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銀河英雄伝説外伝「水泡の道は残った」 1997年12月25日 のほほ |
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貴族連合軍の作戦会議−。 最初に口火を切ったのは、盟主ブラウンシュヴァイク公である。 「成田から横浜・鶴見まで、東関道〜湾岸線〜横羽線の3種類の高速を利用する。高速を使えば時間を短縮でき、奇襲によって、敵に心理的打撃を与えることができよう」 自信満々な盟主の作戦案に、貴族たちが追従の拍手を捧げた。だれが帝室の外戚にして帝国最大の権門に異を唱えられようか。 と、無言で挙手した初老の提督がいた。軍事司令官メルカッツ上級大将である。 「盟主の作戦は基本を押さえたよい作戦ではありますが、それでは時間がかかる場合があります」 そのとき、盟主の顔から血の気が引いた。それを眺めやった貴族たちは雑談をやめる。 他人から批判されることになれていない公爵である。批判するものはどのように報われようか。 しかし、盟主として度量の大きさを示し、貴族たちをつなぎ止めるため、公爵は辛うじて自制した。 「…では、どうすればよいというのだ」 「湾岸線は渋滞が多うございます。無理に高速を利用せず、357号線などの一般道を臨機応変に利用するがよろしいでしょう」 「なるほど。貴重な資金を節約し、さらに無駄な時間を極力減らす、というのだな」 「さようです」 多少は戦略に理解を示して見せる公爵であった。 「いや、さらに有効な戦略がありますぞ」 血色の悪い中年の提督が、発言を求めた。 「ほう、それはどういう策かな、シュターデン提督」 「ごく最近できた新ルートを使用して、時間の大幅な短縮を図るのです」 それを聞いたとき、メルカッツは内心でつぶやいた。 (その策は使えない。よしたほうがいい) 彼には、シュターデンの作戦が分かっていた。それどころか、彼もその作戦を考慮したのだ。だが…。 「館山道を経由して、東京湾横断道路を使用し、川崎に出撃するのです。敵は我が軍の出現に恐れおののき、戦わずして降伏するでしょう」 貴族たちから賞賛の声が上がった。 「すばらしい。シュターデン提督の壮麗にして華麗な作戦。このランズベルク伯アルフレット、感嘆の極み」 青年貴族のひとりの口から、美辞麗句を尽くした賞賛が捧げられた。どよめく中、彼は言葉を継いだ。 「で、誰が通行料を支払うのです?大変な出費ですが」 議場は静まり返った。 各々が周りを見回し、目が合うと刹那、それをはずした。4千円という通行料を誰が負担するのか。 もはや、貴族たちの脳裏には、いかに自分の懐を痛めないようにするか、その打算だけが渦巻いていた。 「シュターデン提督は何も分かっておられん。なぜ開通間もない横断道路に車影が少ないのか。少し考えれば分かることではありませんか」 副官シュナイダー少佐が怒りの余波を向けてきたが、メルカッツは答えない。 このとき、シュターデンは、自分の作戦の有効性を実証するために出撃していた。無謀とも言えるこの出撃を、なぜ司令官は許可したのか。シュナイダーには理解できなかった。 「一度痛い目に遭った方が身のため、ということですか」 「言葉で言っても分からぬだろうからな。成田から館山道を使って行けば、通行料は6千円を超えるだろう。彼とてそこで後悔にうちひしがれよう。さらに…」 司令官の途絶えた言葉を副官が続ける。 「あの『海ほたる』ですか。駐車場誘導は不親切、軽食が摂りたくてもコンビニしかない。あのSAは通常のものと似て非なるものです。レストランは高いし、あれでは、通行料で打撃を受ける財政を、さらに圧迫させるだけではありませんか」 「バブルとは、人の精神を腐敗させる。あの道路も『経済波及効果』だけが騒がれているのだからな。かくいうわしも、財政赤字が騒がれるまで、そのことに気づかなかったが。8年前ならあれで通じたのだがな、不運な道路だ」 そういうと、メルカッツは立ち去った。 展望室にたたずむシュナイダー少佐が、独白する。 「なるほど。『東京湾アクアライン』は不運な道路かも知れない。だが、それを利用する人は、もっと不運ではないのか」 その疑問に、星々はただまたたくだけで答えようとしない。 宇宙暦マイナス804年12月。 このときすでに、横断道路の帰趨は決していた。だが、惨劇はここからはじまる。 ENDE 「民活導入」の美名のもと推し進められた、巨大プロジェクト。 バブルが去ってしまい、いまや邪魔者。 PFIも結構ですが、同じ轍を踏まないようにね。 |
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