『ぜいとぅーん』15号(2004.6.28)

本・ビデオコーナー

入門編

ドキュメンタリービデオ(2000年12月〜2001年2月撮影)
『被占領下パレスチナを訪ねて〜アル=アクサ・インティファーダはなぜ起きたのか』
撮影・編集:役重善洋 制作:パレスチナの平和を考える会 税込1500円

中級編

トム・セゲヴ『エルヴィス・イン・エルサレム--ポストシオニズムとイスラエルのアメリカ化』(脇浜義明訳、つげ書房新社)

「ユダヤ人だけの国がほしい」という考え方を「シオニズム」と言います。百年の歴史を持つこの近代的国民国家の思想が、パレスチナ問題の根源だと言ってもいい。「ユダヤ人だけ」という純粋性への欲望と幻想が、歴史的なパレスチナの村の破壊や、西岸内部の分離壁建設や、ガリラヤのユダヤ化を推し進めているのですから。そしてこのとき、ユダヤ人とは「敬虔なユダヤ教徒」のことであるとされます。

それに対し、1990年代、イスラエルの国家原理であるシオニズムに対して批判的な立場から、歴史や社会を見直そうとして起きた新しい学問潮流が「ポストシオニズム」と呼ばれ、著者のセゲヴ自身がその一人であると見られています。シオニズムを批判するということは、「純粋なユダヤ教国家」という理念を、多文化主義的な観点から捉え直すことです。もちろんそこには、これまで無視されてきた追放されたパレスチナ人のことや、イスラエル領に踏みとどまって残ったパレスチナ人のことも視野に入れられてきます。

ところがセゲヴは、この「新しい」とされる潮流をひっくり返して見せます。いや実は、シオニズムは百年前の最初から、多くの矛盾と破綻を原理的に含んだ運動だったのだ、と。「ユダヤ人」はヨーロッパ各地と中東各地から入ってきており、民族や文化の背景は多様を極め、またシオニストの創始者らは宗教的でなく世俗と宗教が混在していた、というのです。実はシオニズムは最初からポストシオニズム的だったという仕掛け。だからこの本は、そもそもシオニズムとは何なのかを、つまりイスラエルの国家原理は何なのかを教えてくれる本です。

問題点を二つだけ挙げると、一つは、シオニズムの純粋幻想を批判したはずが、「最初からシオニズムは矛盾だらけの多様体だった」と言うことで、かえって「今の体制のままでイスラエルは多文化主義をやっていけるんだ」という開き直りにつながるのではないか、という点。もう一つは、ヘブライ語・アラビア語の英字転写をことごとく英語読みをしているため、固有名がひじょうに読みにくいこと。さらに内容的な誤訳も散見されます。

とはいえ、イスラエル国家を、ひいてはパレスチナ問題を理解するうえで、有意義であることは間違いありません。(早尾)

番外編

『戦争のつくりかた』りぼん・ぷろじぇくと
「いままで戦争をしてこなかった国がいつしか戦争のできるしくみを持つようになる、そのようすが淡々と描かれていきます。」(『戦争のつくりかた』紹介文より)

『茶色の朝』大月書店、フランク・パヴロフ文、ヴィンセント・ギャロ絵
極右政党が台頭したフランスで出版されベストセラーとなった反ファシズムの寓話の翻訳です。

いつの間にか、当たり前のように中東に日本の軍隊がいます。ニュースにもなりませんが、イラクだけではなく、1996年からずっとゴラン高原(イスラエルによるシリア占領地)にも駐留しています。2冊ともいま読みたい、広げたい新刊の絵本です。何となく、大きな反対もなく、 日本がどんどん怖い方向に進んでいくことに危機感を抱いている人たちが作っています。(皆川)