William M. Kincaid
(Principal Flute, 1921 - 1960)

William M. Kincaid (April 26, 1895 - March 27, 1967)

William Kincaid was born in Minneapolis on April 26, 1895. In 1911, he went to New York enrolling simultaneously in Columbia University and the Institute of Musical Art, where he studied flute with the eminent French-born flutist, Georges Barrere. He graduated from the Institute with the Artist's Diploma and from 1913 to 1918 played next to Barrere in the New York Symphony Orchestra under Walter Damrosch. Following service in the U.S. Navy, Kincaid returned to New York to perform with the New York Chamber Music Society.

In April of 1921, at the age of 26, he was summoned to Philadelphia by conductor Leopold Stokowski to succeed Andre Maquarre as solo flutist of the Philadelphia Orchestra, a position he held until his retirement in 1960. In 1950 he received the C. Hartman Kuhn Award, an annual award given "to the member of the Philadelphia Orchestra who has shown ability and enterprise of such a character as to enhance the standard and reputation of the Orchestra."

In 1928, he joined the faculty of the Curtis Institute of Music in Philadelphia. In his many decades of teaching at Curtis, Kincaid nurtured outstanding flutists who at one time filled most of the first-flute positions in America's symphony orchestras as well as other key orchestral and teaching positions, not to mention the distinguished soloists and chamber music players whom he taught. Additionally, Kincaid became a member of the Philadelphia Woodwind Quintet at its inception in 1950.


まず、Marcel TabuteauのNumber Systemに続き、今度はPhiladelphiaのもう一人の巨人、William Kincaidによるフレージング(Phrase Grouping)の考え方のさわりの部分をご紹介したいと思います。といっても、こちらもそんなに単純なお話ではありません。

Kincaidは、"beat note"(拍にあたる音−適当な訳を知りません)を「到着点」とみなします。つまり、その"beat note"にたどり着く以前に起こったことの結果として"beat note"が存在する、というのです。したがって、その"beat"の性質というものは、どのようにしてそこにたどり着いたかによる...これらの"beat"は、フレーズの「始まり」ではなく「終点」ということだそうです。(???)

もう少しわかりやすい比喩としては、我々が歩くのと同じで、その歩き方を決めているのは拍と拍(つまり足が地面につく瞬間)の間に何をしているか(走ったり、スキップしたり、大股に歩いたり)によるわけです。したがって、"beat note"そのものはそこに至る(ステップを踏む)までに何をしたかの結果によって特徴づけられる、というわけです。下手な解釈をやめて、要点だけ英語で示します(この方がわかりやすい!...かな?)。

In summary, rhythm is not superimposed with dynamic accents but rather evolves from the interior progressions to the beat.

この考えはさらに「グルーピング」の考えへと発展します。下図の(a)のような独立した2連符、3連符などでは、動作が完了していない状態で、持ち上げた足をどうするのかがわかりません。それが(b)のように次の拍が示されることによって、2連符、3連符というものがはっきり認識されるというわけです。

Kincaidによれば、こうした全ての"beat notes"は一種のバランスを取るポイントと考え、"finishing notes"と呼んでいたそうです。この考えを元に音符をグループ化していくのが、Kincaid流のフレージングの基礎になります...。

というわけで、よくわからない難しいお話はこのぐらいにしておきます。このKincaidの考え方は、Tabuteauのフレージング論とアプローチは異なるものの、根本にあるもの(それは何だろう?)は非常に似ていたとされています。そうしたこともあってか、Curtisの学生の間では、「KincaidとTabuteauはお互いをライバル視して争っている」というような噂でいつも盛り上がっていたらしいです。

しかし、Kincaidの弟子でPhiladelphiaのフルート奏者であったKenton Terryによれば、こうした話はかなり尾ひれが付いて伝えられており、本当の二人は、あるフレーズが与えられたときに、どちらがより上手にフレージングを披露するかを楽しみながら競い合っていたと言っています。そして、この二人の間には真の友情と尊敬の念が間違いなく存在したと解説しています。Terryの話は、このサイトの表紙にある写真を見て頂ければ、どなたでも納得いただけるのではないでしょうか。

改めていうまでもなく、KincaidはTabuteau同様に、米国の木管楽器奏者、あるいはあらゆるオーケストラ奏者に多大な影響を与えた教育者の一人でもありました。Kincaidの弟子には米国の名フルート奏者がほとんど全て含まれていたと言えます。Kincaid自身、インタビューの中で自分の弟子の全てをリストアップするのは不可能と言っていますが、主要な奏者として以下のプレーヤーを挙げています。

Julius Baker (Bach Aria Group)
Harold Bennett (Metropolitan Opera Orchestra)
Doriot Anthony Dwyer (Boston Symphony Orchestra)
Byron Hester (Houston Symphony)
Britton Johnson (Baltimore Symphony)
Joseph Mariano (Rochester Philharmonic)
Emil Opava (Minneapolis Symphony)
Donald Peck (Chicago Symphony)
Kenneth Scutt (New Orleans Philharmonic)
Elaine Shaffer (recitalist)
Maurice Sharp (Cleveland Orchestra)
Felix Skowronek (Seattle Symphony)
Albert Tipton (Detroit Symphony)
Robert Willoughby (Cincinnati Symphony)
James Pellerite, Robert F. Cole, John C. Krell, Kenton F. Terry (Philadelphia Orchestra)

ある日、ステージの入り口での、着飾ったご婦人とKincaidとの会話。

「キンケイドさん、あなたのお弟子さん達は本当に素晴らしい!」
「当たり前ですよ、もともとベストの人材しか弟子にしないんだから!」

以前から繰り返し触れてきましたが、Murray Panitzの名前がないのがちょっと寂しいですね。しかし、よく見ていただくと、Panitzの師匠であるMarianoの名前がありますから、実は孫弟子なのですね。それよりも不思議なのは、Kincaidの後任として首席に就任したJames Pelleriteが1シーズンで退団したこと。普通に考えれば、John de Lancieとともに2世代目が黄金時代を長期にわたって築くと思われたはずです。Pelleriteのことは十分調べていないのですが、その後はIndiana Universityをはじめとして大学で教鞭を執っているのが主な活動となっていたようです。

教師としてのKincaidはやはり大変厳しかったそうです。学生は教則本を暗譜するように指示されていましたが、実際Kincaidは最初から最後までを完璧に暗譜していたそうです。全ての学生はこの能力を大変賞賛した一方、これをマネできるものはほとんどいませんでした。

Kincaidの人柄を物語るエピソードはほとんど見つかりませんでしたが、有名なバスーン首席奏者、Bernard Garfieldの前任者であるSol Schoenbachが書いたものを読みますと、結構おもしろい方でもあったようです。Philadelphia Woodwind Quintetがデビューした際のインタビューでのこと。簡単な英語なのでSchoenbachによる英語の原文をどうぞ。

Interviewer said, "Let's begin with your parental bacground." Mason Jones said that his father was Welsh and his mother Polish. De Lancie offered that his mother was Swiss-Italian and his father English. I (Schoenbach) said my parents were Hungarian-Austrian and Gigliotti brought in his Hungarian mother and Italian father. Kincaid was silent for a few minutes and then said, "I'm half Scotch and half soda!"

(こうやって読むと、「し〜ん」としそうなジョークですが、まぁ、そこは実際の場を想像していただいてご勘弁を。)しかし、皆恐ろしくインターナショナルな血筋なのですね。

Kincaidは1960年に65歳の定年制によって不本意ながら引退することになりました。引退のニュースが流れたときPhiladelphiaは大変な騒ぎだったといいます。音楽関係者はもとより、例えばおまわりさんがオーケストラのメンバーに、

「キンケイド氏が引退するっていうのは本当かい?」

と訊いてみたり、ソーダ売りが

「キンケイドが引退するなんて−嘘だよな」

と心配そうに尋ねたり、アフタヌーンティーやカクテルパーティーの席でも

「全ては移り変わっていくものだ!」

と感傷に浸っていた、というのですから...すごいですね(作り話ではないようです)。

その当時、本人ははっきりと「引退したくないないのだけど」とインタビューで答えています。そして、引退後も1967年に亡くなるまで、常にかつての同僚との交流を絶やさなかったそうです。

最後に、KincaidによるOrmandyの評価。

It's to Eugene Ormandy's credit that he could take over after so individualistic a conductor. He not only has retained the good points of the orchestra but has increased its abilities and its prestige."



(レコードに聴くWilliam Kincaid−独断と偏見によるベスト5!)

  1. Telemann: Suite in A minor
    1941年の録音。これはすごい。息をつく暇もないテンポ。気のせいかOrmandyもついていくのがやっとという感じの伴奏です。このCDはお薦め。(一番下のジャケット)

  2. Mendelssohn: A Midsummer Night's Dream (Scherzo)
    これは1957年のモノラル盤。もうほとんどステレオ時代に入っていることもあり、音質も柔らかく良好。このスケルツォはどこでブレスをしたのかよくわからない謎の演奏。驚異的なテクニックを感じます。

  3. Griffes: Poem for Flute and Orchestra
    Weekend Review Vol. 20で取り上げたFirst Chairに収録された小品。1952年のモノラルでありながら艶のある太い音色。しかも音色が旋律に合わせて微妙に変化します!

  4. Mozart: Concerto for Flute
    Mozartの協奏曲の録音はホルン、ファゴット、オーボエ、クラリネットが1961〜62年なのにフルートだけは1960年! 引退直前のKincaidが聴ける貴重な録音。ステレオであることも嬉しい。さらには伴奏の弦楽器の美しさも格別。

  5. Ravel: Daphnis et Cloe No. 2
    1959年のステレオ録音があります。これなどはフルート奏者の卵にとっては模範とされていた演奏(らしい)。

これらと同様に重要なのは、次の書籍。このページの情報はほとんどこの書籍を参考にしています。

  • Kincaidiana (by John C. Krell):PhiladelphiaのPiccolo奏者 (1952 - 1981) によるKincaidの教えをまとめたもの


(William Kincaid's Solo Albums)

"Music for the Flute by William Kincaid"
(with Vladimir Sokoloff at the Piano)
Recorded in 1950
  • Columbia ML-4339 (US) / LP(Marcello: Sonata in F / Hindemith: Sonata for Flute and Piano / Saint-Saens: Airs de ballet / Caplet: Reverie; Valse / Debussy: Syrinx / Dutilleux: Sonatine)

"William Kincaid plays the Flute"
(with Vladimir Sokoloff at the Piano)
Recorded in 1960?
  • Grand Award Record Corp AAS-705 (US) / LP(Platti: Adagio and Allegro / Handel Sonata No. 3 / Widor: Scherzo / Gluck: Scene from Orpheus / McBride: In the Groove / Saint-Saens: Air de Ballet / Handel: Sonata No. 5 / Bach: Siciliano / Andersen: Scherzino / Caplet: Reverie and Petite Waltz)

"William Kincaid"
Eugene Ormandy conducting The Philadelphia Orchestra
  • National Flute Association NFA-1 (US) / CD*(Telemann: Suite in A minor / Gluck: Scene from Orphee et Eurydice / Kennan: Night Soliloquy / Hanson: Serenade for solo flute, harp and string orchestra / Gesensway: Concerto for Flute and Orchestra)


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