『ぜいとぅーん』30号(2007.10.4発行)


オススメ新刊本

ルティ・ジョスコヴィッツ『(増補新版)私のなかの「ユダヤ人」』(現代企画室、2007年、1680円)

この本には、人がどこかの国の「国民」であるとはどういうことかについて書かれてあります。私たちは自分のことを「日本人」だと信じてめったに疑いませんが、そうことは単純ではないのだ、ということをこの本は気づかせてくれます。

ルティさんは、1948年に建国されたばかりのイスラエル国家へ移住をしたユダヤ教徒の両親のもと、翌49年に生まれました。ポーランド出身のご両親は、ナチスの迫害を受け、旧ソ連領の収容所生活を経て、戦後にフランスに移住し、そこからさraに建国直後のイスラエルに再移住をしたのでした。

生活不安のためにわずか数年で、幼少のルティさんも含めて一家はイスラエルを離れ、フランスに戻ってしまいますが、両親はイスラエル国家を強固に信奉するシオニズム思想を捨てたわけではありませんでした。そのためルティさんら子どもたちは、当然イスラエルを熱烈に支持するシオニズム教育を受け、姉たちが成人後イスラエルに再渡航するのに続いて、ルティさんもイスラエルに渡航します。

しかし、そこで出会い、その後長く生活をともにすることとなったジャーナリストの広河隆一氏によって、信奉していたイスラエルの正統性を根底的に覆されます。ルティさんは、パレスチナの村の廃墟の上に自分が立っていることに気づき、反シオニストに転じ、そうして広河氏とともに日本に渡ります。1970年、ルティさん21歳のときのことです。

それから日本で11年、子どもも二人生まれ、日本語や生活習慣にも馴染んできたというときに、日本国籍取得いわゆる帰化申請は、法務省によって「同化不十分」という理由で却下。しかも重国籍を認めない法務省は、フランス国籍の離脱証明書を持ってこいと指示していたため、この時点でルティさんは「無国籍」になります。この体験は、ルティさんに、大きく二つのことに目を向けさせました。一つには、さまざまな法的制約から日本で無国籍状態に置かれている数十万人もの人びとの存在へ。もう一つは、自分自身のアイデンティティのルーツへ。

もちろんこの本の多くのページは、両親や祖先らの通ってきた過酷な迫害の歴史と、そしてイスラエルを批判する立場へ転じた自らの思索の軌跡に充てられています。しかしそれだけではなく、「国家とは?」「国民とは?」という普遍的な問いと、そして「イスラエルと同様に、血の繋がりによって単一民族を信じて疑わず、マイノリティ差別を続けている日本とは、日本人とは何か?」という問いをも発しているからこそ、この本は25年前の初版刊行以来、このたび三度目の刊行の運びとなりました。増補版での再刊を喜ぶとともに、一人でも多くの人に読んでもらいたいと思います。

* 一般の書店やパレスチナ・オリーブでお買い求め下さい。(早尾)

 

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