左脳と絶対音感                1997-1-2 (2001-9-8追補)


■角田忠信の「右脳と左脳−その機能と文化の異質性」は今から20年程前に発売され、右脳ブームの火付け役となっただけでなく、日本人と西欧人の思考方の差異を脳の構造から論じた本である。その中に絶対音感をもった人間についての記述がある。

■「…K君の測定をしてみて驚いた。純音の1キロヘルツを聴かせるとドーと聞こえるという、周波数をいろいろに変えると、ほぼ忠実にドレミで答える。純音を聴いてその音階を尋ねているのではないのに、純音がそのままことばとして聞こえてくるというのである。
…さて純音、言語音を使って優位性テストをしてみると、すべての音が完全に言語半球が優位に偏ってしまって、左右の脳のバランスは完全にくずれていることが分かった。K君は幼児期から主にピアノの音で徹底した音感教育を受けたためであろうか、不思議なことに歌声についてはその音階を推測することがまったく不可能であるという。バックグラウンド・ミュージックとしてクラシック音楽を聴いても、それはすべてドレミの言葉として聞こえ、勉強には大変な障害となる。
…私は左脳的な頭脳活動の疲労の回復には西洋器楽曲が有効であると提唱しているが、音楽の才能教育を受けた人が、音楽の恩恵を受けることができないという誠に皮肉な現象をまのあたりにして驚かされた。」

■すべての音階がドレミの言葉で聞こえてしまうなど悪夢の世界であり、音痴で良かったと思う一方で、この話にわかに信じていいものかという疑念も残る。これを実験的に証明するには「絶対音感」を持っていた脳損傷者の損傷部位と、喪失機能を関連つければよい。通常は左脳が言語優位であるので、左脳梗塞になると絶対音感を失うはずだ。
 しかし脳梗塞患者でこのようなのんびりした実験をやっているヒマはないかもしれない。昔ペンフィールドが脳に針を刺したような方法や、スペリーの分離脳の実験は、健常生活者で行うことはできないが、最近のPET(ポジトロンCT)技術であれば脳の活性化部位をリアルタイムに観察できる。これであれば、絶対音感を持っている方の協力を得て実験台に乗せたら,何か面白いことが分かるに違いない。


(2001-9-8追補)
上のPETの実験データを見つけた。
   なぜかれらは天才的能力を示すのか:トレッファート,草思社(2200円),1990年第1刷
というサヴァン症候群に関する本である。
 カルフォルニア大学のマッジオッタらは被験者のなかから、二つのグループを選択した。一つは音楽のよくできるグループで、もう一つは音楽のできないグループである。こうした基準を設けて音列サブテストを行ってみると、右脳・左脳のどちらかが優勢になるかは、聞き手が分析的で音楽に通じているか、非分析的で音楽に通じていないかによって結果は相違した。音楽のできる被験者は、大いに視覚イメージを利用し、「左の」側頭葉が優勢だったのに対して、音楽のできない被験者は「左より右に顕著な」前頭葉および側頭葉の活性化が見られた。



【左右の理屈】