勇気はない。私の文章には誤字・脱字がひどく多い。特に英語のスペルのミスが多い。私のホームページのアドレスが「……reft-right.htm」となっていることに気が付かれただろうか。私も後で気付いたのだが、まさに私のページを象徴しているような気がして修正していないのである。仕事ではあるが、数ヶ月がかりで200ページほどの文章を書く必要があったが、何度校正しても、ミスが収束しない。いまだに発行できないで、困っている。そんなとき「左利きは障害者」と言われると、否定するだけの自信はない。よく左利きは「個性」だと主張する向きもあるが、頭の悪いのは「個性」だとは言ってくれない。

■知的には普通なのだが、書字に欠陥がある左利きは少なくない。ダビンチの鏡像文字は、その典型として知られる。ダビンチは障害ではなく、意図的に、秘密維持のために鏡像文字にしたという説もあるが、わざわざ練習したとは思えず、自然に鏡文字を書けているという意味では、やはり普通ではない。
 もう少し、露骨に左利きと「認知障害」の関係を調べたデータに坂野登「かくれた左利きと右脳」青木書店(1982)があるので引用させていただく。ここでは「認知障害」の代表的なものとして「精神遅滞」で調べている。研究者によって、「精神遅滞」の定義は厳密ではないし、古い研究は、当時の価値観が表出するので割り引く必要があるが、「右利きより左利きのほうが「精神遅滞」の発現頻度は約2倍程度高い」ということになってしまう。もっと面白いのは、新しい研究では、「両手利き」も分類していて、そうすると、両手利きが左利きより、さらに発現頻度が高いということである。


表4 精神遅滞および対照群における利き手の出現頻度
研究者 対照群 遅滞群
人数 左利き(%) 人数 左利き(%)
Smith(1917) 5.0 200人(児童) 9.8
Gordon(1921) 3298人(4〜14歳) 7.3 4600人(児童) 18.2
Burt(1937) 5000人(児童) 4.8 左記中遅れのあるもの
遅滞群
7.8
11.8
Wilson & Dolan(1931) 1927人(普通学級) 3.7 151人(遅滞学級) 11.8
Wile(1934) 186人児童で差なし
Hicks & Barton(1975) 中度遅滞
重度遅滞
13.0
28.0
Porac & Coren(1981) 171人(17歳) 13.5(両手利き)
5.8(左利き)
138人(17歳) 44.2(両手利き)
15.9(左利き)
坂野(1982)
 調査対象はドイツ人 
400人(6〜11歳) 8.8(両手利き)
7.5(左利き)
222人(4〜14歳) 26.1(両手利き)
6.3(左利き)
400人(15〜18歳) 13.5(両手利き)
5.0(左利き)
<引用>坂野登「かくれた左利きと右脳」青木書店(1982) P.86


■上の研究は、今から20年以上も前のものであるので、まだディスレクシア(dyslexia)という概念は導入されていない。ディスレクシアという言葉は「天才たちは学校がきらいだった:トマス・ウェスト,講談社(1800円),1994年1刷」で知った。知能や視覚、話す能力に問題はないのに書かれた文章を読むことのできない人々のことをいう。最近の著名人には、トム・クルーズが知られていて、台本を読むことができない。そこには以下のような説明がなされている。……どうしても書かれた文字を読むことのできない人たちのいることは1890年代から知られていた。しかもそれが患者の高い知的能力と矛盾しないことが分かってきた。オートンは失読症患者の特徴として第一に両手利きが多いこと、その一族に左利きが多いことを指摘している
 坂野さんの研究の「精神遅滞」群には、このディスレクシアが含まれている可能性が高い。デイスレクシアは精神遅滞ではない。だれもトム・クルーズを精神遅滞とは言わない。だから現時点では、左利きの方が「精神遅滞」になりやすいという断定はすべきでないと思う。以前、ある人がディスレクシアをほめ言葉として使ったことがあった。ディスレクシアの人々はユニークな考え方や表現をする人々であるとしてのことである。

■その人は、私も少しだけディスレクシアだと言う。私自身は、子供のころ文字を読むのに困難した覚えはない。むしろ本好きであった。ただし、上に述べたように、誤字・脱字に無頓着であったり、本を読んだあとの記憶が残存しにくいという欠陥を自覚している。だから沢山の本を読んだり、読後の辞書を作ったりするのである。誤字・脱字の方はあきらめているが、最近、私の英語能力の酷さの理由として説明できないかと感じ始めている。「上野一彦:LDとデイスレクシア,講談社,800円,(2006)」を読んでいて、気がついたのだが、同書によると、ディスレクシアは、英語圏で多く発現する。
 言語には一文字が対応する音の単位の大きさである「粒子性」と、文字と音との対応関係である「透明性」がある。デイスレクシアは「粒子性」が細かく、「透明性」が低い言語で出やすい。日本語は「透明性」が低いが語彙が音節単位でできているので「粒子性」が粗い。ドイツ語やスベイン語は「粒子性」は細かいが「透明性」が高い。音素単位で語彙が作られ、その発音が一様でない英語で、ディスレクシアになりやすいという理屈である。もし軽度のディスレクシアがあって、日本語ではなんとかなった人が、英語に触れたときに顕著にディスレクシア的になるという可能性はないだろうか。今、上掲書を開いているが、そこに「Phoneme」という語彙が書いてあるが、読むのに手間取る。元々LとRの混同は激しいが、MとNの混同も酷いようだ。単に頭が悪いと言ってしまえばおしまいだが、頭が悪くなる(頭が悪いように見える)理屈を知るのは意味がありそうだ。ディスレクシアが英語を勉強するには、リーディングより、ヒアリングから入った方が理解が早いはずだ。以前、ヒアリング・マラソンにトライしたことがあったが、それに失敗していることからも私の自称ディスレクシア説は根拠がなさそうだ。

■最後に「上野一彦:LDとデイスレクシア,講談社,800円,(2006)」にあるディスレクシアの著名人リストを引用する。ディスレクシアは、LD(学習障害)の原因となっているので、子供のころは、正規の勉強ではつまずいたり、集団教育では疎外されていた人達が多い。そういう子供が、偉大な業績を上げているという端的な事例である。同書ではディスレクシアと左利きの関係に関心を持っていないので、それぞれの人の利き手を表記した。だれが左利きだというような情報は、だれかが書くと、それを引用する人がいて、そのうち既成事実になってしまう。エマヌエル・バッハは左利きだったが、だれかがバッハは左利きだと書いたことから、大バッハも左利きになってしまったというようなことが起こっている。そういう意味で、以下の表も割引きして見て欲しい。
 なお、上野さんは、このデイスレクシア・リストを作る情報源をきちんと明記(P.90)している。ただし、ANDを取ったか、ORを取ったかで、信頼度はかなり変わる。特に歴史上の人物については、伝記等に残されている幼少時代の特異な言動や、特定の事物への高い能力の発揮などから、ディスレクシアと定義していると思われる。しかし例えばモーツァルトは、ディスレクシアの概念が一般化する以前であると、いわゆるイデオ・サヴァン(サバン症候群)と言われていたように思う。知的障害のない自閉症の現れをアスペルガーと言うが、アスペルガーの極端な事例としてサバンがある。だから、ある人物がディスレクシアであったか、アスペルガーであったかは、かなり識別が難しい仕事だと思う。
 


【ディスレクシアの著名人】
名  前 仕  事 利き手
アルバート・アインシュタイン 物理学者 左利き
トーマス・エジソン 発明企業家 左利き
グラハム・ベル 発明企業家
マイケル・ファラデー 物理学者
ジェームス・マックスウェル 物理学者
ニコラ・テスラ 高圧電気学者狂
アンリ・ポアンカレ 物理学者
ニールス・ボーア 物理学者
フランク・ロイド・ライト 建築家
ミース・フォン・デル・ローエ 建築家
アントニオ・ガウディ 建築家
ウォルト・ディズニー ディズニー創立者
クリスチャン・アンデルセン 童話作家
アガサ・クリスティ 作歌
ルイス・キャロル 作家 左利き
レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才 左利き
パブロ・ピカソ 画家 左利き
サルバトール・ダリ 画家
オーギュスト・ロダン 彫刻家
岡本太郎 画家
アマデウス・モーツァルト 作曲家 左利き
ベートーベン 作曲家 左利き 
トム・クルーズ 俳優 左利き
キアヌ・リーブス 俳優 左利き
スティーブ・マックィーン 俳優 左利き
マーロン・ブラント 俳優
黒柳徹子 テレビ
チャールス・リンドバーク 飛行家
ウィンストン・チャーチル 政治家 左利き
ジョージ・ワシントン 政治家
ヘンリー・フォード 自動車製造 左利き
ウィリアム・ヒューレット HP起業家
<引用>「上野一彦:LDとデイスレクシア,講談社,800円,(2006)」
全リストではなく、私が知っている名前だけ引用した。
左利きのリストは主として「Famous left handers」によった。




【左右の理屈】