イタリアワイン・未確立なヒエラルキ
(2009-4-12記録)


■フランスのワインはAOC法によって、厳密にその序列が区分され、その権威は保たれている。特にボルドーとブルゴーニューでは村単位、畑単位で、その位置付けが定義されている。1855年のメドック特級格付け(第1級〜第5級)は100年以上、その確固たる序列は崩れることはない。「ジロンドにおける特級銘柄の格付け」は第一回のパリ万博(1855)に最上級のワインを展示するため、ナポレオン3世の命によって当時の市場価格を基礎にして作られたボルドーのさらに限定したメドック地域の格付けにすぎない。19世紀末にはボルドーの葡萄がフィロキセラ菌によって壊滅的な打撃を受け、多くの醸造家がスペインのリオハに移住したり、シャトーの所有権や、畑の境界線の変動、さらにその後の製造技術の革新、品種改良の競争の結果にも関わらず、その伝説化した序列は今だに生きている。ブルゴーニュも同じだ。その序列はボルドー以上に細分化され、その単位は小さくなる。

■それらと比べるとイタリアワインでの原産地呼称のヒエラルキはかなり揺らいでいるように感じる。フランスのヴァン・ド・ペイが、AOC最上級より高価になることなど考えられないが、フランスのヴァン・ド・ペイに相当するIGT格付けワインがとても高価であったりするからである。 なにより日本では、イタリア・ワインといえばキャンティであり、最上位のDOCGに格付けされている。キャンティ・クラシコでも2000円〜4500円程度までのものしか飲んでいないが、かつて「本当においしい」と感じたことは一度もない。これがそもそも、私がイタリア・ワインを飲まなかった理由であった。ものを知らないと恥ずかしい思いをするし、何より本来味わうことのできる体験を拒絶してしまうというもったいないことが起こってしまう。

■イタリア・ワインの原産地管理法(DOC: Denominazione di Origine Controllata)は1963年に定められた。ピラミッドは上図のように4段階だが、最初DOCが定められ、DOCからさらに優良なものがDOCGと格付けされた。1992年当時、以下のように9種類しかなかったDOCGは現在34種類にも増えているらしい。
    ・バローロ(済み)
    ・バルバレスコ(済み)
    ・ガッティナラ
    ・ブルネッロ・デ・モンタルチーノ (済み)
    ・キャンティ(済み)
    ・ビィノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ
    ・カルミニヤーノ
    ・アルバナ・ディ・ロマーニャ
    ・トルジャーノ赤リゼルヴァ
 今日、こんなことを書く気になったのは、実はひさびさに「キャンティ・クラシコ」を飲んだからである。好き好きだと言われるかもしれないが、今日の感想もやはり「おいしくない」である。以前飲んだ少し高額な「キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ」も印象が薄かった。しかし、ウエブで調べると「トスカーナ州の芸術品。これぞ本家本元の“スーパー・キャンティ”バローネ・リカーゾリの中心であり最も重要な畑がこの“ブロリオ”。そして蔵元最高にして唯一のプレミアムワインがこの『“カステッロ ディ ブロリオ”キャンティ・クラシコ』です。このワインは今や数あるキャンティ・クラシコの中でも最高の評価を得るに至っており、スーパー・キャンティと呼ばれています。」という宣伝を見つけた。キャンティへの最終評価はこれを飲んでからにしよう。いずれにしても、以上はすべて格付け上はDOCGである。イタリア・ワインではDOCG、DOCという格付けで良し悪しを判断判することは不可能だという基本的なことが初めて分かった。
 考えてみれば、例えば「バローロ」だが、これは比較的いつ飲んでもしっかりとしておいしいが、これとても銘柄や価格によって違いは大きいのだろう。ボルドーのマルゴーを名乗れるワインは多いが、それらは「シャトー・マルゴー」とは別ものである。だから「バローロ村」産であっても、自分の好みに合う作り手を覚えなければ、期待外れになることもある訳である。この当たりが、イタリア・ワインの格付けが信頼しにくい理由だが、それは権威が崩れたというより、格付け制度が始まって、まだ年数を経ていないための混乱であるように感じられる。

■問題はIGTである。この格付けは1992年新設された。IGT (Indicazione Geografica Tipica)は、フランスの格付けで言えばヴァンドペイ相当のものだが、むしろDOCの指定する伝統的な品種や製法にこだわらずに作られた別カテゴリのニュー・ワインと言うべきである。近年のイタリア・ワイン人気を牽引したのは、「サッシカイア」等のIGTだったが、人気にしたがって高価格化しているようだ。これらは、銘柄で覚えていくしかないので大変である。今年飲んだうち、「ドガヨーロ」や「レ ディフューゼ」はIGTだが、それぞれ特徴がはっきりとして個性的であり、キャンティに感じる平凡さを越えていた。
 イタリア・ワインのもう一つの難しさは、葡萄品種の多さである。フランスのようなカベルネ、メルロー、ピノノワールという代表品種がないのである。まだ品種を聞いてもその特徴を把握できない。
 以上、イタリア・ワインの分かりにくさについて述べたが、これがまさに今、イタリア・ワインにはまった原因である。まだまだ飲まなければならない銘柄は多い。しばらくは飽きずに楽しめそうだ。


【ワインな日常】