ナーブルス・石けん工場続報

*パレスチナ・オリーブ石けんは、ナーブルスで作られた石けんを「ガリラヤのシンディアナ」で包装・出荷しています。

(早尾。6月よりエルサレム在住)

 9月と10月に二度工場を再訪しました。もちろん占領が続いているのですが、状況は大きく変わりつつあります。

 まず何が変わったかと言うと、人々が外出禁止令を破って、日常生活を取り戻そうと試みています。生徒たちが、労働者らが学校へ、工場へとできるかぎり足を運び、密かに(といっても外を歩いている姿は隠しようがないので半ば「公然と」なんですが)、学校・工場を開けようとしています。逆に、外出禁止令を厳守させたいイスラエル軍が、街の中の道路を破壊し、ナーブルスをいくつかの部分に分断し、移動を困難にさせようとやっきになっています。いまナーブルスでは市内を移動するのに乗り合いタクシーを乗り継ぐ事態になっています。

 7月に訪問したときには、すでにその時点でも精神的に限界に達していたように感じましたが、人々は外出禁止令を守らされていました。一歩も外に出ず、一日中家の中でゴロゴロせざるをえないでいました。石けん工場主のMさんの話すところでは、「状況が好転したわけではない。たんにコップの水が溢れるように、人々は限界に達し、外に出歩き始めているだけだ。外国人の訪問者が一週間家の中にこもることは可能だろう。でも地元の人間が一ヶ月、二ヶ月と続けて、仕事や買い物や学校から切り離されて、まるで監獄に入れられている状況が続くのは、我慢ができない。外出禁止令がないかのように振る舞うことが抵抗なんだ。」と言っていました。

 前回訪問したときには、もう二ヶ月工場を稼働させていないと言っていましたが、今回は工場を動かし始めていました。とは言え、イスラエル軍に見つからないように、扉を閉め切っての労働です。バーナーでオイルを熱するので、工場の内部はものすごい高温になります。みんな(この日は6人の労働者)汗ぐっしょりになって働いていました。そして、外でジープや戦車の音がすると、扉に駆け寄り、小さな穴から覗いて、それが去るのを確認していました。一度は、石けんが固まるのを待つ間、飲み物を飲んで外の工場の横で休んでいるときに、軍のジープが「家に戻れ!」と叫んで走ってきたので、慌てて工場裏に退避しました。

 また、石けんをカットするのは、あるスペシャリストの仕事なのですが、彼は救急車の運転手を副業にせざるをえなくなっています。かつてはナーブルス市内の4つほどの工場の石けんのカットを担当していたのですが、このカーフュウ状況で、しばらく仕事ゼロ。ようやく再開したこの工場でのみいま仕事をしている状況ですので、とても食べていけません。ここの工場でさえ現状では、「働けるのは、状況次第で週に0日から5日」という不安定な状況です。

 と、帰り道。タクシーを拾える場所まで歩いていく途中、Mさんは道を曲がるたびに、通りで見かける人に声を掛けます。「ウェーン ダッバーべ?、アッサラーム・アライクム」、「フィー ジープ?、アッサラーム・アライクム」。ナーブルス流の挨拶です。「こんにちは」の前に、まず「戦車はどこか?」「ジープはいるか?」と確認しあっているのです。こういう言葉にも現実が反映しています。

 次の10月の訪問のとき。もう雨がときおり降る季節になり、市場にも収穫したばかりのオリーブの実が並ぶようになったころのことです。この日はしばらくぶりに外出禁止令の解除が6時まで。工場の扉を開けての操業ができました。Mさんの弟二人も働きに来ていましたが、彼らは本当は営業・宣伝の事務所担当。その事務所が破壊されて閉鎖されているので、作業の手伝いをしています。

 工場を開けることができたので、石けんの原料が工場の前に広げられて天日で干されていました。石けんの作り方には、伝統的に床に流して敷き詰めて固まった石けんをカットするものと、一度乾燥させて細かく砕いた粒状の原料を棒状に圧縮して固めカットしていくものがあります。この後者のものは、含まれる水分が少なく硬質なものができます。この粒状の原料は、24時間天日で乾燥させたあと、長く保存ができますので、例年この工場では乾季(4〜9月)の夏の間に200トンのストックを作ります。雨季の冬の間は、夏に作ったこの原材料のストックから石けんを製造するのです。が、この夏、外出禁止令のために、ストックがまったくできませんでした。外出禁止令を破り、工場に出始めたころには、夏は終わり、雨の季節が始まりです。丸一日天日で乾燥させることができなくなります。農業にせよ、工業にせよ、一年サイクルの仕事周期というものがあり、これが一部でも乱されると、ときには一年間の仕事に深刻な影響が出ることがあります。

 まだまだ困難は続いていますが、こうした中でも石けん工場では、日々良い製品を作ろうと努力を重ねています。毎年品質が向上していくオリーブ石けんが、また今度も無事に日本に届けられることを願わずにはいられません。