ライカとコンタックスと
どちらがよいか?


 2000年現在、1ヶ月分の給料でライカとコンタックスが同時に手に入ってしまうような時代に、上のような議論は起こるはずもない。左の写真は「ラメカヒサア」昭和10年8月号のp.226である。シュミット社に有名なライカ擁護冊子「降り懸る火の粉は拂はねばらなぬ」を書かせるきっかけとなった、コンタックスへの提灯記事であるとされている。これらのライカとコンタックス何れも所持しない私が書くのも生意気ではあるが、インターネット・サイト上にその全文を発見することができなかったので、夜なべで入力しました。ただし読み易さを配慮して、新漢字、新送り仮名とし、項目ごとにタイトルの強調を行っているが、原文を改変する意図はない。
 コンタックス、ライカのいずれが良いにせよ、それぞれ、その所有者自身の良し悪しまでは保証しないのだから、そんなにムキにならなくてもよいのにと思う。

(2000-8-19作成)

<参考文献>
シュミット商店「降り懸る火の粉は拂はねばらなぬ」
1936年3月発行
アッ、クラカメだぁ http://www.cosmonet.org/       を参照下さい。


「ライカ」と「コンタツクス」とどちらがよいか?
アサヒカメラ 昭和10年8月号
p.226 〜P.230
ライカ?コンタツクス?
著者 K.K.K


 去る6月19日より23日に渉り、大阪朝日新聞には『盛り場の夜』と題して、道頓堀、千日前、戎橋畔、心斎橋筋……等々の夜景スナップを連載し、ゾナーf:1.5,1/10秒と附記してあつた。これは、コンタックスの明るいレンズと超迅速度数フィルムの協力に基づく収穫。ニュース写真として成功したばかりでなく、今日の写真術が夜の世界をこの程度まで征服できることを,一般大衆へ知らせるに極めて有効であった。

 ライカは先輩だけに、既にたびたび、ニュース写真界にも活躍し、その特徴を発揮していたのは先刻ご承知の事柄であろう。これらはライカやコンタックスが実質的にその性能を確認され、ニュース写真という写真術の第一線に活躍していることを証明する見逃せない事実である。

 ライカが元祖、ライカの成功を羨望して生まれたのがコンタックス、共に初期時代は不完全なものであった。しかし、競争者がいると進歩改良が著しく両者の激しい競争により、35ミリ・フィルムを使う、超高級万能カメラと呼ぶ近代向型の二つのカメラがおおむね完成され、これにより、写真術は確かに新しい領域を征服し、コンタックスとライカとを除外して、今日の写真術を語ることができないほどの極めて重要な存在となった。

 技術には限度があり、商品は値段の支配を受ける。この事情により、精巧の代表者かのごとくに宣伝されているカメラ界の寵児、ライカ、コンタックスでも、使っているとその欠点が知れ、決して理想的完璧の品ではないが、しかし現在の所、最も精巧最も完全なカメラであると何人も認めるであろう。この程度になると、両者の優劣を判断することが容易ではない。

 表面よりの宣伝、裏面よりの宣伝、別働隊の宣伝を信じては正鵠な判断を下せない。多くの人が使っているとか、えらい人が使っているとかは、判断の根拠とする理由とならない。好きだ、嫌いだという感情の支配を受けては正しい確かな判断が出来ない。材料商は儲けの多い方を奨めるから全く少しもあてにならない。自分のものとなって、十分に使い馴れたからでなくては、比較して批判する資格がない。 使い馴れるまで十分に使った上、純正なる技術的の採点をした判断のみが正しい判断である。しかしこれとても、その人の識見と主点の置き処によって異なるから絶対的なものではない。

 自分は最初にライカA型を買い、次にコンタックスの発売当時のものを求め、これをライカのD型に取り替え、次にライカの V型を購い、次にコンタックスの最近型を求め、現在ではこのコンタックスと、ライカ VA型の双方を使っている。そしてライカとコンタックスの双方とも付属レンズの全てを使った経験がある。ただしコンタックス用の30センチと50センチのレンズだけは未だその姿に接しないが、近いうちに50センチ・レンズを使用する機会がある。この歴史を顧るとライカ党でもなくコンタックス党でもない。そしてカメラ道楽ではないから、かなり多数を写し、この点決して平均点以下ではないと自信している。

 ライカと一口にいうと、あらゆる型を含むが、A、B、C、Dの各型は、揺籃期もしくは改良の中途を代表する製品であるし、スタンダード型は低廉を目標とした特殊品であって、これらの性能は今日のライカを代表するV型やVA型に比べると、著しく劣っているため、ここに使うライカという言葉にはこれらを含まないことにして置く。コンタックスの旧型もまた同様である。 優劣を漠然と批評すると程度の明瞭を欠くため、性能その他の要点を12項目に区別し優っている方を100点とし、採点法によって優劣を比較する道を選んだ。

外観美 ライカ 100点 コンタックス 85点

 ライカはイーストマン製の旧ヴェスト・コダックに基本の形を採った旧い形であるが、コンタックスは近代向の角型を採用したモダン型であるとドイツ雑誌の泥試合記事に書いてあったと記憶している、果してこうであるか否や、ここに疑問がある。コンタックスは決して醜い姿ではないが、実用向に重きを置き過ぎて外観美を犠牲にしている傾がある。
 ライカにはクローム型があり、確かに美しい。ある人はコンタックスには男性的の美しさがあり、ライカには女性的の美しさがあると言っていたが、当らずともいえど遠からずであるらしい。

容積と重量 ライカ 100点 コンタックス 70点

 左右の四ツ角に丸味をもたせると大層小さく見える。しかしこればかりでなく、ライカの方が容積は小さい。ライカのズマールには沈鏡胴もあるが、コンタックスのゾナーはf:2もf:1.5も固定鏡胴であるから、容積は一層大きくなる。
 コンタックスは実用値に重きを置き過ぎたのか、それとも必要上致方がないのか、この点不明であるが、重量が重くなっている。必要であるか否やは別問題、我々は携帯する関係上なるべく小さく、なるべく軽いことを要求する。

堅牢度 ライカ 65点 コンタックス 100点

 ライカ V型はA型などに比べるとボディー外側の板金の厚さが遥かに厚くなっているが、コンタックスのキャスト・メタルの堅牢度に比べると遥かに及ばない。焦点距離の長いレンズを付けたとき、コンタックスの堅牢度はなるほどとうなづかせる。
 過失は免れない、まれには落す場合もあろう、何物かに突きあてる恐れもある。無論、程度には限りがあるが、ある程度以内の過失ならば、異状を招かないことを望む。

レンズ ライカ 75点 コンタックス 100点

 精密高級を標榜する万能小型カメラのレンズは理想に近い最優の結像力を持っていなくてはならない。焦点距離5cm明るさf:3.5のエルマーとテッサーを比較すると、エルマーは中央部においてやや優り、四隅部において劣る。黄、緑、赤色のフィルターをかけるとエルマーの結像力は低下する傾きがある。絞りを小さくして結像力がよくなる共通性状ではテッサーの方が優っている。
 小型カメラは明るいレンズの長所を活用するのに最も適当、この事由により、f:2くらいの明るさが標準レンズになりそうな気配が見える。焦点距離5cm、明るさf:2のズマールとゾナーを比較すると、ズマールには沈鏡胴があり容積を小さくする利点がある。しかし空気境界面の8つあることは、夜間撮影に多く遭遇する画面内に明るい光源を包括する場合、虚像の被害を蒙りやすい欠点があるし、絞りの構造に窮策があり、小絞りとしたとき回折の現象に基く被害を受けやすい。

 厳密なる工学的試験をすれば、開放口径では両者共になお相当な欠点が、残留されており、ことに四隅部に著しいが、結像力はほぼ同等の程度、ゾナーの方が非常に優れているというのは事実と認めかねる。しかし、絞りを小さくすると結像力がよくなる点ではゾナーが優っている。ゾナーはf:2.8に絞れば、f:2.8テッサーに決して劣らない結像力を示し、f:3.5に絞れば、f:3.5テッサーに劣らない結像力になる(f:2.8テッサーもまた同様)さらに小絞りにすれぱ、f:3.5やf:2.8テッサーを同一大の絞りにした時の結像力はテッサーより優るとも決して劣らない。エルマーをf:6.3に絞り、ゾナーをf:5.6に絞り、両者の結像力を比較すると殆ど多くの場合はゾナーの法がはるかに優れている。このレンズはこのユニバーサル性において、他の追随を許さない長所がある。ズマールはこの点でゾナーに一歩を譲っている性状。

 ゾナーもズマールも、黄、緑、赤色の光に対する矯正はすこぶる良く、フィルターをかけたために結像力が著しく低下しない。しかし、アグファ赤外810フィルムにて試験すると、この程度の赤外線に対する結像力はゾナーの方が優っている。
 コンタックスの方には焦点距離5cm明るさf:1.5という、f:3.5に較べて約5倍半くらい、f:2に較べて約8割くらい明るいレンズがあり、これが現在ではこれら小型カメラ用レンズ中でもっとも明るいレンズである。ただし開放口径ではf:2のゾナーより幾分劣るという噂がある。しかし、実際に使って見ると、明るいから甘いだろうという予想を裏切り、意外の鮮鋭に関心した場合があった。無論、f:2もしくは以上の明るいレンズになると、あたりはずれがかなりあるらしいから、この点を一応お断りしておく。

 舞台撮影や生きたポートレート撮影には、明るくかつ焦点距離の長いレンズを要求する場合がある。これに対して、焦点距離7.3cm明るさf1:9のヘクトールがあり、焦点距離8.5cm明るさf:2のゾナーがある。前者は明るさと比較的軽い点で優り、後者は焦点距離の長いことと結像力のよろしい点で優っている。ただしヘクトールの開放口径における描写はソフト気味を帯び、ポートレート用として特別な味をもっているいう批評もあり、一概に劣ると断定を下せない。しかし、光学的に吟味すると、ヘクトールには欠点の残留多く、ゾナーが完全に近い性状をもっている。ヘクトール用のアク゜ファ・カラー天然色フィルターの構造が複雑となっているのはクロマチック・アペレーションの残留が多いのに基くためらしい。
 
 焦点距離13.5cmのレンズを比較してもコンタックスの方が良質であり、焦点距離30〜50cmの望遠レンズのあることもコンタックスの長所である。しかし、焦点距離2.8cmの広角レンズを挿入したとき、距離計と連動しないばかりでなく、距離計そのものまで動かなくなるのは重大なる欠点であり改良を要する事柄である。

シヤッター ライカ 60点 コンタックス 100点

 ライカのシャッターが寒さの影響を受けて動作が不正確になったり、動かなくなった実例は耳にタコと申してよいくらい。またシャッターに基く、左右の感光がムラになるのも公然の秘密、ライカのシャッターには重大な欠点がある。 IIIA型には1/1000秒を追加したが、根本的の改良を加えたのではなく、単に追加したに過ぎないらしく、ムラは完全に現れる。簡単は結構であるが、あの簡単な構造では、バランスの均等な場合だけしか完全でなく、この完全には永久性が乏しい。
 シャッター速度をシャッターをチャージしない前に合せられないのも一つの欠点であるし、シャッター速度目盛盤がシャッターの動作で戻ることも欠点である。コンタックスのシャッターは速度の変更が少しく面倒であり、殊に暗いときには赤字が読みにくい。白字と赤字を逆にして欲しい。またシャッターをかけ、フィルムを巻き上げるに時間がかかり、連写速度を遅くする欠点がある。
 コンタックスは巧妙なる工作により金属フォーカル・プレーンを採用しているが、果してよいか否かに疑いを抱いていた。にもかかわらず、今日までの様子ではシャッターにほとんど故障が無いらしい。ただし、シャッターのムラは絶無でなく、縦位置で写せば現れる場合もある。
 シャッター速度の正確と能率のよい点では、コンタックスがはるかに優っている。 緩速度のときの動作は静かで震動の伴わないことを要求する。この点でもコンタックスの方へ軍配が上がる。ただし鼠のキッスのような音の伴うのはどうかと思う。

距離計 ライカ 85点 コンタックス 100点

 初期のコンタックスに付属していた距離計はダラシのないものであったが、プリズム式に改良されて以来申し分のない完全なものとなり、狂う場合がほとんど無いらしい。ライカは距離計をあとから取入れたため、基線を短くするのやむなき窮地に陥り、これによる精度の欠点を補うため拡大用補助レンズを付けた。近距離の被写体の場合はライカの方が合せやすいが、長焦点距離のレンズを使うときになると、コンタックスの距離計が優る。
 基線の長さライカは38ミリ、コンタックスは93ミリ。長いからとて精度がわるくては正確でないが、精度が両者間に甲乙なき現状では、長い方が優るのは致し方ない。またその構造上、ライカには故障を招き易いが、コンタックスの方は遥かに大丈夫。
 距離計は正確でも、レンズとの連結に欠陥があっては駄目、しかしこの点まず五分五分らしい。ただし幾つかについて調べると、両者とも連結に若干の誤差を免れないものが混ざっている。

ファインダー ライカ 95点 コンタックス 100点

 精密高級の特殊ファインダーを発売している点ではコンタックスが断然優っている。しかし、値段が安くないから、我々貧乏人にはなかなか買い集められない。標準の5cm用ファインダーは両者共カメラに付属していて、このファインダーの質はライカの方が優っている。コンタックスの方は視野が心持広過ぎるし、歪曲の欠点があり、ファインダーの位置がカメラの端にあるため、近距離の物体を撮るときパララックス(視界差)が著しくなる。

フィルムの装填 ライカ 90点 コンタックス 100点

 ボディが割れない旧ヴェスト型の構造はライカの重大欠点、フィルムの装填、フィルムの正確なる姿勢に不満を伴う。コンタックスは巻返さないことを望めば直に出来るが、ライカは不可能、途中でフィルムの故障にあうとか、終尾が抜けたときなど、ライカには不愉快を抱く場合があり、これが失敗の原因になることもある。コンタックスのマガジンは改良され、ライカのよりも使いよく、具合の悪くなるおそれもないらしい。 要するにこの点、あとから産れただけに、あらゆるところでコンタックスはライカの欠点を補っていると見受ける。

精密度と確実性 ライカ 90点 コンタックス 100点

 精密度は両者間に甲乙の差がない。しかし動作の確実性においてはコンタックスの方が優っている。ライカにはシャッターに関係する不安が伴う傾があり、何となく安心のできないところがある。

取扱いの便否 ライカ 100点 コンタックス 100点

 焦点の合せ方、レンズの交換、その他あらゆる場合の取扱いを比較すると、そのカメラに馴れさえすればほとんど同格、この点差等を付けるだけの差異がない。とやかくの批評は十分に馴れないのに原因するらしい。

付随事項 ライカ 80点 コンタックス 100点

 乾板使用可能の点でコンタックスは優る。二重、三重撮影も容易である。三脚用孔の中央部にあるのもよろしい。特殊金属によって机上に安置可能である。手袋をはめたままで扱うことができる。レリーズは有合せのものが使える。カメラ内部にたまるゴミは意外に多いがこれの掃除は可能である。速写ケースの蓋が邪魔をしない……等々はコンタックスの長所である。双眼写真を写せる。付属フィルターの平行平面が完全である。フィルターをかけてもレンズ・キャップをかけられる……等々はライカの長所である。

値段 ライカ 100点 コンタックス 80点

 実質の優劣はともかくとして、表面的の同格品を比較すると、ライカの方が安い。新型コンタックスには中古品がほとんど無い、にもかかわらずライカには中古品が多い。だから、もし中古品でよいなら一層安く手に入る。この点ライカはコンタックスに優っている。そいて、これが実際問題としてすこぶる重大な事柄である。



 12項に分別して採点すると以上の通り、ただしこの採点、絶対的に正しいものではなく、各項の重要性は人々によって異なる。したがって、このままを累計した平均点が真の正しい答ではない。若干の手加減を施した答が最も正確に近い答であろう。


(以上、全文)

さらに以下に「標準型フィルム使用カメラ雑考」(R.R.R署名)があるのだが、今回は手が疲れたので掲載しない。



【カメラの触感】