カントの左手                 2000-10-25 


■エマヌエル・カントは「手は外部の脳である」と語った。そう書いてある本は多いが、カントがどの本に書いたか書いてない。どなたも、自分でカントの本のページをめくる手間を惜しんでいるという意味で、カントの言う外部脳を使っていないことになる。どの本に書いてあるかご存知の方がいたら是非教えていただきたい。

■カントが外部の脳であると言った手は、左手であると言うのが私の仮説である。カントが生きていた時代には殆ど脳の機能は分かっていない。ブローカが左脳に障害が出ると言語障害を起こすということに気付く半世紀ほど前である。だからカントは経験と思考実験によってこのことに気付いたのだろう。
 人が何か思考するときに、ただ紙に向かってじっと考えているだけでは、思考を飛躍させることはできない。手を使って落書きをしたり、道具を作ったりすることによって、新たな考察を得ることができる。これが「手で考える」という意味である。これは左脳の論理思考に対して、右脳の空間的思考の重要性を示唆するものであり、右脳によって対側支配されている左手の方が、右手よりも外部脳としては強力ではないと思う、だから左利きの方が空間的思考力が高いのだという理屈である。

■「自然界における左と右」の中(P.198)にカントの左手に関する思考実験の話しが載っている。「今、人間の片手以外何も存在しない、まったく空な宇宙があったと仮定する。はたしてこの手は右手であるのか、それとも左手なのだろうか。左右像の間で、本質的な測定できる形の差異がないのであるから、その手を右手とよぶか左手とよぶかについての基準がないことになる。」n次元の幾何学に慣れている読者諸君にとっては、カントの思考実験でおこった言葉の混乱を見抜くのにそう困難はないはずであると著者は書いている。…私には困難である。

■そこでさらに疑問が深まるのである。右脳が空間的・視覚的思考を支配しており、左利きにはこの空間志向能力の高いグループが含まれると言われる。しかし右脳が把握できるのは3次元空間までではないだろうか。空間は4次元もあるし、さらにいくらでも次元は拡張できる。しかし、どうやってもわれわれには三次元を越えた空間をイメージすることができない。たとえば三次元とは三本の直線がそれぞれ直交する空間であるということはすぐ分かる。それが四次元になって、四本の直線がそれぞれ直交する空間をイメージすることは(少なくとも私には)不可能である。
 このことは三次元を越える高次の空間は論理的にしか理解できない、すなわち高次空間は左脳で理解しているということになり、ここにいたって「左利きの高い空間能力」説はグラつくことになる。



【左右の理屈】