忌まわしきスタンレー・コレン           2000-3-15 


■左利きにはかなり有名な書籍「左利きは危険がいっぱい」の著者。カナダの心理学者である。1992年の文芸春秋に「左手利きは早死にか?」とし、同書の一部がセンセーショナルに取り上げられたことで、原題「THE LEFT-HANDERSYNDRME」が「左利きは危険がいっぱい」という売らんかなの訳題で1994年に第一刷が販売された。

■利き手に関する幅広い調査と知見で、左利きに関する定説とそのなかにもっともらしい情報を混ぜ込んで近年の左利き情報の元ネタとなって流布している。同書は彼の息子が左利きであることをさりげなく記述したり、過去の左利きへの偏見を批判的に論じたりしながら、実に巧妙に左利きへの偏見を持たないという立場を表明している。しかし言いたいことは一つ。左利きは早死にするという彼の発見をあらゆる憶測や推論によって証明するということが同書のたった一つの目的であると見ることは裏読みとは言えない。

■78ページに一枚のグラフが示される。母数5147人のアメリカ人とカナダ人の調査は年齢が増加するに従って、同年齢における左利きの比率が減少することを示した。10代で人口の15%いた左利きは、50代で4%となり、これが80代になると1%にまで減少する。これは同世代の左利きの方が早死にしていると考えることが合理的のように見える。311ページでは、右利きの男性の平均寿命が72歳4ケ月であるのに対して左利きの男性はわずか62歳3ケ月と、左利きの寿命が約10年短いと止めを刺してくれる。

■以上は特定の母数での統計的事象として事実であるので、この調査自体を批判すべきではない。問題は彼がこの統計的事実を原因を証明しようとすることにある。そのために生存するうえで、左利きが不利になると憶測される条件や環境をひたすら並べ立てる。しかし左利きにとって社会が不便であることのストレスが、彼らの生存をどの程度阻害するかを定量的に示すことはできない。もう一つ、左利きが出産時の障害によって発生するという主張を、他の弊害・疾病を持つ者の左利き比率が高いという事例をうんざりするほど記述する。

・アルコール依存症・うつ病・アレルギー・自殺未遂・薬物中毒・言語能力の低さ・自閉症・情動性・空間能力の低さ・おねしょ・てんかん・攻撃的傾向・脳損傷・免疫障害・精神分裂症・犯罪・非行・落ちこぼれ・偏頭痛・知恵遅れ・睡眠障害・神経質・読書障害・身体発育の遅延

以上の事例も、これによって寿命を10年圧縮する証明にはならない。

■ まったくうんざりする本である。しかし自説を証明するためにありとあらゆる状況証拠を提示していくしつこい語り口は日本人の学者には恥ずかしくてできないことで面白い。最近は話題にならないが、今現在の彼の考えと研究の進捗については知りたいところである。

■ (2000-3-16追補)
一番書こうとしていたことを書き忘れていました。以上のような分類とその特徴抽出は左と右の問題だから笑い話ですむ。同じ作業を以前は黒人とよばれていたアフリカーナーと同じく白人と呼ばれていたアングロ・サクソンとラテンを統計的に分類したら大変なことになります。昔ゴノビーが人種不平等論で「人種というのものは不平等で、その才能は不平等にできている。」と書いたとき、自分が人種差別の創始者と呼ばれるようになるとは考えなかったに違いない。事例の集積から帰納的に考えを整理したに過ぎない。どんな母集団でも分類したいという意志さえあればいかなる統計的有意差をも示すことができるということである。



【左右の理屈】