左毬杖と左義長                              2001-5-10 


■タイトルの読み方は「ひだりぎっちょうとさぎちょう」である。ギッチョという言葉に生理的な嫌悪感を持つ左利きは少なくないらしい。らしいと言うのは、子供の頃は別にして、自分は成人して以降30年、この言葉を投げつけられた記憶はないからだ。ここでは、ギッチョの語源を調べた結果を、ご報告したい。

■ まず古語辞典に当たってみた。何種類かの古語辞典をめくっても、「ひだりぎっちょ」「ぎっちょ」の項目は見当たらない。面白いのは岩波古語辞典(大野晋・他,1974年)における「左」の語源である。……ヒダリは、太陽の輝く南を前面として、南面して東の方にあたるので、ヒ(日)ダ(出)リ(方角)の意か。……とある。まあ、「か?」としているし、用法の例が示されていないので、編者の思い付きの可能性が高い。

■国語事典としては、最も大規模と思われる「日本国語大辞典・第16巻:小学館,昭和50年」には、以下の3項目が見出されるが、対応する漢字表現は示されていない。
     ひだり−ぎちょう
     ひだり−ぎっちょ
     ひだり−ぎっちょう
「ひだり−ぎっちょ」の語源としては、大言海に「ヒダリキヨウ(左器用)の転」とある。左几帳の義とする説もある。また「ひだり−ぎっちょう」に対して古語文献として多く引用される日葡(ポ)辞書はFidariguicho(ヒダリギッチョウ)と説明している。
そこで今度は「ぎっちょう」を引くと「毬杖」と「俗間に、左の手利きたる人をぎっちょうといえるは、左義長という意」とある。

■「左毬杖」には、以下の有力情報がある。JSCのMLの常連さんであるしまうまさんからの投稿である。ところが今度は「左義長」ときた。古語大事典(小学館,昭和58年)に「さ−ぎちゃう」という項目を発見。対応する漢字として[三毬杖・左義長]が示される。ややこしい。しかも左義長は当て字とある。正月の宮中行事で天皇が書き初めを三本立て毬杖に結んで、これを燃やした儀式で、後に民間において「どんと焼き」として伝承されるものとなる。

■器用。几帳。毬杖。義長。以上、言葉がいかに非論理的に意味や用法が変化していくか勉強になったが、これらのさほどはマイナスイメージのない言葉が、ギッチョとなった経緯はわからない。


<参照>小池しまうまさんのJSCのMLへの投稿

■舞楽に「打球楽(たぎゅうらく)」という曲がある。平安時代に、 ゴルフのように棒で球を打つ貴族の遊びがあったのだが、 それが様式化されて「打球楽」という舞になったのである。 本当にゴルフのドライバーのような形をした桴(ばち)を持って舞うのだが、 その桴のことをギッチョウ(毬杖、球杖などと書く)と呼ぶ。  右手で持って舞う決まりになっているギッチョウを、ある日、 舞人のひとりが左手に持って舞ってしまった。「おまえ、それは左手にギッチョウじゃないか」とみんなに指摘され、以来、 左利きを「左ぎっちょう」→ 「左ぎっちょ」と呼ぶようになったといわれてる。 東儀秀樹『雅楽』(集英社新書)p.173,174より引用



【左右の理屈】