利き手に関する遺伝説の変遷     2000-6-14
 


■2000-2-2に「質問/利き手に関する遺伝子の9組合わせ」としてロジャー・スペリーが紹介する利き手の遺伝説について書いた。その説が現在も受け入れられているか関心があったからである。 それなら「右利き・左利きの科学」に書いてあるよと教えていただいた。左利きの間では有名なブルー・バックス(B782,前原勝矢:1989年)である。以前に読んでいるのだが、読み飛ばして記憶になかった。1989年の前原の執筆時点での遺伝説は以下のように変遷しているとのことである。(同書は分かりやすく偏見のない本であるが、各種の説やデータに引用文献が示されていないのがうらまれる。)

ジョーダンの仮説
 利き手に対する優劣一対の遺伝子を想定。右利きを優性因子(R)、左利きを劣性因子(r)とする。これらの組合わせはRR、Rr、rR、rrの4種で、rrが左利きになると考える。確率は25%であるので、頻度が高すぎるし、両親ともに左利きのrrだと、子供も絶対rrになり、両親ともに左利きの場合は左利きの子供しか産まれないことになってしまって、現実と一致しない。

レヴィーとナガラキの仮説
 この説がスペリーの本で紹介されていた二遺伝子、四対立遺伝子のモデルである。
    ・言語中枢を右半球とするか左半球とするかを決定する遺伝子2種
             左半球にする優性遺伝子(C)
             右半球にする劣性遺伝子( c)
    ・言語中枢と反対側を利き手にするか、同じ側を利き手にするかを決定する因子2種
             反対側にする優性遺伝子(L)
             同じ側にする劣性遺伝子( l )             
これの組合わせは、CCLL、CCLl、CCll、CcLL、CcLl、Ccll、ccLL、ccLl、ccllの9種。一時は注目されたが、その後の追試で否定的な論文が多く、現在は評価されていない。

アンネットの仮説
 現在もっとも支持されているのがアンネットの右寄り因子仮説である。右利きは遺伝で決まるが、左利きは遺伝以外の要因で決まる、すなわち遺伝子説に環境因子を取り入れた点に特徴がある。
  言語中枢を左半球に設定し、同時に利き手も左半球に制御させる働きを持つ因子を仮定し、これを持つ場合をRS(+)、持たない場合をRS(-)とする。その組合わせはジョーダン と同じように次の4種となる。
                       RS(+)RS(+)、RS(+)RS(-)、RS(-)RS(+)、RS(-)RS(-)
右寄り因子が片方でもあれば右利きになる。よってRS(-)RS(-)以外は絶対右利きになるがRS(-)RS(-)は、右利きになるか左利きになるか中立、すなわち偶然の要素によるとした。RS(-)RS(-)の出現は25%なので、その内の五分五分の12.5%が左利きになるとした。この12.5%は現実と一致する。さらに、両親共に左利き、すなわちRS(-)RS(-)の場合、子供もRS(-)RS(-)になるが、子供が左利きになるのは五分五分であるので、両親共に左利きの子供の50%が左利きになるということを事例で証明した。
             

■ようするに、両親共に左利きであっても、子供が左利きにならないという事実をうまく説明できるのがアンネットの仮説であるのだが、個人的には結果を前提としたこじつけ的な仮説であると感じられる。   



【左右の理屈】