『ぜいとぅーん』14号(2004年4月)

パレスチナの名前

詳しく書くと複雑になるので、ここでは、大まかな話と身近に聞いた話を書きます。

名前の順番は、1.自分の名前(ファーストネーム)、2.お父さんの名前、3.名字

3番目の名字は、その一族を大きくした人のファーストネームや先祖の職業、先祖の出身地などから作られます。

例)フセイン→アル・フセイニー
カーシム→アル・カーシム
ナーブルス→アン・ナブルーシー
ハリール(ヘブロン)→ハリーリー

伝統的に、長男の名前に父方の祖父と同じ名前をつけるというのもあります。長男の名前は2種類で永遠に続くことになります。石けん工場のマジュタバさんの子どもアドナーンはまだ5才くらいですが、その子どもの名前はもう、マジュタバに決まっているわけです。また、長男が生まれると、そのお父さん、お母さんは名前で呼ばれずに「〜のお父さん(アブー・〜)」「〜のお母さん(ウンム・〜)」となります。マジュタバさんは、アブー・アドナーンとなるのです。

マジュタバは珍しいですが、男性で、なんと言っても一番多い名前は、イスラームの預言者の名前ムハンマドです。

パレスチナの名前は、歴史や想いを反映しています。

「アグバリーエ」という名字を持つ友人に、その由来を聞いてみました。ウンム・ル・ファヘムというアラブ人の大きな町に非常に多い名字で、起源は一つの家族に遡れるかもしれないが、いまではこの名字を持つ人は沢山いて、必ずしも親戚関係ではありません。そして、「アグバリーエ」という名字が地元ではあまりに多いために、ウンム・ル・ファヘムに帰ると、彼は「サアディ(幸せ)」という別な名字を使っています。これも彼の家族の名字です。

ところが、その名字もまた1948年に彼のおじいさんが変えたものらしく、その前には「アブー・サッレ」という名字でした。「サッレ」とは編んだバスケットのことで、そこから漏れる水によって「水を分け与える者」という意味があったそうです。それが48年のイスラエル建国、つまりパレスチナにとっての「ナクバ(大災難)」の年に、「幸せ」を意味する「サアディ」に変えられたというのは印象的です。友人は「皮肉なことだ」と言いましたが、いつか幸せが来ることを願ってのことだろうと思います。

女性の名前でフィラスティーン(パレスチナ)、男性の名前でワタン(祖国)というのも、多くはありませんがときどき聞きます。

他方で、イスラエル国籍を持つパレスチナ人の中には、最近はユダヤ人の名前を子どもにつけるという例が、少数ながら見られます。これは、社会的多数派であるユダヤ人に対して、さまざまな差別を受けるアラブ系市民が、少しでも「生きやすく」と子どものことを思いそうするのだそうです。例えば、男の子では「ロネン」、女の子では「サリット」などというユダヤ人に普通に見られる名前を付けられているパレスチナ人がいます。もちろんそれだからと言って、制度的な差別を免れるわけではありませんが。(これは、在日コリアンの通名問題にも共通する問題でしょう)

今後も、文化の話を時々書いていこうと思います。(皆川・早尾)