Challenge No.82(2003年11-12月号)
イスラエルの市民権法改正--アラブ人家族のあいだに走る壁--

ミハル・シュワルツ著


7月31日、クネセト(イスラエルの国会)は市民権法(1952年制定)を改正し、イスラエル国民の配偶者の市民権申請について、ヨルダン川西岸地区とガザ地区出身者については認めないことにした。この法改正は少なくとも1年間実施された後に、その後再改正される。これによっていま直接の影響を受ける人だけでも2万家族を超え、さらにそれ以上の人びとが結婚の可能性を阻害されることになる。


イスラエル国籍のアラブ系市民が占領地のパレスチナ人と結婚することを妨げる法律はイスラエルにはない。しかし、今度の新しい法改正は、そのアラブ系市民がイスラエルを離れないかぎり、パレスチナ人と結婚することを不可能にするものだ。家族統合のために設けられたあらゆる市民権取得手続が凍結され、それらはすでにイスラエル国内のアラブ人と結婚をしたパレスチナ人に影響を及ぼしている。さらに彼らは、非市民として、これ以上継続してイスラエル国内に住むことを禁じられてしまう。配偶者が長くイスラエルにいっしょに住んでいようと、子どもがイスラエルにいようと、家族統合に向けて順調に進んでいようと、そんなものは何ら助けにはならないのだ。

この新たな法改正は、こうした「混ざった」カップルに困難な選択を迫ることになる。イスラエルに住んでいる(占領地出身の)パレスチナ人は不法滞在となり地下に潜伏せざるをえなくなるか、あるいは家族がバラバラに別れるか、あるいは実はこれこそがこの法律の隠された意図であるように思われるのであるが、家族全員が土地を引き払って占領地へと引っ越すかである。

 

言葉のごまかし

この法改正の核心は、第二条に見られる。「この法律が効力を持つ期間中は、その地域の居住者に対して、内務大臣が市民権法に従って市民権を認めることはない。また、イスラエル入国に関する法律に従って居住する許可を与えることもない。軍の地区司令官が治安規則に従ってイスラエルに一晩滞在することを許可することもない。」

人種主義的な色合いをぼやかすために、この法改正は、「ニュースピーク」(訳者註:政治家が世論操作をするために用いる特異語法)によって書かれている。条文で特定の民族グループを名指すことはせずに、あるいはまた明確に「占領地のパレスチナ人」と記すこともなく、立法者らは「その地域の住民」とだけ書いたのだ。その「地域」とは、次のように定義される。「ユダヤ・サマリア(訳者註:西岸地区のイスラエルの呼称)、またはガザ地区」。しかしながら、そこでユダヤ人入植者らは別のカテゴリーに区分される。立法者らは次のように定義する。「その地域の住民の中で、イスラエルの場所に住む者は除く」と。

この法律は、占領地のパレスチナ人と結婚することを望んでいるイスラエル国籍のアラブ人すべてに対する集団的懲罰の手段となっている。彼らは誰とでも結婚ができる、ただし占領地のパレスチナ人だけは除いて。家族の尊厳という、国際法で基本的人権として認められている価値は、ここでは奇妙な形に刈り込まれてしまっているのだ。

だがこの法改正は、いくつかの例外を設けている。まずは対イスラエル協力者(コラボレーター)。つまり、「イスラエル国家並びにその目標と一体化し、治安、経済、その他国家の重要事項を前進させるために具体的な行動を取った者、およびその家族」。

また内務大臣もその裁量で、6ヶ月以内の滞在を希望する者に対してのみ、例外を認めることがある。

 

理由は人口統計

この法改正の提案者は、治安を根拠に正当化を行なっている。実際、前内務大臣のエリー・イシャイはすでに、2002年5月、つまりハイファのマッツァ・レストランでの自爆攻撃の後から、家族統合を求める申請者の手続きをすべて凍結していた。自爆の実行者が、イスラエル国籍のアラブ人女性と占領地出身のパレスチナ人男性のあいだの子どもであったからだ。

だがよく見てみれば、治安という口実は嘘であるということが分かる。この法改正の前からすでに、市民権を得るための手続きでは、あらゆる治安関係の懸念に十分に応えていた。実際、手続きにはさまざまな段階があって、平均でも4年以上かかっていた。この申請中の期間に、当局は、治安についてであれ犯罪についてであれ、ありとあらゆる可能要因を調査し、それでもって市民権を拒否することができたのだ(38ものセキュリティ・チェックを受けていた例がある)。この長期に渡る待機期間は、結婚が偽装か本物かを確かめるには十分である。

治安を理由とすることの反証はまだある。この新たな法改正は、パレスチナ人が労働や病気治療のためにイスラエルに入ることを妨げてはいない。そのために入ってくる人物は、「時限爆弾」とは見なされていないのである。だが、この法改正に従えば、その人物が家庭をつくろうと思った瞬間に、爆弾と化すということになる。こうして、占領地から来たパレスチナ人とロマンティックな関係になったイスラエル市民は誰でも、この法律によって、テロ行為を企む容疑者になってしまうのだ。折り紙付きの右派で知られるクネセト議員のルビィ・リヴリンでさえも、この点については法改正を批判している。「この法律は、誰もがそうではないと証明されるまでは有罪であると言っているようなものだ。」(クネセト内務委員会、6月21日)とはいえ、これでリヴリンが法改正に賛成投票をしなかったわけではないのだが。

法改正の動機は治安とは何の関係もなく、そのすべては《人口統計学》のためなのである(アラブ系市民は20年前にはイスラエルの人口の6分の1を占めていたが、現在では100万人を超える旧ソ連からの移民が流入したにもかかわらず、アラブ系市民の割合は5分の1になっている。訳者註:総人口は約650万人)。クネセト議員のギデオン・エズラは、7月29日の内務委員会の会合で、人口統計に関するカードをテーブルに並べてこう言った。「イスラエル国民が好み望む人びととだけともに住むことを可能にするようなユダヤ人国家を我々はつくる。イスラエル国家が受け入れる側の国家で、ユダヤ・サマリアが排出する側の国家であるなどというのは、とても考えられない。そして最終的にはユダヤ・サマリアから入植者らを引き上げさせるなんてことも考えられない。『こっそり帰還権』をここで作りだすつもりなど、イスラエル国家には毛頭ないし、政府は絶対にそんなことは認めない。」

 

アパルトヘイトへの道

治安という装いでもってこの法改正を取り繕うという目論見とは裏腹に、法改正は批判の嵐を迎えてしまっている。クネセト議員アフメド・ティービィは、西岸地区のトゥルカレム出身の女性と結婚しているが、彼の子どもは市民権を失うのかどうかと問うた。EUは公式の抗議を送付した(が、内政干渉であるという批判を受けることになった)。アメリカは、その法律がパレスチナ人差別になっていないかどうかを調査すると表明した。国連の反人種差別会議は、その法改正の撤回を求めた。だが、その嵐の予感は、53人の議員が賛成することをとどまらせはしなかった(対して、25名が反対をした)。議会でこの法案を導いたのは、内務大臣でシヌイのアヴラハム・ポラツであり、シヌイは、これで市民権がいっそう進歩したと誇ってさえいるのだ。

イスラエル市民権協会は、この法改正の施行を差し止めようと高等裁判所へと行ったが、しかし高裁はこの問題の審議を急ぐことなどまるでなかった。その対応ののろさは、良い前兆ではなかった。

それですべてではない。5月28日の『ハアレツ』によると、内務省はさらなる法改正を用意しており、片親が占領地出身である場合、その子どもへの自動的な市民権付与を拒否することを認めようとしているのだ。この新しい法案の推進者は、アリエル・シャロン首相と、国家保安期間のトップらだ。検事総長エリヤキム・ルービンシュタインも支持を表明している。

これらのどれ一つとして驚くべきことではない。すでに改正法案は議会を通過してしまった。そしてそれは、イスラエルとパレスチナ人を隔てる物理的な壁の設置ともピッタリと合致してしまっている。その壁もまた、治安という根拠でもって正当化されようとしているものだ。ティービィ議員が指摘していることであるが、この例において、壁は家族の権利のあいだを通過しているのだ。軍事行動のエスカレーションに歩調を合わせて、法律書のエスカレーションもまた進んでいる。イスラエルは100万人の(アラブ系)市民の結婚の可能性に制限をかけた。もしイスラエル外の他の場所でこのような法律が可決され、《ユダヤ人》の結婚可能性が制限を受けたとしたら、いったいどれほどの怒号が飛び交っただろうか!

(早尾貴紀訳)

 

ニュース・トップに戻る