『ぜいとぅーん』26号(2006.9.13発行)


引き裂かれたイスラエル内のパレスチナ人

7月から8月にかけてのイスラエルによるレバノン侵攻と、それに対抗したヒズブッラーによるロケット攻撃のなかで、死亡した「イスラエル人」市民は約40人。だがそのうちの半数約20人が、イスラエル国籍を有するパレスチナ人、いわゆる「イスラエル・アラブ」であることはあまり知られていません。イスラエルは普段は徹底してアラブ人差別をしておきながら、「イスラエル国民の犠牲の大きさ」を訴えるため、被害報道においては都合よくアラブ人を区別しないからです。

ガリラヤ地方は、イスラエルが「建国」されて以降もなお、多くのパレスチナ人が住みつづけており、イスラエル国内でもっともパレスチナ人が多い地域であり、人口の2割を占めるアラブ・パレスチナ人の大半がこの地域に住んでいます。もちろんイスラエルは、国策として全土の「ユダヤ化」を押し進めており、とりわけガリラヤ地方のユダヤ化(ユダヤ人専用の町や会社の特権的開発と、パレスチナ人に対する妨害・差別)は「最重要課題」です。こうしたイスラエルのレイシズム的政策の結果、この地方のユダヤ人とパレスチナ人の割合は、およそ半々となってきています。その地域にヒズブッラーから雨霰のごとくミサイルが飛んでくるわけなので、犠牲者の半数がアラブ・パレスチナ人となることは必然的です。

だが、その犠牲者の存在は、ヒズブッラーに攻撃自制ないし戦略変更を促す要因とはならず、イスラエルに攻撃を受けるごとにヒズブッラーは無差別のイスラエル攻撃を強め、次々とパレスチナ人の死傷者が増えていきました。

他にもパレスチナ人の犠牲者が多くなる要因は考えられます。同北部地域のユダヤ人の町やキブツが、ミサイル到達の事前警報システムや、各家やアパートや地域にある地下シェルターなどを備えているのに対して、アラブ・パレスチナ人の村にはそうした設備がありません。また、ユダヤ人住民は、比較的容易にイスラエルの中部や南部や国外に避難できるのに対して、アラブ・パレスチナ人は行き場が少ない。ユダヤ人国家イスラエルの「望まれざる他者」であるアラブ・パレスチナ人住民を歓迎する町はないし、相対的に貧困なパレスチナ人らは家族全員で長期的に避難をする費用を捻出できません。

だが、実際に攻撃にさらされているイスラエル・アラブのパレスチナ人たちは、ヒズブッラーとイスラエル政府に対して、どう感じているか。もちろん個々人それぞれに温度差はあるし、それ以上に、その「本心」をうかがい知ることはいろいろな意味で難しい。実際、彼らはひじょうに微妙な立場に置かれており、不用意な発言は、単純化された色分けをもたらし、同じアラブ人としてヒズブッラー支持なのか、イスラエル国民としてイスラエル政府支持なのかという立場表明を求められる結果となる。イスラエル・アラブは、まさにその呼称どおり「引き裂かれている」のです。彼らは、現在さまざまな場面で、「国家への忠誠」という観点から疑念の目を向けられ、心ならずもイスラエル国民としてヒズブッラー批判を声高にしなければ、「非国民」として、「敵」として、白眼視されてしまいます。

しかし間違えてはならないのは、イスラエルの領土的野心と人種主義こそが、いまの事態をもたらしていることです。それによって、多くのレバノン人が犠牲にされているのと同時に、イスラエル領内のパレスチナ人もまた危険に晒されています。

(パレスチナ情報センターの「Staff Note」から再編集しました。早尾)


ガリラヤの友人から

私が東エルサレムに住んでいたころのルームメイトに、久しぶりに電話をしました。彼はガリラヤ地方に住むパレスチナ人で、イスラエル国籍を持っています。今年、エルサレムでの学業を終えて、故郷の村ラーミに戻りました。今度の戦争で、ヒズブッラーから何百発ものロケット攻撃を受けた地域なので、そのことについても彼に聞きました。

「幸いラーミ村の近くにはユダヤ人入植地がなく、うちの近くにはロケットは着弾しなかった」。ガリラヤ地方がイスラエル国家の領土であるにもかかわらず、彼が「ユダヤ人の町」ではなく「ユダヤ人入植地」と言ったのは、アラブ・パレスチナ人の村が数多くあるこの地方に対して、イスラエル政府が今現在も組織的なユダヤ人の入植政策(「ガリラヤのユダヤ化」)を進めているからです。

「でも、大きな入植地がすぐそばにあるマジダル・クルーム村はひどかった。知り合いも一人そこで巻き込まれて死んだけれど、本当に多くのロケットが着弾して、死傷者をたくさん出した」。

そういう事態について、イスラエルのアラブ・パレスチナ人たちはどう思っているのかを聞いてみました。

「もちろん自分は戦争自体を支持できないけれども、単純にヒズブッラーとイスラエルのどっちを支持するかっていう問題ではない。これはそもそもヒズブッラーとイスラエルの戦争ではなく、アメリカやシリアなどの利害が入り組んでいる。メディアが、ヒズブッラーの支持率とか、イスラエルの支持率について騒いでいるのは意味がない。自分たちアラブ人のなかにも、どちらかの支持を表明する人たちはいるけれども、たいがい利害関係からそうせざるをえなかったり、あるいは深い考えもなく言っているだけだったり。でも、実際に僕たちの立場は、いくつにも引き裂かれているし、そのことを直視するのは難しいことだ。」(早尾)

 

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