3大テノールとヴェルディ |
■もともとイタリア・オペラは嫌いだった。嫌いだった理由は、いつか別に書くとして、なかでも、「3大テノール」だなどと、勝手にユニットを作って、ぼろ儲けしている連中は特に嫌いだった。昔から「テノールばか」と呼ばれて、テノールの音域を、美声だけで歌い抜き、心に訴えない。オペラにしても、何にしても、部分的に聴くと、その世界に入りきることは許可されない。その「さわり」だけを聴くのは、バスで観光地に乗りつけ、駆け足で見所を一応押さえて、さらに記念写真はしっかり撮って、次の観光地に向かうのと同じだ。だから、嫌いなのは3大テノールの皆さんというよりは、それをありがたがり、高い切符を買ったミーハーな人たちと言うべきかもしれない。トボトボと、徒歩道を歩き、延々と続く単調なメロディのなかにドラマの盛り上がりを少しずつ感じながら、頂点のアリアなり、主題にたどり着く。このメロディがようやくにして今湧き上がらなければならない、ただ聴くだけであっても、演奏者や作曲者の心と技術が、頂点に向かって歩む姿を、追ってなんとか追いつく。その頂点のメロディが、ずっしりと重いし、脳にカタルシスが起こる。これが音楽の喜びだと思う。 ■パバロッテが死んだ。世界的な大事件だが、その前に日本の歌謡曲作詞家である阿久悠さんが死んだほどには、マスコミは騒がない。残念ながら、私を含めて日本の音楽聴衆には、トリノの冬季オリンピックで歌った人程度の記憶だろうか。確かにあの、トゥーランドットのアリアは素晴らしかった。なによりオリンピックでテレビにクギ付け、だから「誰も眠ってはならぬ」だというメッセージが明快だった。 上の朝日の記事も、追悼記事でありながら、まったくパバロッティを誉めていない。こういう記事は大新聞では本人が生きているうちは、実は書きにくい。カラヤンも同じだった。特にパバロッティがヴェルディがダメだった、劇的、特に悲劇的な表現ができなかったということが、真のイタリア・オペラの担い手としての評価を著しく低くしているようである。 私の記憶のパバロッティのヴェルディはMETのDVDにおけるリゴレットのマントヴァ公である。若い女性を次々に弄ぶ好色そのもの人物像はパバロッティにぴったりで、その巨体から中年男のいやらしさがプンプンするほどである。だから、逆にジルダのバルコニーに学生と偽って忍ぶ場面はまったく不似合いであった。しかし目をつぶって聴きさえすれば、その艶やかで陰りのない声はたしかにすばらしい。 ■音楽之友社編:スタンダード・オペラ鑑賞ブック[2]イタリア・オペラ(下)(2004 6刷)に記載されているディスコグラフィから、3大テノールの歌ってるヴェルディを抽出してみたい。全曲ではなく著名曲だけではある。自分自身は意識していなかったが、嫌いなパバロッティのアルバムを何枚も持っていた。3人の曲で手元にあるものには赤字で示した。ざっと眺めるだけでも、3人の特徴は見えてくる。パバロッティは確かにヴェルディのレパートリは狭く、中期の曲に偏っている。それにしても、マントヴァ公は、そういう解釈もあるだろうが、トロヴァトーレのマンリーコとなると貴賎混じった難しい雰囲気は出てこない。結局はあの、巨大な外観がオペラの興を殺ぐのだろう。だからカレーラスとなると、優男という感じで、トロヴァトーレより、トラヴィアータに声がかかる。私は、何と言ってもカレーラスはスティッフィリオが良い。結局、見た目の1番まともなドミンゴの出番が多く、ヴェルディの初期からオテロまで、幅広くレコーディングしている。私のレコード棚の初期のヴェルディには、沢山ドミンゴが歌っていた。 |
ルチアーノ・パバロッティ Luciano Pavarotti |
プラシド・ドミンゴ Placido Domingo |
ホセ・カレーラス Jose Carreras |
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1935--2007 モデナ生まれ。 |
1941-- マドリード生まれ。 |
1946-- バルセロナ生まれ。 |
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ナブッコ ……イズマエーレ |
シノーポリ指揮(1982 DG) | ||
マクベス ……マクダフ |
ガルデリ指揮(1971 Decca) | アバド指揮(1976 DG) |
ムーティ指揮(1976 EMI) |
リゴレット ……マントヴァ公 |
ジュリーニ指揮(1966 Butterfy Music) フランチ指揮(1970 HRE) ボニング指揮(1971 London) シャイー指揮(1982 London) シャイー指揮(1989 London) レヴァイン指揮(1996 DG) |
ジュリーニ指揮(1979 DG) |
ルーデル指揮(1973 Legato) |
トロヴァトーレ ……マンリーコ |
カラヤン指揮(1974 Serenissima) ボニング指揮(1975 Bella Voce) ボニング指揮(1976 Decca) レヴァイン指揮(1988 DG) メータ指揮(1990 DG) |
アンダーソン指揮(1968 Merodoram) メータ指揮(1969 RCA) ジュリーニ指揮(1984 DG) レヴァイン指揮(1991 Sony) |
C.デイヴィス指揮(1980 Philips) |
トラヴィアータ ……アルフレード |
チラリオ指揮(1965 Memories) ボニング指揮(1970 Butterfy Music) レヴァイン指揮(1991 DG) |
C.クライバー指揮(1976 DG) レヴァイン指揮(1982 Pioneer) |
グァダーニョ指揮(1973 Merodoram) バルトレッティ指揮(1976 Legato) マシーニ指(1980 jLegendary) サンティ指揮(1982 Cin Cin) |
シモン・ボッカネグラ ……ガブリエーレ |
レヴァイン指揮(1995 DG) |
アバド指揮(1977 DG) |
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仮面舞踏会 ……リッカルド |
バルトレッティ指揮(1970 London) マッケラス指揮(1971 Butterfly Music) アバド指揮(1977 Legato) パネタ指揮(1980 Pioneer) ショルティ指揮(1982 London) アバド指揮(1986 Serenissima) レヴァイン指揮(1991 DG) |
ムーティ指揮(1975 EMI) アバド指揮(1975 Arkadia) パネタ指揮(1977 Ornamenti) アバド指揮(1979 DG) カラヤン指揮(1989 DG) |
パネタ指揮(1972 GAO) ブラデッリ指揮(1975 Myto) |
運命の力 ……ドン・アルヴァーロ |
プレヴィターリ指揮(1972 Arkadia) レヴァイン指揮(1976 RCA) ムーティ指揮(1986 EMI) |
パネタ指揮(1978 Myto) マルティネス指揮(1980 Legato) シノーポリ指揮(1985 DG) |
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ドン・カルロ ……ドンカルロ役 |
ムーティ指揮(1996 EMI) | インバル指揮(1969 Merodram) ジュリーニ指揮(1970 EMI) アバド指揮(1970 Hunt) ヴァルヴィーゾ指揮(1970 Hunt) アバド指揮(1978 Myto) アバド指揮(1984 DG) レヴァイン指揮(1983 Pioneer) |
アバド指揮(1977 Myto) カラヤン指揮(1978 EMI) カラヤン指揮(1986 Sony) |
アイーダ ……ラダメス |
ナバロ指揮(1981 NVF) マゼール指揮(1985 London) |
ラインスドルフ指揮(1970 RCA) アバド指揮(1972 Europa Musica) ムーティ指揮(1973 Bella Voce) ムーティ指揮(1974 EMI) マシーニ指揮(1974 MRF) ムーティ指揮(1979 Legato) アバド指揮(1981 DG) レヴァイン指揮(1989 DG) レヴァイン指揮(1990 Sony) |
カラヤン指揮(1979 EMI) |
オテロ ……オテロ |
ショルティ指揮(1991 London) | クライバー指揮(1976 Myto) ショルティ指揮(1976 Dream Life) レヴァイン指揮(1978 RCA) クライバー指揮(1981 ???) マゼール指揮(1985 EMI/Crown) ゲルギエフ指揮(1992 Serenissima) ショルティ指揮(1992 Pioneer) チョン・ミュンフン指揮(1993 DG) |
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ファルスタッフ |